第191話 主人公と魔王の実力差
「はっ!」
片やミノ牛を倒せはするものの、数分かけて何とかレベル。
「はぁっ!」
片やデカい声を出しているものの、ミノ牛を軽く小突いただけで爆散させるレベル。・・・って、あんまり酷い損壊の仕方だとドロップ品が無くなるのでやめてほしいのですが。
とまぁこの様に、予想外にもレベルがカケ放れ過ぎている訳です。
あ、勿論の事ながらコレ、前者がイリスやグウェル殿下で、後者がフレッドです。
(んん~・・・イリス達はもう少し出来るかと思っていたのですけれどね。これは後日マシェリーズブートキャンプ行きですわね。そしてフレッド・・・あれだけでは正確な強さは解りませんけれど・・・)
両者を分析した結果、前者はまぁいいでしょう。
しかし問題は後者です。
「はぁっ!・・・あ゛ぁ゛~!力加減が難しいなオイ!」
「普段相手にしている様な敵を想定しているから駄目なのだろう。もっと弱い・・・そうだな、一般の騎士くらいを想定すればいいのではないか?」
「お?・・・ほっ。おぉ!いい感じだ!ありがとよサイラス」
「ああ」
(爆散はしていませんけど、首がグルングルンと・・・ひぇぇ・・・)
私もミノ牛が相手ならば余裕で倒せはしますが、フレッドの様にミノ牛をアリンコ扱いはできません。まぁ彼はゲームでも素のパワーが高かったタイプですので不思議ではないのですが、それでもあんまりです。
(んん~・・・正直イリス達がアレをみたまんまの強さなら、フレッドと戦わせたら爆散する確率がありますわね。というか、私達が直接出ても怪しいかもしれませんわね・・・むぅ・・・)
『赤の魔王フレッドバーン・レッド・ブラッド』、その名は伊達ではなく、彼を少々知っているつもりになっていた私は、彼の戦力を完全に見誤っていました。
なのでイリス達を鍛えるついでに自分達も鍛え直し、いざ戦うとなったら私達も最初から参戦し全力を出すべきだと、いま改めて決めました。
「あ、フレッド」
「ん?なんだ?」
「私フレッドの魔法が見てみたいですわ!魔法を使う者達の頂点、魔王の魔法を!」
そしてより有利に戦いを進めるため、私はフレッドの魔法がどんなものなのかを、敵対していない今の内に見せてもらう事にします。
幸いにもフレッドは私の企み等には一切気付かなかった様で、にこやかな笑顔で私のリクエストに応えてくれました。
「おう、良いぜ!つっても弱ーいヤツな?力入れると周りがあぶねぇからよ」
「ええ」
「んじゃ行くぜ?獲物はっと・・・お、あいつでいいか。赤の火花」
そしてリクエスト通りに魔法を使ってくれたのですが・・・
(あ、これは確かフレッドの一番弱い初期魔法で・・・ってぇぇぇ!?)
その魔法を受けたミノ牛は鳴き声を上げる事もなく灰になってしまいました。
しかしそれは宣言した通りフレッドの中では弱い魔法だったらしく、『コンなんだったけど、よかったか?』と微妙そうな顔で私に尋ねてきました。
私は予想以上だった火力に驚きながら十分だと伝えようとしましたが、どうせならもう1つ上の段階の魔法の威力も見せてもらう事にしました。
「いくぜ?赤の牡丹」
「・・・わーぉ」
強請っておいて正解の様でした。
え?何故かって?それは初見でこんなのを受けたらたまったモノではないからです。フレッドが使ったのはゲームで範囲攻撃だった『赤の牡丹』という魔法なのですが、ゲームでは『エフェクトが綺麗だなー。でも威力はお察しかなー』というモノでした。
しかし先程私が見たのは『エフェクトが綺麗だなー。そしてミノ牛も綺麗に爆散したなー』という感じで、えげつないモノになっていました。
(ゲームと違いすぎますわよ!?運営!この男チート使ってません事!?)
私はあまりの事に、心の中で運営に文句を言ってしまいます。しかしそれに運営が応えてくれるわけもなく、唯々『赤の魔王と戦うことになる』という、未来のみが応えてくれるようでした。・・・いえ、あれはっ!
