第89話 夏季休暇明けの変化
「噂は本当かも知れませんわね」
「はい。お嬢様」
『世界からの通知』が聞こえて3日・・・つまり学園の2学期が始まった日、その午後の事です。
始業式が終わって寮へと帰って来た私達は、私の部屋にて『世界からの通知』について話していました。
「ウチもオトンが情報を独自に集めとったんを盗み見た結果、その説が濃厚になっとるらしいってのを見ましたね」
「実際今日も姿が見えませんでしたしね」
「ふふふ・・・もしかしたら関係あるかもですが・・・私の家に秘密で特殊な薬の発注が来ていました・・・パパは家族にも内緒にしている様でした・・・」
「その薬はどんな作用がある薬ですの?」
「ええっと・・・魔力を安定させるものですね・・・」
「ふむ・・・」
「あー、そういえばウチんとこにも、魔力関係の装飾品の問い合わせが来てたような・・・」
「魔力関係の装飾品というとマナタイトですか?・・・そういえば私の家でもここ2日あたりでマナタイトの名前をよく聞きましたね」
「ふむふむ・・・」
そんな事を話していると、寮の仕事があるからとまだ来ていなかったイリアスが姿を見せました。
「すいません!お待たせしました!」
「お疲れ様ですわイリアス。そんなに待っていませんから大丈夫ですわよ」
「はい!ありがとうございます!・・・ところで、ちょっと小耳に挿んだんですが・・・どうやらグウェル殿下が魔王に任命されたらしいですよ・・・」
「あら・・・貴女も知っているんですの?・・・っておかしいですわね?貴族でも一部しか知らない噂ですのに何故知っているんですの?」
「え?私の家の裏に綺麗なんだけど押しがつよいおばちゃんがいて、その人が教会に行った時に茶飲み友達の偉いさんから聞いたって言ってました。あ、因みにその話、私が旅行のお土産を届けに行った際に捕まってしまって、お茶を飲まされついでに無理矢理聞かされました」
「そうですの・・・」
「はい!」
(教会の方・・・そんな情報統制ゆるゆるでいいんですの!?処されますよ!?・・・いえ、そのおばちゃんとやらが凄すぎて口を滑らせてしまったのかもしれませんが・・・)
色々凄いなと感心してポカーンとしてしまいましたが・・・しかしこれで噂がほぼ確定だという事が解りました。
「今回の『世界からの通知』は・・・グウェル殿下が魔王になったという知らせでしたのね」
マルシア達からも話を聞いた結果、ほぼほぼそれは確定でしょう。・・・しかし私には1つ腑に落ちない点がありました。
それは・・・グウェル殿下が魔王に成るのが早すぎる点です。
(本来ならば2年後・・・私達が3年生の時にグウェル殿下は魔王に成るはずでしたのに・・・まぁ多少の誤差があるかもとは思っていましたけど、流石に早すぎではありませんの?)
ゲームとは違い現実は常に物事が流動するもの、ですのでグウェル殿下の体調や成長次第で多少は時期が早まるとは思っていましたが、流石にこれはその範疇を越えていると思われます。
なので何らかの要因がある筈なのですが・・・
(まさかイリス?いや・・・いくら彼女が主人公だからといって魔王に覚醒させるなんて能力はない筈ですわよね・・・?近い能力を持っているとはいえ、あれはあくまで魔王に対して作用する能力なので、魔王に成っていなかったグウェル殿下に作用する事はないはずですわ・・・)
その要因の1つとしてイリスを疑ってみましたが、それはないと思い直します。
なので他の要因を考えてみますが・・・
(さっぱり解りませんわね・・・)
グウェル殿下のレベルの所為かとも考えるも恐らくそんなものは誤差、なのでそれらの事を排していくと思い当たる事はありませんでした。
(ふぅ・・・結局の所解らない事はいくら考えても解らない、これですわね。なのでこの事は頭の隅に留めておく位にして置いておきましょう。その内ピースが揃えば解るかも知れませんもの)
何故グウェル殿下の魔王への覚醒が早まったのか、今はそれを考えても絶対的に情報も足らないでしょうから、この事は一旦置いておく事にしました。・・・それは、今は他に考えるべきことがあるからです。
その今考えるべき事とは・・・
「そう・・・今考えるべきは『グウェル殿下が魔王に成った事による影響』、こちらを考えるべきですわね」
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ここで一度グウェル殿下の情報を軽くおさらいしておきましょう。
名前は『グウェル・フォン・ファースタット』、このファースタット国の王太子の息子で、森属性の緑色の魔力を持つ者です。
彼には婚約者が居り、それはオーウェルス家の一人娘『マシェリー・フォン・オーウェルス』・・・まぁ私ですわね。
因みにこの婚約には、グウェル殿下が微妙な森属性持ちなために、家柄・魔力共に高い水準を持つ私をあてがいバランスを取るといった考えがありました。(まぁ実際にはそれ以外にも色々裏事情があるのですが、それは置いておきます)
