第72話 学園の裏支配者を倒す2
『んんー・・・いい表情だなぁ?その表情のまま・・・死ね』
「防いでノワール」
「畏まりました『闇の防御膜』」
ジェレミアン達が剣を振り上げた瞬間私がノワールへと合図を送ると、ノワールは魔法を使って今にも首を切られそうな親子の首を防御します。
その際に首がキュッと締まってしまい親子は気絶してしまったようですが・・・まぁ命に別状はないのでいいでしょう。
私は使っていた魔道具を止めて声を上げます。
「はいカットー!ですわ」
潜んでいた私がそう言いながら姿を現すと、ジェレミアンは何が起こったか解らないといった顔をしていました。
このまま猶予を与えてジェレミアンが現状を把握すると面倒なことになる為、その前に指示を出して体勢を整えます。
「ノワールはあの親子を、他は奴らの攻撃に備えて警戒ですわ」
「はいお嬢様。『闇の大腕』」
「「「はい」」」
私が指示を出すと、ノワールは直ぐに魔法を使い気絶している親子を回収、その他のメンバーはジェレミアン達からの攻撃に備える為に武器を構えます。
(やれやれ、これで一息つけますわね。ジェレミアンの動きまではコントロール出来ないから気を使いましたわ。・・・というか彼、かなりのドグサレ坊ちゃんですわね。あの感じからするに、既に多数の人を殺してますわ)
ジェレミアンが建てた作戦は、『ターゲットは山道を通るのでそこを襲撃する。主に実行は我々が、マシェリー嬢達は少し離れた位置でもしもの時のバックアップを』という凄く曖昧なモノでした。
その為細かいジェレミアン達の動きが解らなかったので、今の今まで私達は気を張っていたわけです。
(ふぅ・・・後はこの場を治めればいいですわね。・・・大人しく引き下がるかしら?)
多分大人しく引き下がらないだろうなと考えていると、呆けていたジェレミアンが正気を取り戻したのか話しかけてきました。
「ま・・・マシェリー嬢?これは一体どういう事だぃ?」
「どういう事も何も、見たままですわ?」
「・・・は?」
「だから、貴方が殺そうとした親子を私達が助けたんですの、解りまして?」
「・・・何故そんな貴族モドキを助けたんだ?」
「それは勿論・・・罪なき方々に害が及ぶのを見過ごせなかったからですわ。後は貴方を裁く為の証人とする為ですわね」
私がそこまで言うと流石に裏切られたのを理解したらしいのですが、喚き散らすのは彼のプライドが許さなかったのか冷静な風を装い喋ります。
「や・・・やれやれ、何を言っているんですぁマシェリー嬢?真なる貴族以外は存在しているだけで罪みたいなものでしょう?だから俺がそいつらを罰そうとしていたのですよぉ?それにです・・・証人も何も、公爵家の俺が何もないと言えば何もなかったことになるのですよぉ?例え貴女が騒ぎ立てたとて・・・ね」
ジェレミアンは勝算があるのか、何時もの如くペラペラと喋っていました。
確かに私1人が騒いだとて封殺される可能性がありますし、彼の切り札である予め書かせた契約書を使えばオーウェルス家とて黙らねばならないかもしれません。
しかしです・・・
「契約書があるからと安心しているなら甘いですし、それ以外の手も打ってありますわよ。ほら、コレですわ」
「・・・契約書はちゃんと家に保管してある筈だが・・・というかそれは何だ?」
ジェレミアンは契約書の所在を思い出した後、私が持っていた魔道具へと興味を向けました。
「・・・気になりますの?」
「そりゃぁ気になるだろう?」
「オーッホッホッホ!よろしくてよ!見せて差し上げますわっ!」
私は持っていた魔道具を弄った後、スイッチを押しました。
「よくご覧あそばせっ!これが私の開発した『記憶君』ですわっ!」
『ヴィーン・・・バカ野郎!襲・・・・剣を捨てて抵抗を止め・・・・今なぜこんな所に高貴なジェレミア・・・・その表情のまま・・・死ね』
私の持っていた『記憶君』は次々と録画されていた映像を宙へと映し出し、この場であった一部始終を再生しました。
(オホホ!ポカーンとしてますわね!)
