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第1話 目覚め

「・・・・・・・・!・・・ょぅ・・ま!お・・・ょぅさま!」


 近くで誰かが何かを叫んでいたのだが、ぼやけた頭ではそれが認識できず聞き流す。


(あ~・・・、ここどこだっけ・・・。なにしてたんだっけ・・・)


 まるで夢を見ているかのように思考はぼやけ、自分が居る場所や何をしていたかが思い出せなかった。

 

 俺はふわふわとした思考の中で記憶のピースを繋ぎ合わせ、繋がった物から順々に整理していく事にした。


(・・・名前・・・マシェリー・・・いやそんな名前の訳ない・・・早乙女玲、そう早乙女玲だ。女みたいな名前だが男・・・男だったよな?たしか歳は・・・今年で38だったか?)



 先ず出て来たのは自分の名前と歳、早乙女玲38歳。アラフォーのオッサンだ。



(確か家で・・・酒を飲んでた?そうだそうだ、それで懐かしいゲームソフトを見つけたんだよな)



 次いで思い出せたのは直前の記憶だ。



 久しぶりに取れた3連休の初日、真昼間から酒を飲みつつゲームでもしようかと棚を見ていると、昔ハマったゲームが目に入った。


『六人の魔王と藍の聖女イリス』


 このゲーム、タイトルから何となく想像がつくかもしれないが、乙女ゲーム・・・女の子の主人公が男を攻略していくゲームだ。


 俺は男が好きだったので喜んでこのゲームをプレイしていた・・・わけではなく、このゲームは男がやっても意外と楽しめる物だった。


 ゲームのタイトル『()人の()王と()の聖女イリ()』と内容から通称『ロマンス』と呼ばれたこのゲームは、ADVパートとRPGパートに分かれた乙女ゲームだ。

 ADVパートで攻略対象の魔王との仲を深め、RPGパートで好感度を調整する事でルートを決めるのだが、ロマンスはRPGパートの作り込みが半端なかった。

 その為乙女ゲームでもあるにかかわらず、意外と男性にも人気があったのだ。


 因みに余談だが、ロマンスは話の内容も良かった為、RPGパートが面白いからと買ったら暗黒面に落ちてしまった、なんて言う噂がある。


 とまぁそれはともかく、自分は確か久しぶりにロマンスをしようとしていた筈なのだが・・・


(いかん・・・そこから覚えてないぞ・・・)



 記憶はそこまでしか思い出せず、ぷっつりと途切れていた。



(あ~・・・酒が回りすぎて寝ちゃったかな・・・。と言ってもまだ2日も休みはあるわけだしいいか。あ~・・・2日過ぎたらまた精神修行の様な仕事がまってるのかぁ・・・いやだなぁ)


 自分は現在中間管理職についているのだが、パワハラすれすれの上司とそれに曝され問題を上げて来る部下という、中間管理職特有の上下板挟み状態になっていた。

 パワハラ上司からは部下の教育が悪いと言われ、部下からは上司にパワハラを受けたもうやめると泣きを入れられ必死でメンタルケアをする。最近会社での様子はずっとそんな感じだった。


(はぁ・・・早く上の役職に上がりたいなぁ・・・そうすればあんなクソな状態には絶対しないのに・・・。めっちゃクリーンな職場にしてやるわ、まじで・・・)


「・・・ょぅ・・ま!・・・ょぅ・・ま!お・・・ょぅさま!」


(あーもう、さっきから何なんだ!電話か!?出勤しろと!?)


 先程から聞こえる音に煩わしさを感じ、どうせ職場からの電話だろうと手を伸ばす。


「あーはいはい!今出ますよっと!」


「お嬢様!・・・お嬢様?」


「え?」


 俺が手を伸ばした先に有ったのは電話などでなく、人の体だった。


「え?え?・・・あ!」


 俺が伸ばした手は、しゃがんで俺に話しかけていた女性の顔へとつけられていた。


 不味い!セクハラで訴えられる!と咄嗟に手を引くと、出て来た顔がまだ幼い風貌を残していた為、事案も追加!?と焦ってしまい、テンパりながら謝罪をいれてしまう。


「す・・・すいませぇ!あ・・・あのそのですね、決して本意ではないと言うかその・・・偶然が重なり・・・その・・・」


「・・・?」


 しゃがんでいた女性・・・いや、女の子は不思議そうな顔をしていたのだが、直ぐにハッとした顔をしたかと思うと立ち上がり、俺の体を前から後ろからとペタペタ触ってきた。


「え?え?え?」


「・・・」


 その顔があまりにも真剣なモノだったので止める事も出来ず、困惑しながら体を固めひたすら耐えた。


 やがて何かを確かめ終えたのか、安心した様子で一つ頷くと俺の前方へと来た。・・・かと思うと頭を下げて謝罪をしてきた。


「申し訳ありませんお嬢様!私に何か問題があった為様子がおかしかったのでしょうか!?」


「は・・・?」


 いきなり謝って来たのもそうなのだが、言っている内容が理解できずにポカーンと口を開けて呆けてしまう。


(一体この子は何を言って・・・というかこの子誰?)


