第71話 学園の裏支配者を倒す1
8月8日、良く晴れた日の早朝、私達はある一軒の店の前に居ました。
その店には『飯屋』と看板が掛かっていましたが、中に入ると飲食店という感じはせず、テーブルとイスが数組置かれているだけの店でした。
「やぁ、いらっしゃいマシェリー嬢」
「ごきげんよう、ジェレミアン様」
そして私達が店の中に入ると既にジェレミアン一派が居り、挨拶をしてきたのでこちらも返します。
「まぁ座ってくれたまえ。おい、マシェリー嬢にお茶をお出しろぉ」
「いえ、結構ですわ。それよりもターゲットがいつ動くとも限りませんわ。こちらも準備いたしませんこと?」
「ふむ・・・まぁそうですねぇ。では終わった後にゆっくりとお茶でもしましょうか」
相変わらず厭らしい視線を向けながらお茶を飲もうと誘ってきましたが・・・ノーサンキューです!
なので事を起こす大体の時間は決まっていましたがそれを前倒しし、動く様に促します。
するとあちらも、ターゲットが不測の動きを見せるかもしれないと解っていたのか、すんなりと動く事を了承しました。・・・まぁ『終わったらお茶しようぜ?』としつこく誘ってはきましたが。
お茶しようぜ攻撃を曖昧な笑みで躱しながら私達は店を出て、ジェレミアン達を置いて先に現場へと先行します。
これは大勢で動くと目立つので時間をずらす為と、単純に二手に分かれるからです。
私達は朝の騒がしい街を抜け、外へと向かって行きました。
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「しかしマシェリー様は流石ですね」
「何がですの・・・?」
計画した現場に身を潜めているとあまりに暇だったのかイリアスが小声で話しかけてきました。
「学園の裏支配者でしたっけ?そんな悪者を学園の皆の為に倒そうだなんて、やっぱりマシェリー様は凄いなぁと思ったんです」
「あー・・・まぁ、そうですわね。普段悪ぶった行動をしているので、そのお詫びみたいなものですわ。オホホホ」
私が『悪は許さぬ(キリッ』みたいな返答をすると『マシェリー様はやっぱり素敵すぎますぅ!』みたいな目で見てきましたが・・・すいません、実は報酬目当てが9割、ジェレミアンが目障りになりそうだったからが1割です。
この『学園の裏支配者』というサブストーリー・・・実は報酬アイテムがとてもいいもので、ロマンスプレイヤーがこのサブストーリーをやる理由は『悪い奴だジェレミアン。お前を倒して学園を平和にするっ!』等ではありません。
ではどんな理由かというと・・・『報酬の為に糧となれジェレミアン!』、こちらでしょう。
(だって報酬がミスリルですわよ?ミスリル!やるしかないじゃありませんの!)
ミスリルとはRPGパートで長く使える良武器の素材で、このサブストーリー以外では終盤のダンジョンに行くしか手に入れる方法がありません。
なので是非ともこのサブストーリーを終わらせて、ジェレミアンからミスリルを奪わなくてはいけません。
(待っているんですわよ!私のミスリルちゃん!直ぐに迎えに行きますわ!・・・そのためにこの計画は成功させたい所ですわね)
この計画を大まかに説明しますと・・・
1学期の終業式後にジェレミアンが私達を呼び出したのですが、そこで言われたのが『貴族とも呼べない者共が調子づいている、そいつらを教育するので手伝ってくれ』でした。
私達はこれを手伝うフリをして、ジェレミアン達が貴族へと襲撃をしている証拠をつかんで裁きを降し報酬を頂く、これが計画です。
本来のサブストーリー『学園の裏支配者』ですと、もう少しあくどい事をしているジェレミアンを公式な組織に引き渡して終了となるのですが、私の場合は実家の伝手を使ってちょいちょいっとやってしまうつもりです。
(なのでこんな早い時期にこのサブストーリーを出来るんですけどねー・・・っと、来ましたわね)
何時の間にか時間になっていたのか、ターゲットがやってきました。
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≪side 貴族ビー≫
俺はとある貴族家の長男、だが特に偉いという訳でもないので貴族Bとでも呼んでくれ。
さて、今俺は親父と共に実家所有の山から馬車で物資を運搬している。・・・と言っても、荷台に乗っているだけなのだが。
「しかし親父、何だって俺達が物資の運搬を?何時もみたいに部下に任せればいいじゃないか?」
「ん?あぁ、物資が物資だしな。他に任すのもな」
「そうか・・・?まぁいいか」
「あぁ、それより荷台の荷物見といてくれよ?その為にお前を乗せてるんだからな?」
暇だったので御者をしている親父に話しかけたが、ちゃんと荷物を見とけとシッシと手で追いやられる。
再び荷台へと追いやられた俺は荷物にもたれかかりながら考え事をする。
考えるのは残りの休みを何するかと、学園で見かけた可愛いあの子の事だ。
