第234話 神木聖域ダンジョン 1
とあるゲームの様な世界で、そのゲームに精通した私が知らなかったダンジョン。
その中の様子は・・・
「ファ・・・ファンタァ~スティ~ックですわぁ・・・」
正にファンタスティック・・・いえ、ファンタジー的なモノでした。
「明らかに外で見た樹の大きさとは一致していませんね」
「やな。でもなんか小人になった気分やわ」
「・・・見た感じ外側に扉が付いてますけど・・・あれって外に通じているんですかね・・・?」
ダンジョン『神木聖域』の内部を簡単に表すと、樹の内部と言った所でしょうか。円形で中央は吹き抜けになっており、外側に足場が組まれている、そんな感じです。
そしてそんな様子のダンジョンはとても大きく、私達のいる場所の対面部は目算ですが1km程離れていたので、明らかに外の樹の大きさとサイズが合っていませんでした。他のダンジョンは山だったり森だったり城だったりと現実的な感じだったので、これほどまでにファンタジー的な様子を見せている場所に私は胸をときめかせていました。
「モンスターはどんなのかしらね!?妖精とかだったりするのかしら!?あ、でも妖精を倒したらなんだかいけない気になってしまうので・・・邪妖精とかがいいですわね!」
私はウキウキ気分で敵やギミックの事なんかを考え始め、かなり警戒を疎かにしていました。
ですがここは敵が出ないのか、全くと言っていいほど何もなく、延々と妄想を続けることが出来てしまいました。
「そして妖精が仲間になったりなんかして・・・っは!」
「あ、戻って来ましたね」
「お帰りやお姉様」
「・・・ふふ・・・動きが劇みたいで良かったですよお姉様・・・」
「・・・はわわわわ」
なので私が妄想から現実へと戻って来たのはたっぷり30分も経った頃で、その頃には私以外は外側の樹?にもたれかかり暇そうにしていました。
私は皆へと謝ると、気を引き締める為軽く頭を振ります。そして改めてダンジョンの様子を観察してみる事にしました。
「ふむふむ・・・足場は頑丈、外壁も到底壊れそうにありませんわね。樹みたいに見えるのに」
「火を点けても燃える事はありませんでしたよお姉様」
「そう。・・・って、危ない事していますわねマルシア!」
「いざとなればシーラがいるので大丈夫かなと」
「いえ、それでも危ないでしょう?」
知らぬところでナチュラルにダンジョンを燃やそうとしていたマルシアへと注意し、それが終わると吹き抜け部分も見てみます。
吹き抜け前にはご丁寧にも胸元程の柵があったので、そこに捕まりながら上下左右と観察します。
「外壁には扉が幾つか。下と上は果てが見えませんわね」
外壁には最初シーラが言った様に扉が幾つもあり何処かへと繋がっている様で、上下は終わりがあるのか不思議なくらい何も見えないといった様子です。更に道は上下どちらにもイケる様に作られているので、先ずはどちらに進むのかを決めなければならないようです。
「基本的には上へ上れば良さそうですけれど、ん~・・・光が差してるって事は頂上は外なのかしら?いえ、そうとも限らないかもしれませんわよね?」
このダンジョンは上から照らされている様に感じるのですが、本当にそう感じているだけでしょう。何故なら、周りの陰影がそうとは違う着き方をしているからです。
「上からの様に感じて壁からも光が?んんん~・・・ま、そこはファンタジーですわね」
が、それはファンタジーあるあるだと思いあまり気にしない事にします。なので頂上が開いている塞がっている等を考慮せず、どちらへ進むかを決めるのですが・・・
「上に進みましょうか」
結局私は上へと上る事に決めました。理由は・・・何となくです。
「間違っていたのなら逆に行けばいいだけの事ですからね。という事で、進んでみましょうか」
「「「はーい」」」
判断材料がない場合は勘で進むしかありませんし、間違っていても言った通り今度は下ればいいのです。
という訳で、入って来た場所が解らなくなるといけないので入口部分にマーキングだけ施し、私達は階段を上っていきます。
そうして暫く上った頃、私達は外壁に幾つかある扉の1つへと辿り着きました。
「進んでも敵は出ませんでしたわね。敵はこの中という事かしら?」
このダンジョンは通路には全くモンスターが出ない様な作りなのか、上っている最中はモンスターのモの字すら見かける事もありませんでした。まぁ、通路は狭い足場なので出てこないのは助かるのですが。
しかしダンジョンと言ったらモンスターでしょう。という事で、私は明らか様に『何かありますよ』と言わんばかりの扉を開く事にしました。
「念のために扉の前からは退きましょうか。いきなり中から何か出ていて吹き抜けに突き落とされるかもしれませんからね」
「「「はい」」」
こういうダンジョンにありがちな罠を想定し準備を済ませると、私は恐る恐る扉を開きます。
そして何事も無く開いた扉の中を、恐る恐る覗いてみると・・・
「う~ん・・・ファンタジ~ですわ~」
何と扉の中には・・・森がありました。樹の中に森があるなんて意味が解りません。
しかしこういうモノだと未だ不思議がる正気な思考をブン投げ、私は森の中へと進む事を皆へ提案します。
「「「は・・・はい」」」
皆も不思議な顔をしていましたが私が行くならと了承し、私達は扉の中の森へと足を踏み入れます。
「「「・・・」」」
もしかしたらモンスターが出てくるかもしれないので辺りを警戒し、恐る恐る歩を進めていきます。
その最中に森の中も観察していくのですが、この森はなんら変わった事のない普通の森でした。・・・まぁ、それ自体がおかしいと言えばおかしいのですが。
そうやってそろそろと進んでいると、樹が途切れ視界がパッと開けます。広場でもあるのかと思ったのですが・・・
「湖?」
私達の前に現れたのは湖でした。
「ふむ・・・?」
