第238話 陰鬱なる戦いと戦慄なる人物
≪イリス視点≫
「・・・ふぅ」
工作を始めたあの日から約3週間後、戦争は本格的に激しいモノへと変わっていました。
「・・・うぅ・・・腕が・・・」
「・・・目が見えない・・・一体どうなって・・・」
「・・・ぅぅ・・・ぁ・・・」
町へは連日負傷者が担ぎ込まれるし、昼夜問わず散発戦が行われるので絶えず皆が殺気立ったりと、状況も最悪なモノへと変化していました。一度赤の魔王戦の時にも経験はしていますが、これは到底慣れるモノではないでしょう。
(というか、私ってば結構こんな状況でも冷静ですね・・・サークル活動の成果なんでしょうか?)
慣れるモノではないと言いつつ、私の心はそこまで乱れてもいませんでした。恐らくサークル活動で頻繁に命のやり取りなんかをしているおかげなんでしょうが・・・これは喜んでいいモノなのかどうなのかという感じです。
「イリス、休憩は終わりだ。押されている場所があるらしいからそちらへ行く事になった」
「あ、はい。解りました」
そんな事を考えていると私達の部隊に出動が掛かったとグウェル殿下が声を掛けてきたので、私は考え事を中断し、いそいそと装備の準備を始めます。
そしてそれが終わったのなら皆と合流し前線へと向かいます。
(早く落とし所なんか見つけて終わってほしいですね・・・)
早く戦争が終われと願いながら・・・
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しかしそんな願いも虚しく、あれから1週間経った後でも相変わらず戦争は続いていました。
「ゴフエフの部隊が壊滅だってよ・・・」
「最近強い所ばかりやられてないか?」
「アーガセスタの所もやられたって話もあるしな」
しかし状況は確かに動いている様です・・・悪い方にですが。
というのも、ここ最近私達の部隊と同じく精鋭で作られた部隊のいくつかが壊滅しているのです。原因はまだはっきりとは解っていませんが、相手の切り札的な存在が出てきたのではないかという線が濃厚の様です。
「え?」
「僕らの部隊がそれを調査する事になったから、一時的に他の部隊はあまり前へと出ない事になった。そう言ったんだ」
そしてそれを確かめるべく、なんと私達の部隊に調査命令が出たとの事でした。言っては何ですが私達の部隊にはグウェル殿下がいるのです、『そんな囮みたいな事が良く通りましたね』と驚いたので聞き直したのですが、グウェル殿下はそれを疑問にも思っていない様でした。まぁ本人が良いのなら私がとやかく言う事でもないので、素直に頷いておく事にします。
「解りました。それで、調査は何時から始めるんですか?今から行きます?」
「そうだな・・・動きっぱなしだったので今日は休みの予定だったが、そうともなればいかざるを得ないだろう。すまないな」
話を続けると直ぐに出発との事だったので、私は急いで準備をする事にします。
「あ~ぁ・・・折角休めると思ったのに」
「仕方がないよリア。頑張ろ?」
「・・・解ってますよイス」
ぼやくリアと一緒に準備を終えると皆と合流し、前線へと向かいます。ここで言う前線とは、ワザと敵に占領させた工作で作り上げた偽拠点と港町『モヨゥセ』の中間辺りの事です。
「大体この辺りで活動している部隊が壊滅している様だ」
グウェル殿下が仕入れた情報ではここら辺りが怪しいとの事。なので私達はわざと痕跡が残るように乱雑に移動をし続けます。
「っ!敵だ!」
「む・・・来たか?」
しかし現れるのは普通?の敵兵で、私達はその人達を難なく撃退します。
「身の程知らずめ。去るが良い」
「て・・・撤退っ!撤退だっ!」
その際はわざとトドメを刺さずに逃がす事に。これは決して『命まで奪うのは・・・』という訳ではなく、例の敵をおびき寄せる為の布石となるのですが・・・
(・・・さらりとトドメを刺すとか考えちゃった。なんだかなぁ・・・)
私は自分の考えに少し自己嫌悪に陥ってしまいます。仕方ない事とはいえこういう事を考えられる様になってしまったのはあまり宜しくないですからね・・・。
(帰ったら喫茶店とかでのんびりしたいなぁ。あの人とか誘ってお喋りしながらとか・・・うん、そうしよう)
少し現実逃避しつつチラホラと出て来る敵兵を蹴散らしていきます。誰かに心の中を覗かれると『そんなこと考えている場合!?』とか言われてしまうかも知れませんが、正直マシェリーさん達に鍛えてもらったりしたお陰でそんな事を考えられる余裕があったりするのです。感謝ですね。
と、そんな具合に敵をおびき寄せている時でした・・・
「・・・!緑の硬樹!」
それまでは魔王の魔法を使ってこなかったグウェル殿下が急に魔法を使います。そしてこの時使ったのは『緑の硬樹』という防御系の魔法だったのですが、そこに魔法と思わしきモノがぶつかり凄い衝撃が発生します。つまり・・・
「出たか・・・」
そう、例の敵ないしそれ並に危険な敵が出た様です。私達は魔法が飛んできた方向へと注視し、同時に最大級の警戒をします。
「「「・・・」」」
しかし待てども待てども次のアクションはありませんでした。てっきり次弾、次々弾と次々に魔法が飛んでくると思って身構えていたのですが、中々次の魔法は飛んできません。
「単なる警告だったのか・・・?」
なので先程の一発は『これ以上近寄るな』、もしくは『今日は帰れ』等の警告の類だったのかと思い、私達は構えていた武器をゆるゆると下ろし始めます。
が、次の瞬間、私達はそれを止め再びバッと武器を構えました。
何故なら・・・
「違う。魔法だけだと被害が大きくなりすぎるからだ」
私達の注視する先から2,3人の人達が歩いて来たからです。
しかもその先頭に立つ人物は私達が知っている人物・・・
「タイラス殿・・・」
タイラス・フォン・セウォターカンド・・・いえ・・・
「ああ、久しい・・・という訳でもないか?いや、あえて初めましてと言っておこうか緑の魔王」
「そ・・・それは一体どういう・・・」
「では改めて自己紹介しよう。俺の名はタイラス・ブルー・セウォターカンド。お前の先輩にあたる・・・青の魔王だ」
青の魔王タイラス・ブルー・セウォターカンドでした。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
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マシェリーの一口メモ
【緑の硬樹は地面から物凄く硬い樹を壁みたいに生やして防御する魔法でしてよ。】
マシェリーより宣伝
【スローペースな新作が始まりましてよ!『センテイシャ』https://ncode.syosetu.com/n7217id/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】




