第8話 推しメン
前世で私にロマンスを教えてくれた方『ミカ姉』曰く、BLが嫌いな女などいない!との事。
今なら明らかにネタだと解りますが、当時は言われた時のその方の形相と知識の薄さから信じていたものです。
(その事が未だに頭に残っていたからこの作戦を決行したのですが・・・勝算はありますわ!)
私の勝算の要因、それは・・・この世界が乙女ゲーであるという点です。
(乙女ゲーの世界なら登場人物にBL好きの素養があっても不思議ではないですわよね!?そうでしょうミカ姉様!)
私は心の中でミカ姉様に問いかけ、考え込んでいる3人に再度尋ねます。
「さぁ・・・皆様の推しはどのカップリングですの!?」
毎回毎回マウント合戦とヨイショを聞かされるよりは、それぞれの推しカプについて話しているほうがまだ楽しめるというものですし、実の所女の子になった影響か、BLに対してもゲロゲロと言う程でも無くなりましたしね。
まぁだからと言って『男とにゃんにゃんしたいか?』と聞かれると全力でNO!と答えますが!
私は事前に仕入れた情報で、どのカップリングを言われても褒めれるように身構えながら答えを待ちます。
そうしていると、いよいよ1人の方が口を開きました。
「あ・・・あのマシェリー様・・・」
口を開いたのはマルシアでしたが・・・勝気そうな印象通り、率先して答えてくれる感じでしょうか?
「はい、マルシア様」
(さぁバッチコイですわ!)
どんなカップリングでもドンと来い!その掛け算解いてあげましょう!
私はそんな心持ちの元、もじもじして中々続きを喋ってくれないマルシアを待ちます。
焦れったくはありますが、自分の推しカプをはっきり言うのは恥ずかしいですものね。待ちますよ私は!
少々待っていると漸く決心がついたのか、マルシアが口を開きました。
「マシェリー様・・・私・・・」
(ゴクリ・・・)
「私・・・推し?のカップリング?と言うのが何か解りません」
「すいません・・・私もです・・・」
「うふふ・・・私も解りません・・・」
(ズ・・・ズコーーーーーーーーーーーーーー)
危なく昭和のコントみたいにズッコケるところでした!でも何とか心の中だけで済んだのでセーフでしょう。
しかし・・・解らないと来ましたか・・・。
「「「???」」」
3人の少女達は可愛らしく小首を傾げていますが・・・そうですよね。
よくよく考えるとこの3人はまだ年端もいかぬ少女、貴族社会でもまれて少々大人っぽいですが、恋や性の最初の一文字も知らぬ子どもでした。
(ミカ姉様・・・穢れを知らぬ乙女達には敗北するしかありませんでしたわ・・・)
遠くにいるミカ姉様を想い謝ると・・・不思議な事に心の中のミカ姉様が勝手に動き出してこう言いました。
『ユーそれなら乙女達に教えてあげなヨ』
(・・・え?)
『知らぬなら 教えてあげよう びーえるどう』
(・・・ふぁ!?)
心の中のミカ姉様は笑顔でサムズアップしながら歯をキラーンと光らせましたが、・・・え?・・・教えてあげるですって???
私はチラリと3人の無垢なる乙女を見ましたが・・・3人の乙女たちは「なんですか?」と悪役令嬢の取り巻きに相応しくない純粋な顔でこちらを見ています。
私にはこの子達を腐らすなんて事出来ません・・・。
(しかしそれなら如何しましょうかしら・・・完全に作戦失敗ですわ・・・)
私は3人に「お茶でも飲みながら少しだけ待ってて下さいまし」と告げてから考えます。
完全に作戦失敗となったわけですが、このまま放って置くと再びマウント合戦とヨイショで地獄の様なお茶会となりかねません。・・・それだけは勘弁ですね。
それならば作戦を練り直すしかない訳ですが・・・うーん・・・どうしたものでしょうか・・・。
私は知恵を振り絞りながら考えますが、中々いい案が出てきません。
(まぁそれと言うのも・・・私、この3人の事はあんまり知らないんですわよねぇ)
それぞれの家の事は多少知っていますが、3人が何を好きで何が嫌いか、それが全く解らないのです。
(・・・ん?いや待って下さい)
むむむ・・・と頭の中で唸っていると・・・私、気付いてしまいました。
(その事を私の方から振り、話題にすればよいのではありませんこと?)
気付いたのは凄く単純な事でした。親交を深めるためにお茶会を開いているのだから、親交を深めるために相手の事を知る為の話をすればいいのです。
(まぁ悪役令嬢のマシェリーは、その気が全くなかったらしいですが・・・)
よくよく記憶を探ってみれば、このマウント合戦とヨイショは転生前のマシェリーのせいだという事に気付きました。
彼女はこの3人にさほど興味がなく上辺だけの付き合いで良いと思っていたので、彼女達の趣味嗜好等を尋ねたこともありませんでした。
其の所為か、話題は他家や市勢の噂になり、やがてそれはマウント合戦になりヨイショとなった、という訳っぽいです。
(まさか自分がこんな地獄を作り出していたとは・・・流石悪役令嬢マシェリーですわ・・・)
自分で自分に慄きましたが・・・光は見えました!
私は彼女達に彼女達自身の事を尋ね、彼女達を悪役令嬢の『取り巻き』から普通の『友達』へと変えていこうと思い、考え込むのを止めて彼女達の方を見ました。
「皆様!私皆様の・・・」
皆様の事が知りたいですわ、と言いかけた所で、私はポカーンとして口を開けてしまいました。
何故かって?
それは・・・
「カッコいいのは絶対赤の魔王様です!騎士団長何てただのおじさんじゃありませんか!」
「いいえ!断然吟遊詩人のギルバート様です!赤の魔王なんて粗暴な野蛮人です!」
「ふぅ・・・騎士団長様の渋さが解らないとは残念な方達です・・・。因みに私はギルバートさんはチャラチャラしているだけの軽薄男なので好きじゃありません・・・」
「なんですって!?」
「なんですか!?」
「ふふふ・・・」
何故か私が考え込んでいる間に推し戦争が始まっていたからです。
(え・・・えぇぇぇええええ!?ちょっと目を離している内に何がありましたの!?)
私は問いかける様に使用人達に目を向けたのですが・・・
(えぇ・・・使用人達までちょっと目があれになってますわぁ・・・)
ここにいる使用人は全て女性・・・所謂メイドなのですが、その者達まで推し戦争に熱くなっている様でした。
(ハハハ・・・どーしてこーなった・・・ですわ)
私が現実逃避するように遠い空を見つめると、そこにはミカ姉様が微笑んでいました。
『女という者は幼くても女なのよ玲ちゃん』
はい・・・。
マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。
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☆がもらえると 推しが、喜びますわ!
マシェリーの一口メモ
【使用人やメイド、詳しく分けると違うモノかもしれませんが、作品によって様々であり、諸説あったりしますわ。本作ではメイドや執事、庭師等もひっくるめて使用人と表現いたしますわ。といっても、メイド長や執事長も出て来るかも知れないのですが、そこは勘弁ですわ。】