「残りの休みは・・・20日程か。もうちょっと仕事を手伝えって事だから・・・ぼちぼち宿題もやらなきゃいけないか。それにしても・・・へへ・・・あの子どこの子だろう。平民だったらワンチャンあるかもしれないけど、まぁ違うよな。平民だっ・・・あだっ!?」
考え事をしていると急に馬車が止まり、俺は頭を打ってしまう。
「何だよ親父ぃ・・・運転荒いぜ・・・」
俺が文句を言いつつ御者席を見ると・・・
「バカ野郎!襲撃だっ!」
「・・・は!?」
親父は既に御者席から降りて襲撃者とやらに剣を向けていたので、俺も慌てて馬車から飛び降りて親父に合流する。
「襲撃って何だよ親父!?山賊なんてこの山にいたのか!?」
「いねぇ!・・・筈だったんだがな。こんな所でやってても旨みはねぇはずだし」
「だよな!?」
今現在物資を運んではいたが、これは極極最近始めた新規事業の物。山賊が出るにしても耳が早すぎだろう。
しかしだ、確かに目の前には覆面を被り剣を構えた山賊らしきものがいる。こういう時はどうしたら・・・と親父に指示を仰ごうとすると、山賊の中から1人前に出て来た。
「剣を捨てて抵抗を止めろ。そうすれば命は奪わない」
俺が何か言う訳にもいかないので親父を見ると、親父は・・・笑みを浮かべていた。
こんな状況でなに笑ってるんだよ!?と思ったが、次の親父の行動でその意味が分かった。
「何を馬鹿な事を・・・俺らを襲ったのが運の尽きだったな。『土の矢』!」
親父は魔法を使ったが・・・そうか、普通の山賊ならば魔法を使える事は稀だろう。ならば魔法が使える貴族の俺達が断然有利か。
俺は焦っていた事が恥ずかしくなり、これで終わりだなと余裕を見せていたのだが・・・
「『土の壁』!」
「「なにっ!?」」
相手も魔法を使い、親父の魔法を防御してしまった。
これには親父も焦ってしまい、何も考えられなくなったのだろう。
「『土の拘束』!」
「むっ!?」
「うわっ!?」
親父は隙を晒してしまい、その間に敵から拘束攻撃を受けてしまった。
そして相手は魔法使いの事をよく知っているのだろう、親父と俺に猿轡を噛ませてきた。
「んぐっ!んぐぐぐ!」
「んご!んごごご!」
こうなれば魔法を使えないため、俺と親父はなすすべがなくなってしまった。
それを見てもう無力だと思ったのだろう、敵の1人が覆面を取って近づいてきた。
「いきなり攻撃をしてくるとは野蛮だねぇ。これだから貴族モドキなのだよお前も、お前の父親も」
「んごごごん!?」
そいつの顔は見たことがあったのでつい叫んでしまう。
そいつの名はジェレミアン・フォン・ナームアムル、公爵家の人間で、家の権威を鼻にかける嫌な奴だ。
(しかし何故奴がこんなところでこんな事を・・・?)
俺が不思議に思っていると、ジェレミアンはヤレヤレといった感じで肩を竦めて来た。
「今なぜこんな所に高貴なジェレミアン様が?と思ったのだろぉ?仕方がないから教えてあげようじゃないかぁ」
いや、こんな所に何故『クソ野郎が?』と思ったのだが・・・?
しかしそんな事は伝わるわけもなく、ジェレミアンはペラペラと何かを喋り始めた。
それはあまりに長く、余計な事も喋っていたので解りづらかったのだが要約すると・・・
『俺が狙っている女をジロジロ見てやがったな?むかつくから死刑。後なんか旨みになる事業開始しそうじゃん?ラッキー』
らしい。
(こ・・・コイツやっぱりクソ野郎過ぎる!?)
俺と同じような事を親父も思ったのか、『何言ってんだコイツ?』みたいな顔をしていた。
「おいおい・・・なんだぁその顔はぁ?やっぱり死刑だなぁ。おい、お前は父親の方をやれ」
「はい」
俺達の顔が奴の癪に障ったのだろう、奴らは剣を持ちながら近づいてきた。
最初は『抵抗しなければ命は奪わない』とか言っていたが、コイツの性格からして元から俺達は殺すつもりだったのだろう。そう思ったものの体を拘束されて猿轡もかまされた状態では何もできない。
俺が近づいて来るジェレミアンに恐怖を覚えて体を震わせていると気分が良くなったのか、ジェレミアンは笑みを浮かべた。
「んんー・・・いい表情だなぁ?その表情のまま・・・死ね」
そして笑みを浮かべたまま俺の首へと剣を振り下ろし・・・衝撃と同時に俺の意識は失われた。
マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「貴族ビィィイイイイ!」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いですわ。
この物語は現在コンテストに参加しておりますの。なのでイイネ☆ブックマークがもらえると 貴族ビーはデュラハンとなって蘇りますわ。
マシェリーの一口メモ
【魔法が使えるならば、賊よりも冒険者になる人の方が多いので、前に出ていたカラーズの様な魔法が使える賊はかなりレアですわ。】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】