 いきなりの接触や謝罪に驚いて気づかなかったが、目の前にいる女の子は誰だ?という疑問が今更ながらに浮かんだ。

 女の子は黒髪黒目なのだが顔立ちは日本人らしからぬモノで、その上服装は何故かメイド服を着ており、知り合いにこんな子が居たら絶対覚えているので知り合いではないだろう。


 ならこの子は・・・?とまじまじと姿を見たことで、ある事に気が付いた。


(この子・・・子供だよね?それにしては大きくない!?)


 喋り方は大人っぽいものの、見た目からするに明らかに子供・・・いや、小さいだけで大人かも知れないが。


(それにしても大きいって!俺が175cmくらいだから・・・3m近くあるんじゃないか!?・・・ってあれ?)


 女の子を見上げていると、もう2つ気づいたことがあった。


 それは・・・周りの様子と自分の目線の高さだ。


 女の子を見上げている時に周りの様子も一緒に目に入って来たのだが、今いる場所は見慣れぬ部屋で、家具が外国のアンティーク調で固められており、まるで芸術品に囲まれている様な気持ちになった。

 そしてその家具を見て気づいたのだが、どうも自分の目線の高さが大分小さいように感じられるのだ。


 まさかと思い、恐る恐る自分の手を見ると・・・


「えぇぇ???」


 目に映った自分の手は、記憶にある自分の手とはまるで違うモノだった。

 太く短かった指は細長く綺麗になり、割かし大きかった手のひらは小さくかわいらしいものになっていた。


 自分の変化に戸惑い声を上げていると、頭を下げたままのメイド服の女の子が「どうなさいましたお嬢様!?」と顔を上げた。


「あの!鏡って何処かにない!?」


 パッと見部屋の中に鏡が無かった為、俺が顔を上げたメイド服の女の子に尋ねると・・・


「鏡ですか?『アイテムボックス』」


 女の子がそんな事を言ったかと思うと、突然目の前に黒い穴が空いた。


「!?」


「鏡でございますお嬢さま」


 女の子は何ら不思議がる様子もなく黒い穴に手を突っ込むと、中から50cm×50cm程の台座がついた鏡を取り出し、上手く俺が映る様に調整して床へと置いた。


 その鏡の中にはポカーンと口を開けた男・・・ではなく、ポカーンと口を開けた少女が映っていた。


 これ・・・俺だよな?


「えぇ・・・!?なんぞこれぇ・・・?」


 鏡の中の少女はポカーンと口を開けていたのだが、その顔からは間抜けさなんてものは感じられなかった。

 大きく開いているつもりだが小さな口、大きく開かれたクリクリッとした目、長いまつ毛に形のいい鼻と輪郭、少女からはかわいさしか感じられず、一度見たら忘れられなさそうな姿をしていた。


 更に、少女の髪の色と目の色は鮮やかで、それがまた少女のかわいらしさを引き出していた。

 それはとても人に印象を与えるような色で・・・


「・・・んん?・・・マシェリー・フォン・オーウェルス?」


 鏡の中の少女を見ていると、俺の中で一人のゲームキャラクターが浮かび上がって来た。

 彼女の名は『マシェリー・フォン・オーウェルス』、鏡の中の少女同様に髪と目がとても不思議なグラデーションをした色合いをしていて、まるで髪と目が虹で出来たかの様なキャラクターだった。

 彼女はロマンスのキャラクターで、ビジュアルから察せられる通りモブキャラではないのだが・・・


 俺がゲームのキャラクターに思いを馳せていると、メイド服の女の子は俺が呟いた言葉が聞こえていたようで、それに対して答えて来た。


「お嬢様、まだ精霊の儀が終わっておりませんので、マシェリ―・オーウェルスでございます」


「え?」


「まだ精霊の儀が終わっておりませんので、マシェリ―・オーウェルスでございます」


 いや、聞こえてはいる。ただ理解したくないだけなんだ。



 だって『マシェリー・フォン・オーウェルス』は・・・



 所謂悪役令嬢、最後はどうやっても悲惨な運命になるべき人物なのだ。



 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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