第26話 未来を思う
体が内側から焼かれ、最後は爆散したのを感じて私は慌てて自分の体をぎゅっと抱きしめました。
「むぎゅぅ・・・お姉様ぁ・・・」
「ふぇ・・・」
しかし私の手は自分ではなく前方にあったモノ・・・サマンサの体を抱きしめていました。
そこで私は初めて気づきます。
(あぁ~・・・夢でしたのね。でもあれは確か・・・)
私はロマンスにある無数のルート、そのある1ルートでの悪役令嬢の物語をリアルな夢として見ていた様でした。
(あれは主人公が赤の魔王ルートに入った時の一幕だったはずですわね・・・。最近フレッドと会ったからあんな夢を見てしまったのかしら・・・?いえ、それとも・・・)
私はすぐ目の前でスヤスヤと幸せそうに寝ている少女を見てしまいます。
大概どのルートでも悪役令嬢の取り巻きとして登場するマルシア、サマンサ、シーラの信号機トリオ、彼女達の最後はホボあんな感じで終わりを迎え、運よく生き残っても流刑地に追放となります。
色々事情があって悪役令嬢の取り巻きをしていた彼女達ですが・・・やはり今も実家とオーウェルス家との柵があるから私と仲良くしているのかもしれない、時々そんな事を考えてしまいます。
(そうだったら・・・少し悲しいですわね。でも・・・)
悪役令嬢はこの子達に対して『ただの駒』としてしか見ていませんでしたが、今の私は『お友達』と思っています。
そんな一方的にお友達だと思っている彼女達ですが、このまま付き合っているともしかしたら夢の様な事も起きてしまうかもしれません。
(私だけでもお友達と思っているなら、万が一のことを考えて距離を置くように考えるべきかもしれませんわね・・・)
だから家と家の柵で仲良くしているなら距離を置こう・・・そう考えたのですが・・・
「えへへ・・・おねえしゃま・・・しゅきぃ・・・」
「サマンサ・・・」
自分だけが友達だと思っている?どうしてそう思うの?
私にすり寄ってくるサマンサを見たら、そんな風に声が聞こえた気がして私はハッとします。
(そう・・・ですわね・・・)
私は転生前の人生でも同じような事を言われた事を思い出します。確かその後・・・
(はっきりとは覚えていませんが・・・もっと他人を、自分を信じてあげて、でしたか?)
そんな事を言われたような記憶がありました。
(いつ言われたか覚えてませんが・・・青春してましたわね私)
つい転生前の事を考えふけってしまいますが、腕の中のサマンサが目を覚ました事で私は現実へと戻ってきます。
「んん・・・ぁ・・・おはようございますお姉様・・・」
笑顔で私におはようと言ってくるサマンサを見て、『余計な事を考えすぎていたのかもしれない』そう思った私はサマンサをぎゅっと抱きしめます。
「ええ、おはようございますわサマンサ」
私に挨拶を返され、えへへと抱き着き返してくるサマンサに私は頭を撫でながら語りかけます。
「ねぇサマンサ・・・」
「ふぁい・・・」
「私はね・・・貴女達に幸せな未来をプレゼントしますわ・・・」
「ふぇ・・・?」
「だからね・・・」
私は・・・絶対悪役令嬢にはなりませんわ。そして貴女達をまとめて幸せにしてみせる為にも・・・魔王に成りますわ!
私は声に出さず心の中で誓います。
お友達や慕ってくれる者を守る為にも魔王に成ると・・・
私がそんな風に1人心の中で誓っていると、何を勘違いしたのかサマンサがこんな事を言い出しました。
「ふぇ・・・!つ・・・つまり私とお姉様が結婚という事ですか!?え!でも流石に同性では・・・っは!そうですか・・・愛の逃避行という奴ですね!?」
「え・・・?」
「お姉様、私覚悟は出来ていますよ!?何時逃げます!?今からですか!?」
どうやらサマンサは盛大に勘違いしてしまったようです。
この勘違いのドタバタはノワールが乱入して場を治めてくれるまで続きました・・・。
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「それではお姉様、御機嫌よう。また3日後にお会いいたしましょう」
「ええ御機嫌ようサマンサ」
朝からドタバタとしましたが、10時くらいにサマンサは馬車に乗り、自分の家へと帰っていきました。
そのサマンサの乗った馬車がオーウェルス家から離れていくのを見送ると、体からドッと力が抜けた気がして大きく息を吐いてしまいます。
「ふぅ~・・・サマンサ私を好き過ぎですわ・・・どうしてこうなったのかしら?」
「・・・しかし悪い気はしていないのでしょうお嬢様?」
「それはまあ・・・大事なお友達ですもの。でももうちょっと手加減してほしいですわ」
私がつい呟いてしまった事をノワールが拾いましたが、確かに好かれて悪い気はしていません。
しかし私はそこまで女慣れしているとはいい難い元アラフォーおじさん、転生して女の子になったとはいえグイグイと女の子に来られると困ってしまうのです。
「ふぅ・・・っと、そろそろ時間ですわね。ノワール、確か今日はこの後お昼まで習い事で午後からアリス先生の授業でしたわよね?」
「はい、そうでございます」
今日はこの後も予定があるのを思い出し、のんびりしていられないと行動を開始する事にして、私は家へと入って行きました。
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あるうらぶれた雰囲気の店で、数人の男達が酒を飲んでいた。
その風貌は一般人とはいい難く、すこし後ろ暗い雰囲気を纏っている者達だった。
「どうだ?」
「ああ、最近は頻繁に出かけているらしい」
「そうか、情報通りだな」
男たちは酒を飲みつつぼそぼそと会話を交わし、何やら話し合った後に店を出た。
「それでは機を見て・・・」
「ああ、監視を怠るなよ」
「勿論だ」
男達は短く言葉を交わすと、町の闇へと姿を消した。
マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。
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マシェリーの一口メモ
【ロマンスはルートが多く、wikiを見ながら進めないと狙ったルートに入るのは難しいのですわ。ですが、『しかしそれも一興、浪漫を求めよ』と自分の中の直感を信じて進む人も多かったのですわ。この事も有り『浪漫っす』→『ロマンス』と略されたとの説も有りますわ。】