『チートにはチートで対抗するのよっ・・・!』
いつぞやぶりに登場したのかもわからない『ミカ姉』が空の彼方から応えてくれました。え?ミカ姉って誰ですって?前世の・・・モニョモニョですよ!
とまぁそれは兎も角です、現実問題チートなんて出来ないので、知識で少しズル・・・火の属性に有効な装備を揃えたり、有効な魔法を覚えたりをするしかありません。
更に他にも何かないかと調べるべく、私はミノ牛狩りの間はずっとフレッドに張り付き、情報収集に努める事にしました。
「ねぇフレッド、アナタって火魔法以外は使えませんの?」
「ん?あー、そうだなぁ。魔王に成ってからなんだが・・・・」
「ふむ。では・・・・・」
「それは・・・・・」
・
・
・
「「「おかえりなさーい」」」
「食材の下準備はバッチリやし、火も熾っとるでー」
そうしてイリス達やフレッドの実力調査兼夕食の食材調達が終わり私達がキャンプ地へと戻ると、残って野菜等の買って来ていた食材の下準備等をしてくれていたイリアスや3人娘が出迎えてくれました。
私達は狩って来たミノ牛を彼女らに渡し、テントへと戻りササッと装備を外して汗を拭きます。
「ああ、装備外すの手伝うよマシェリーさん。そしたらその後こっちも手伝ってくれる?」
「ええ」
「その後はそのまま背中だけ汗を拭いてくれない?拭いてくれたら次は私がマシェリーさんの背中を拭いてあげるから」
「え・・・ええ。よろしくてよ」
その際嬉恥ずかしハプニングが・・・特に起こる事もなく、ササッと支度を終わらせテントの外へと出ると、食事が始まりました。
食事は昼食だったのでさっくりと済まし、それが終わると一休憩、後に再びダンジョンアタックです。
しかし再びのダンジョンアタックは先程とは違い全員まとまってPTを組み、先程より奥へと進む事となります。
「冒険者サークルではこの様にウンヌンカンヌン・・・・」
というのも、それは留学生達がいるからです。
彼ら彼女らに私達のサークルが普段どのような感じで活動しているのかを安全に説明する為に纏まり、更にその状態だと戦力過多になっているので奥へと進むわけです。
「途中途中ではこの様に素材を採取したりと、他にも存在する冒険者系サークルと似ている所はありますな。しかしウンヌンカンヌン・・・・・」
そうしてシフロート先生が解説役となりダンジョンの奥に潜っていく訳ですが、そこでも私は色々な事を3人娘やノワールに任せ、イリスやグウェル殿下、そしてフレッドの観察に務めます。
「グウェル殿下、そう言えば向こうでは・・・・」
「む?まぁ色々忙しくてな。それで・・・・」
「イリス、貴女・・・・・」
「ん?あー・・・そうだね。でも・・・・・」
「フレッド、先程アナタ素手で戦ってましたけど・・・・・」
「おう。まぁ・・・・」
積極的に話し掛けたり、戦っている様子を観察したりと、不自然にならぬ程度に情報を集めていきます。
(む、時間切れですか。仕方ありませんわね)
そうしている間にも予定していたポイントへと到着したので、まだまだ情報収集をしたい所でしたがそこで折り返しとなり、ダンジョンの出口へと向かいます。
何時もならば何かハプニングの1つでも起こる所ですが、今日は珍しく何も起こらずにすんなりと進み、私達はキャンプへと辿り着きました。
「以上が冒険者サークルの活動ですな。似た様なサークルは似た様な活動だと思うので、私としては次に見学に行くのならば文科系のサークルがお勧めですぞ」
「ああ。参考にさせてもらおう」
そしてキャンプへと帰るとシフロート先生の締めが入り、それにセウォターカンド国の引率者であるサイラスが応えます。
更にいくつかの会話を交わしていましたが、続いてこの後の話となりました。
「それでこの後ですが、夕食と交流の時間とさせていただきますぞ。夕食の準備はこちらが請け負いますので、セウォターカンド国の皆様はお好きにお過ごしください。休むもよし、手伝ってくれると言うのならそれも良しですぞ」
「了解だ」
私達は夕食の準備だという事なので準備に取り掛かるため竈場へと移動し、昼の残りの材料にアレンジを加えて夕食の準備をしていきます。
