第38話 襲い来る恐怖と見えて来た希望
太い四肢に獲物を狙う鋭い目つき、大きさも私達の3倍ほどはありそうなそれは、猫というよりは虎と言った方が良かったのかもしれません。
そんな生物・・・魔物が私達の前に現れたのです。
(ぐっ・・・私はとことん迂闊ですわっ!街の外にはこんなのが沢山いるって知ってましたのに!)
魔物、それは自然に堆積する魔力から生まれる存在・・・と、ロマンスの設定ではなっています。
この世界で人以外の動物は皆魔物と呼ばれ、人の生息地である街の外へと出ると無数に存在し、一部は地球の牛や豚の様に家畜化されたりもしていますが、大体の魔物は目の前に存在する『森大猫』の様に獰猛かつ狂暴で、積極的に人を襲ったりする存在です。
「グロルルルル」
「「「・・・っ!」」」
「3人とも・・・ゆっくりと私の後ろへ・・・」
森大猫は威嚇なのかそれとも獲物を見つけて喜んでいるのか、恐怖をあおる様な音で喉を鳴らしてきます。
その音に3人の少女は恐怖し、私の背からは震えが伝わってきました。
(警戒心が高いのかまだ様子を見ている様ですわね・・・今のうちに魔法を打ち込んで攻撃を仕掛けるべきかしら・・・)
相手はあまり人間を見たことが無かったのか、私達を警戒している様なそぶりで様子を見ています。
ならばここはやられる前にやるしかないと、丁度背中に3人が手を当てているので魔法を使って撃退する事にします。
(ゲームだと確か弱点が火なはずですが・・・)
ロマンスの情報を参考にするならば、森大猫:属性『森』の弱点属性は『火』となっており、現実でも火ならば大体の生物に有効なはずです。
という事で、マルシアの属性である火を借りて魔法攻撃を仕掛ける事にしました。
「今から魔法攻撃を仕掛けますわ・・・一応注意してくださいまし・・・」
魔法の余波がこちらまで来るかもしれないので、念の為に忠告をしてから火魔法を発動させるためのキーワードを口にします。
「いきますわよ『火の矢』!」
『消音』『闇纏い』が使えたので、これも使えるだろうと火魔法の初歩的な攻撃魔法を選択し、森大猫へ攻撃をしかけます。
魔力が突き出した右手に集まり出し、狙い通り発動しそうになっていたのですが・・・
「え・・・?あら・・・?」
『ギギ・・・バヂヂッ・・・ギュゴォ』
捕まっていた部屋で火魔法の『着火』を使った時は、赤の魔力が右手に集まった後発動したのですが、今は何故か赤・黄・青と3色の魔力が右手に集まって混ざり合い、何やら変な音を立て始めました。
(え・・・?まさか・・・?)
私は背に感じる3つの手の感触に冷や汗が出てきました。
(嘘ですわよねっ!?そんな事聞いてませんわよっ!?)
恐らく私の不安定で未熟な魔法発動方法のせいだと思いますが、普通赤の魔力だけを使わなければいけないところを、サマンサとシーラも私に触れているせいで黄と青の魔力も発生・使用してしまい、結果暴走現象を引き起こしてしまったのだと思われました。
『ギュギッ・・・ゴゴ・・・ブゥゥゥン』
「あ・・・やばいですわ・・・」
「マ・・・マシェリー様?」
「お姉様・・・何か変な音が聞こえるんですが?」
「・・・一体何が・・・?」
「な・・・なんでもないですわ~!っそいっ!!」
幸いにも背に隠れた3人からは何が起こっているのか見えていなかったので、私は証拠隠滅と、変な感じが極まってきて危険を感じていた為、変な反応を起こしている魔力の塊を森大猫へと無理矢理放ちました。
結果・・・
「グロルル?『ギュゥゥン・・・カッ・・・ズゥゥゥゥゥゥゥン』
放った魔力は森大猫を巻き込んで、変な音を立てながら圧縮して大爆発しました。
私達といえば、私が魔力を放った後直ぐ3人を地面に押し倒し、緊急用に入れてあった防御魔道具を発動させたことによりなんとか無事でした。
しかし・・・辺り一帯にあった木等は消滅し、魔力の暴走現象の凄まじさをありありと示していました。
(た・・・確かにこれを見ると、ノワールの忠告が正しかった事が解りますわね!ってそんな場合ではないですわ!)