そして他の情報としては、彼はファースタット国首都にある学園、その成績優秀者が集う1組に在籍する1年生。
後はそうですね・・・冒険者サークルに所属し、2つある内の班の班長を務める人物。
・・・こんな所でしょうか。
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「先日話したこれらですが、『グウェル殿下が魔王に成った事による影響』で変化が出て来る筈ですわ。昨日はこれらを話しただけで終わってしまいましたが、これらについて考えなければなりませんの」
「「「成程」」」
「まずはそうですわね・・・ああ、来ましたわね」
現在は始業式から1日経った9月2日の放課後で、私達が今いるのは冒険者サークルの部室でした。
「おや、もう来ていたのですな。・・・っと、マシェリーさんの班だけですかな?」
「ええ」
「ではもう少し待ちま・・・」
「こんにちはー」
「「「こんにちは!」」」
「と、来ましたな。では昼食を食べたばかりで眠たくなるかも知れませんが、新学期最初のミーティングを始めますぞ」
私達は半日授業を終えて部室にて待っていた・・・それが先程までの状況で、サークルメンバーが全員揃ったので、今からはミーティングの時間となります。
しかしです・・・そこにグウェル殿下の姿はありませんでした。
(まぁ授業にも欠席するのですから、サークル活動も勿論来ませんわよね)
新学期が始まっての授業の初めに『暫く殿下は家の事情にて欠席します』と連絡があったので解ってはいましたが、サークル活動もグウェル班は暫く1人欠員の様です。
恐らく今日のミーティングでもその事について触れられるはずですが、この事についてはグウェル殿下がいなくなった影響は出てこないかもしれません。
(精々班員が減ったからシフロート先生があちらに専任に着くか、減った人員の募集を行う位かしら?あぁ、班長がいなくなったので代理班長決めも必要ですわね。まぁサークル活動での影響はその位ですわよね?)
所詮この集まりはサークル活動ですのでそう考え、シフロート先生の話に集中する事にします。
そうして挨拶、前学期の総括、次へはどう繋げていくか等の話を終わった時・・・いよいよグウェル殿下の話が出てきました。
「えー、1組の方はもう聞いていると思いますし、他の方もメンバーの方に聞いたでしょうから知っていると思いますが・・・グウェル殿下が暫くお休みされますぞ。なのでグウェル班は代理の班長を選出するようにしてください」
「「「はい」」」
「それでですな、取りあえず私がグウェル班へと専任で着くことにしますが、グウェル班は1人少なくなりますので、人員の補充をしますかな?私が着くだけで十分というならばそれでもよいですぞ?」
シフロート先生は予想通りの事をグウェル班へと話しました。正直イリス達がどう答えるかは解りませんが、まぁどの様な選択をしても私達に影響はないでしょうからいいでしょう。
・・・と、そう思っている時期が私にもありました。
「先生!」
「なんですかなイリスさん?」
「正直マシェリーさん達って現在のままだと戦力過多だと思われます!なのでマシェリーさん達の班から私達の班へ1人来てもらってはどうでしょうか!」
「ふむ・・・」
「・・・え?」
「それでですね、実は私1人平民だと肩身が狭いって思っていたので、イリアスさんの移籍を希望します!」
「わ・・・私ですか!?」
「はい!平民同士力を合わせていきませんか?あ、因みにこれお近づきの印にどうぞ・・・」
「っは!?これはあの幻の名店のお菓子!?」
「ええ。実は私の知り合いがそこで働いていて・・・」
と、そんな風にあれよあれよという間に話が進んで行き・・・
「す・・・すいませんマシェリー様。あの・・・グウェル殿下が返って来るまでですから・・・」
「あーら、マシェリーさん。そんな顔をしてどうしたんですぅ?あぁ・・・別にイリアスさんを貴女から取っていこうとは考えてませんよぉ?えぇ、これっぽっちもそんなことは考えてませんともぉ(にたぁ」
「あ・・・あぁ・・・あぁぁぁ・・・」
私のイリアスが主人公にNTRされてしまいました。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「NTR!?」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いですの。
イイネ☆ブックマークがもらえると NTRの意味が家具屋のNTR(○)に変化いたしますわ。
マシェリーの一口メモ
【3章の副題は~NTRから始まる令嬢生活~になりますわ。・・・勿論嘘ですが!】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】