そして途中加わった留学生達の手伝いでスムーズに準備が終わると、夕食のスタートです。
「「「・・・ワイワイ・・・」」」
各自が好きなように散らばり食事をしていくのですが、私は引き続きフレッドにくっ付き情報収集をする事にしました。
その際に一応ですが3人娘に頼み、セウォターカンド国の者と交流、更にできるならば『青の魔王』との交流をしてきてほしいと頼んでおきます。
(青は今回出てこないでしょうけど、追々はでてくるはずですもの。予め探りを入れておいて損はありませんわ。まぁ私は近づきませんけども)
そうやって各々が好きに夕食を取り、宴もたけなわになって来た所で再びシフロート先生の締めが入ります。
「それではそろそろ片付けに入りましょうか。明日は別に早く起きる必要はないですが、普通には起きてもらい朝食の準備や撤収作業をしてもらわなければなりませんからな」
「「「はい」」」
「ありがとうございます。では各々、食器や調理器具の片づけを。それらが終わったならテントへと戻ってください」
私達はシフロート先生の指示に従い片付け、そしてそれが終わったので各々がテントへと散らばっていったのですが、私はふとある事を思い出します。
(そういえば、私がテントで一緒に寝るのって・・・)
調査などで色々動いていたので忘れていましたが、私と一緒のテントで寝るのはイリスです。しかも昼とは違い、帰って直ぐ汗を拭いたりすることもなかったのでそれらはこれからすることになります。・・・誰にも邪魔される事なく時間は無制限、しかも2人っきりのこの空間で。
「ご・・・ごくり・・・」
特に何があるという訳でもありませんが、私は生唾を飲みこんでしまいます。ええ、何があるという訳でもありませんが!
と、そんな事を考えていると、私の肩に背後から両手が置かれます。
「ひぇっ!」
「ん?どうしたの?テントに戻るんだよね?」
「え・・・ええ。ソウデスワネ。モドリマショウカ」
「???」
何があるという訳でもありませんが、私は吃驚してしまい、その所為かカタコトになってしまいます。
そんな私の様子をイリスは訝しがりましたが、まぁ特に気にする事もないと思ったのでしょう、そのまま後ろから肩を押してテントの方へと誘いました。
「あ、そういえば未だ汗拭ったりしていないよね?」
「エ・・・エエ」
「寝る前だし入念にしておきたいよね。近くに水場でもあればいいんだけど、ここには無いっぽいし」
「エエ」
「実はさ、セウォターカンド国でウォッシュ水ってのがあってね?それで体を拭くとスッキリするんだ。それ持って来てるから、使おうよ。あ、それ髪にも使えるんだ」
「ヘー」
そうやって何気ない雑談をしながら歩いていると、私達はテントへと辿り着きます。そしていよいよ中へと入ろうと言う時、イリスがこんな事を言いました。
「ウォッシュ水の使い勝手って最初解らないよね?だから私がマシェリーさんの事、全身拭いてあげるね?」
「エ?」
「マシェリーさん髪も長いしさ。あ、そういえばちょっと前会った時は帽子被ってたよね?あの時は髪は中に入れてたの?」
「エ?エ?エ?」
「あ、もしかして遠慮とかしてる?いいよ別に。うん」
「イエ、アノ」
イリスはそんな事を言ったかと思うとテントの幕を開け、私を中へと押しやり鞄をごそごそし出します。
そしてこちらを向いたかと思うと・・・
「外から見えない様にちゃんと幕を締めてっと・・・さ、早い所拭いちゃおうか。はーい服を脱ぎましょうね~」
私へとスッと近寄り、服を・・・
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「おいおい、最後の何だ?」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いです事よ?
☆やイイネをぽちっと押すと 大事な事なので、私がもう一度『何があるという訳でもない』と言いますわ。
マシェリーの一口メモ
【魔王が使う魔法は特殊で、『色の○○』って感じの洒落た名前でしてよ!】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】