「皆様!急いで移動しますわよ!」
私は慌てて立ち上がり、自分達の被害状況と方角を確認します。
倒れたままの3人は未だ状況がつかめていないようで、ポカーンとした表情をしていましたが、私の慌てて動く姿を見て何かを感じたのか、スッと立ち上がり自分に怪我がないか等を確かめ始めました。
「よし!私は問題ありませんわ!貴女達は!?」
「「「大丈夫です!」」」
「なら急ぎますわよ!今の音で魔物・・・そしてあの盗賊団の連中も集まってくるかもしれませんわ!」
「「「!!」」」
これだけ大きな音を立てたのです、魔物の方はもしかしたら危険を感じて近寄らないかもしれませんが、盗賊団の方は眠りから覚めてしまうでしょう。
そうすると何があったかを把握する為に動くかもしれませんし、そのついでに私達の事を確かめるかもしれません。
「ここからは休憩は最低限にしますわ!出発!」
「「「はい!」」」
3人も私が考えていた事と同じことを考えたのか、先程と少し様子が違い暗い森に対しての恐怖が少し消えていました。
ですがそれも暫くすると、冷静になって再び暗い森への恐怖心が沸き出て来るかも知れません。
(私も同じことが言えるかもしれませんし・・・それまでに距離を稼ぎたい所ですわ!)
私達は夜の森や魔物、そして盗賊団の追手という恐怖を一時忘れ、早足になりながら夜の森を進んで行きました。
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エスパーノワールにより授けられたアイテムボックスの魔道具、この中には何を想定していたのか魔物避けになる匂い袋というモノが入っていました。
先に気付いていたら良かったのですが、魔物の存在をすっかり失念していた私の迂闊さを呪いたい所です。
ですが漸くそれに気付いたおかげで、魔物と言う恐怖から逃れられ、今また1つ・・・いえ、2つの恐怖が消えようとしていました。
「ふぅ・・・ふぅ・・・空が白んできましたわね・・・」
私達は休憩を入れつつですが歩き続け、今日の出を迎えていました。これほどまでに歩けるとは、人間やればできるものです。
「ええ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・やりましたねマシェリー様・・・」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・でも流石に・・・疲れました・・・」
「・・・たしかに・・・です・・・ふぅ・・・。・・・!?・・・マシェリー様、あれって・・・」
バテバテになって休憩していたところ、シーラが何かを発見したのでそちらを向きますが、特に何も見当たりません。
「ふぅ・・・ふぅ・・・何かありまして?・・・私には・・・何も・・・見え・・・見え!」
しかしジッと見ていると、シーラが言っている事が解りました。
森の切れ目です!
「ナイス報告ですわシーラ!・・・ってそう言えば、マルシア様とシーラ様の事、ずっと呼び捨てにしていましたわね・・・今更ながらごめんなさいね2人共?」
「いいえ、全然問題ないですよ!ね?シーラ?」
「ふふ・・・そうですよマシェリー様・・・。・・・寧ろ呼び捨てにしてもらった方が、親しくなったみたいでいいです・・・ふふ・・・」
今更ながら自分の失態に気付いて謝ると、2人は快く許してくれ、あまつさえそのまま呼び捨てにしてくれと言ってきます。
それに少し嬉しくなり、気力が沸いてきたところでもうひと踏ん張りしようと声を掛ける事にしました。
「ありがとうございますわマルシア、シーラ。これからはそう呼ばさせてもらいますわね。そして早速呼ばさせてもらいますが、マルシア、シーラ、そしてサマンサ、もう少しだけ頑張りますわよ!あの切れ目の先を見て、街道だったらどっちが街かの辺り位はつけますわよ!」
そこから先は見てからになりますが、知っている場所で街が近そうならそのまま進み、知らない場所なら長時間の休憩を取る、そう提案しようかなと考えました。
「解りましたマシェリー様!あ、私は変わらずそう呼ばさせてもらいます」
「ふふ・・・私も同じくです・・・」
「私はお姉様と呼ばさせてもらいますからね!そしてマルシアとシーラ!お姉様と一番親しいのは私ですから!そこの所は覚えておいてくださいね!」
3人に了承を貰い、サマンサの発言で場が少し和やかになったところで私達は立ち上がり、森の切れ目に向けて歩き出します。
(漸く帰れそうですわね・・・魔物もそうですが、カラーズが追ってこなくて助かりましたわ)
後々には誰にも負けない実力を身に着け、『私に全てを任せなさい!オーッホッホッホ!』と言いたい所ですが、今はせいぜい『私が何とか守って見せますわ!』くらいしか言えないので、出た場所次第では肩の荷が下りて気楽になれそうでした。
(さて・・・知っている場所で街が近ければいいのですが・・・)
いよいよ森の切れ目が近くなってきたと思っていた時・・・
『ッツ゛ア゛ア゛ア゛゛ァァァ!』
明るくなってきた森に・・・悲鳴が響き渡りました。
マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「トラトラトラ!」等思ったら、☆で評価やブックマークをして応援してくだされば幸いですわ。
☆がもらえると 私がアナタを猫として可愛がってあげますわ。
マシェリーの一口メモ
【森大猫は太い四肢に鋭い目つきと大きな体を持っておりますが、さらりとした毛にふわりとした尻尾、そして顔は目つき以外は可愛いという、とってもキュートな存在なのですわ。・・・見るだけならね!】
マシェリーより宣伝
【今更ながら作者の作品紹介ですの。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますわ。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】