この『記録君』は私が開発した画期的魔道具で、常々声を大にして『私が作りました!』と自慢したかったんですよね。・・・といっても採って来た『記憶球』を工房に渡して『こういうの作ってくださる?』と言っただけですが。
まぁそれは置いておき・・・『記憶君』がこの場であったことの再生を終えると、最初はポカーンとした表情だったジェレミアンはププッと笑い始めました。
「アッハッハ!何かと思ったらこんな玩具を見せてぇ・・・アッハッハ!」
「何を笑ってらっしゃるの?」
「そりゃ笑うだろぉ?こんな玩具、何の証拠にもならないだろぉ。なぁお前らぁ?」
「「「確かにそうだ!アハハ!」」」
どうやらジェレミアンは『記録君』を見て『こんな玩具誰が信じる?』と笑っていますが・・・少々甘いのでは?
「ジェレミアン様?この『記憶君』、魔法省や商業省でちゃんと登録されて認められてますわよ?ついでに言えば王族や一部の貴族も絶賛してましたわ?」
「・・・は?」
「まぁつまり・・・事前に根回しをしてあるので『ここに記録されている事は証拠として通用する』と国が認定するという事ですわ。まぁ平民が貴族に対して行うと握りつぶされたりしますが、同爵位ですと・・・」
「は・・・はぁぁぁああ!?」
それまで余裕顔だったジェレミアンでしたが、私の話を理解したのか大声を上げ、それまでの態度とは一変して荒々しい感じになりました。
「馬鹿なっ!?そんな物があるなら俺が知らないはずないだろう!?嘘を言ってるんじゃねぇ!」
「まぁ最近の事ですし、販売もまだ限定的で極々一部しかしておりませんもの。それに購入者には未だ『記憶君』の存在を広めないと制約も付けていますし」
「なっ!?」
「後はジェレミアン様の周りには情報が行かない様にシャットアウトしておりましたの。だから知らなくても当然なのですわ」
「なっ・・・!クソがぁぁあ!」
まぁ『記録君』はジェレミアンを嵌めるためだけに開発した・・・という訳ではないですが、開発した半分くらいの理由ではありますからね。知られない様に細心の注意を払いましたとも。
「という訳で・・・大人しく裁かれるために捕まってくださる?」
「・・・」
種明かしなども終わり、そろそろ幕を引きたかったのでジェレミアンへと投降するように呼びかけますが、返事がありません。
大体この後の展開は読めますが、どうなるか待ってみましょう。
私が腕を組んで待っていると、ジェレミアンがクックックと笑い始めました。
「クゥーッハッハッハ!マシェリー嬢・・・いや、マシェリー!」
「はいはい?」
「うだうだ言っているがなぁ・・・それを奪ってお前らを皆殺しにしてしまえばなんとでもなるんだよぉ!おい!お前らぁ!」
「「「おう!」」」
ジェレミアンはニタァ~と笑った後に手下達に声をかけ、戦闘準備をさせましたが、準備をさせただけで未だこちらへと攻撃を仕掛けてくる様子がありませんでした。
まだ何かあるのかと思ってみていると、ジェレミアンは『ニチャァ・・・』とでも聞こえて来るかのような笑みを浮かべました。
「ふひひ・・・マシェリー、今降参するなら命は助けてやるぞぉ?」
「そうですの?」
「あぁそうさぁ・・・まぁ、俺のペットとしてだがなぁ?毎日可愛がってやるぜぇ?ふひひ・・・」
この方、期待を裏切らない下衆さですわねと思っていると、なにやら周りから『ギリィ・・・ギリィ・・・』という音が聞こえてきました。
一体何の音だろうと思っていると・・・
「「「オネエサマニタイシテナントイウ・・・イカシテオケヌ」」」
「お嬢様をペットにだと・・・?・・・うらやま・・・いえ、許しません」
「私も流石に許せそうにないデス!」
その音は5人の鬼が歯を軋ませている音でした。・・・ってノワール、羨ましいって何がです?
「まぁ・・・私の出る幕はなさそうですわね」
ノワールのおかしな呟きはともかく、私が手を出すまでもなさそうです。
5人の鬼がそれぞれの獲物を構えながらジェレミアン達に近づいて行くのを見て、私はジェレミアン達の冥福を祈る事にしました。
マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「記憶君て・・・」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いですわ。
イイネ☆ブックマークがもらえると 記憶ちゃんになりますわ。
マシェリーの一口メモ
【作者にネーミングセンスが無いのは何時もの事ですわ。】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】