その湖はそこまで広くも無く、対岸までは100m程しかありません。そして何処にも水が流れ出ていたり、湧き出ている様子がないにも関わらず水は澄んでいます。
「はいはい。ファンタジーファンタジー。ファンタジーですわね」
私はそれを『ダンジョンだからこういうモノ』と決定づけ、真面目に考える事を止めました。それよりかは、この湖に何か意味があるのではないかという事を考えるべきなので、そちらの方へ思考する力を回していきます。
(明らか様に怪しい湖・・・恐らく何らかのギミックがある筈ですわ。敵が出る?若しくは回復の泉的なモノかもしれませんわね)
幾つかの候補を上げつつ、調査をする為に湖へと近づいていきます。
すると・・・
「ようこそ」
「「「!?」」」
何時の間に居たのか、湖の上にいた何かに声を掛けられました。
「風の5!」
「「「はい!」」」
私は咄嗟に皆へと作戦の符丁を飛ばします。因みに風の5は『様子を見つつ、場合によっては撤退』です。
皆は日頃から訓練されていた事もあり直ぐに対応、何時でも動けるように陣形を組みます。
そうやって警戒しながら相手の動きを見ていると、向こうに敵意等は無かったのかナチュラルに話しかけてきました。
「私は湖の妖精。旅人たちよ、こんにちは」
「・・・」
「私は湖の妖精。旅人たちよ、こんにちは」
「・・・?」
「私は湖の妖精。旅人たちよ、こんにちは」
撤回します。ナチュラルではなく、壊れた機械の様に話しかけてきました。
私は仕方がないので、対話をしてみる事にします。
「こんにちは湖の妖精さん」
「突然ですが旅人さん、お願いがあるのです」
「なにかしら?」
「アナタの武器を私に見せてほしいのです」
「???」
対話をしてみた所、意味が解らない事を言われました。いえ、言ってることは十二分に解るのですが、何故武器を見せねばならないのかが解りませんでした。
「それは何故かしら?」
その真意を知りたかったので、取りあえず質問をしてみます。が・・・
「突然ですが旅人さん、お願いがあるのです。アナタの武器を私に見せてほしいのです」
「だから何故なの?」
「突然ですが旅人さん、お願いがあるのです。アナタの武器を私に見せてほしいのです」
「・・・」
又もや湖の妖精は壊れたラジオの如く、同じ文言を繰り返します。それはまるで・・・
(出来の悪いNPCみたいですわね・・・)
私はそんな事を思ってしまいました。が、それはあながち間違っていないのかもしれません。
(もしかするとそういう風にプログラミング・・・ではないでしょうが、設定され作られた妖精なのかもしれませんわね。いえ、妖精は造るモノなのかは知りませんけれども)
妖精とは何なのか解りませんが、もしかしたら目の前のこれは作られたモノなのかと考え、私はそういう前提で話を進める事にしました。
「突然ですが旅人さん、お願いがあるのです。アナタの武器を私に見せてほしいのです」
「これでいいかしら?」
「はい。構いません」
決まったこと以上の事は出来ないと思い、相手の要望通りに武器を渡す事にしたのですが、流石にメイン武器を簡単に渡す事等出来ないので、サブ武器の剣を取り出しそれを渡します。
(渡した瞬間『馬鹿メッ!死ねっ!』とか襲い掛かって来るのかしらね?)
何となくの展開を予想しつつそのまま相手の出方を伺うのですが、相手は何をするまでも無く武器を眺めているフリをしていました。
そして1分ほどそんな行動をして条件が満たされたのか、相手は次の行動を起こします。
「ありがとう旅人さん。もう十分なので、返しますね」
「・・・はぁ?」
といっても、普通に武器を返してくるだけでしたが。
私は何処か拍子抜けしながらも頷き、渡した武器を返してもらうために少し警戒しながら手を伸ばします。
その時でした・・・
「あー」
「あ」
「すいません旅人さん。手が滑って落としてしまいました」
湖の妖精は物凄くわざとらしく手を滑らせ、剣を湖へと落としてしまいました。しかも謝っては来たのですが物凄く棒読みで、絶対ワザとだろうと疑ってしまう様な様子だったので、私は何がしたいのかと困惑してしまいました。
「今すぐ取ってきます。少しお待ちください」
「え?あ・・・」
しかしそんな私の様子に構わず湖の妖精は粛々と行動を続け、落とした剣を拾うため湖へと潜っていきました。
まぁ・・・
「消えましたわね」
「消えましたね」
「剣も消えとるな」
「・・・あ・・・本当ですね・・・」
それもフリの様で、何かしらあるみたいでしたが。
「少しだけ下がりましょうか」
「「「はい」」」
なので少しだけ湖から離れて待ち構える事にします。
すると待つ事1分程でしょうか、湖の妖精が上がって来たのですが・・・
「すいません旅人さん、お待たせいたしました」
「ええ。それで剣は?」
「はい。持ってきました。えっと、旅人さんの剣はこれでしたよね?この金の剣」
「え?」
「あ、それともこちらの銀の剣でしたっけ?」
「・・・」
「旅人さん。アナタの剣は金の剣と銀の剣。どちらでしたっけ?」
湖の妖精は、何やら何処かで聞いたような話をし始めました。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「プラチナの剣です!」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いです事よ?
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マシェリーの一口メモ
【ダンジョンを上ろうと思ったのは、決して何とかと煙は高い所が好きだからではありませんことよ!】
マシェリーより宣伝
【スローペースな新作が始まりましてよ!『センテイシャ』https://ncode.syosetu.com/n7217id/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】




