第190話 実力調査とキャンプ
「・・・それでは、又のご利用をお待ちしております」
「ん。たのんだで~」
「・・・」
何かを決意した様な眼をしたベテラン職員とのやり取りが終わった後、私は心の中で『やはり解せませんわ・・・』と呟いていました。
(確かに暴走していた事も合ったでしょうが、今日は普通にニッコニコの笑顔マシェリーちゃんだったじゃありませんの!?それのどこに怖がる要素があるのかしら!)
流石にこの事を声に出すと、再び『ひっ!』とか言われてしまうのでしませんが、大変遺憾な所存です。
とまぁ兎に角目的は達成したため、一度そのままロギヌス工房へと戻りパメラと話をする事にしましょう。
「一度ロギヌス工房に戻りますわよ。グロウ、グラァ、それにサマンサ、パメラに色々説明して上げてくださいまし」
「ろっ!再びゴールデントリオの結成ろっ!」
「らっ!任せるらっ!」
「了解や」
私は元気に返事をする双子達を引き連れロギヌス工房へと戻り、日が暮れるまで話し合いを続けました。
・
・
・
明けて翌日、この日も学園は休みではありましたがサークルのミーティングがあるとの事で、私達は部室へと向かいました。
「あ・・・ご・・・ごきげんよう」
「おはよう」
となると勿論サークルに入っている方は出席するわけで、イリス達も居るという事です。
私は未だ彼女が帰って来てからまともに話をしていなかったので、どう接していいか距離が測れず、少しもにょった感じの挨拶だけを交わす事となりました。
(ああどうしましょう・・・一昨日会った時はイリスだと思わなかったから喋れたのですけれど、彼女だと解ったのならあんな風には喋れませんわ。というか、あんな風に喋ったら私のイメージが!)
頭の中で悶々と『どうしよう・・・どうしよう・・・』と悩んでいると・・・
「揃ったようですな。それではミーティングを始めますかな」
救いの救世主シフロート先生が声を掛けてくれたので、私はその声に飛びつきます。
「はい!始めましょうシフロート先生!」
「お・・・おぉ・・・今日は昔を思い出す真面目且つ快活ですなマシェリーさん。よろしい!ではマシェリーさんの気が変わらない様、直ぐに始めるとしますかな!」
「はい!さぁ貴女達、さっさとお座りなさい!」
私のパーティーメンバーを急かせて席につかせると、宣言通り早速ミーティングが始まります。
内容としては『新規サークルメンバーの募集』『今年の活動について』ですが、前者は新入生にも私の噂が一部広がっているので、殿下が所属するサークルと言えど新規参入者獲得は絶望的でしょう。
そして後者ですが、私としては後々の為にイリスやグウェル殿下の実力を計りたかったので、全員での活動を提案する事にします。
「成程、一発目としては良いかもしれませんな」
「うむ。だが僕は1月ほどは留学生の対応や留学していた時期の政務関係で少し忙しく、難しいかもしれない」
するとグウェル殿下以外は概ね良い反応を示してくれました。そして確かに、グウェル殿下の言う事はもっとであり、彼は忙しく不参加になるかも知れません。
が、しかしです、私が提案した事はグウェル殿下の力量もチェックしたいから提案したので、彼が不参加だと目的の半分くらいしか話が進みません。
なので・・・
「ひ・・・酷いですわ殿下・・・2年も私を放って置いて更に放置だなんて!私達婚約者じゃありませんの!?」
「む・・・」
泣き落とし作戦を仕掛けます。・・・因みに、確かに放置はされてはいたでしょうが、私としては特段変わりなく、何なら面倒な事も無かったので快適だったという事を教えておきましょう。
しかしそんな事を知らないグウェル殿下は私の迫真の演技に引っかかり、『いやしかし手紙は偶に送っていただろう?』や『あくまで僕達の婚約は政略的なモノであり・・・』等の言い訳の末に折れ、見事参加が決定されました。
・
・
・
という訳で、そのミーティングがあった翌週、私達はキャンプに来ていました。
いえ、勿論タダのキャンプではありませんよ?近場にダンジョンは有りますし・・・
「ガハハ!わりぃな!何か呼ばれちまってよ!」
「何故好き好んで野宿を・・・」
「イイじゃねぇか偶にはよ!青空の元食う飯も乙なもんだぜ!?多分だが!!」
「・・・」
なんと『赤』と『青』の魔王付きです。
正直フレッドの実力もちょっと見てみたいなと思い手紙を送ってみたのですが、まさか本当に来てくれるとは思いませんでした。因みに『青の魔王』サイラスについては、『留学生にウチのサークル活動を体験してもらおう』というグウェル殿下の発案の元、留学生の何名かと共についてきました。
私としては苦手意識がある人物ですし、今年起こるであろう戦いでは恐らく関わってこないので来てもらわなくても良かったのですが・・・まぁ来たのなら仕方がありません。適度にお持て成しをするとしましょう。
「ん~!いい天気だ!」
「うむ。やる事は溜まっているのだが、まぁ息抜きと思えばいいな」
そして今日のメインディッシュ?である2人はというと、中々良い装備を付けてリラックスした感じで喋っていました。
丁度2人は気を抜いてホンワカしているので、今なら声を掛けて少しでも調査を始められるのですが・・・
「・・・ぐぬぅ」
私は2人に声を掛けられずにいました。・・・いえ、正しくありませんね。
私は・・・イリスに声を掛けられずにいました。
(あれはイリス。あれは主人公。私はマシェリー。私は小粋なライバル)
変わったイリスに、かつての別れ際の事やそうと知らず話していた事等諸々の事が加わり、私は未だ彼女に声がかけられないでいました。
しかしこのキャンプ中に彼女の力も図らなければならない為接触は必須です。
(ええい!女は度胸愛嬌東京ですわ!)
なので私は意を決し、イリスへと声を掛けます。
「どうもお2人様、元気でして?あ、そこの彼女は今日寝るテント決まっていまして?私のテント、2人用なのですけれど、良かったら如何かしら?」
「え?」
「ん?」
(え?・・・あ、やらかしましたわ)
私は声を掛けれたもののテンパりすぎていたらしく、ナンパまがいの声掛けをしてしまいました。
それに気付き即座に陰キャモードへと入りかけてしまいますが、そうしてしまうとまずいので私は必死に取り繕い、続けます。
「つ・・・つまりあれですわ!テントを立てるのが面倒だから、イリスに立てさせて上げると言っていますの!で!立てさせるだけ立てさせるのも悪いですから、私のゴージャスなテントに一緒に止めてあげる、そういう事ですわ!お解かり!?」
続けた結果この様な事を言ってしまいましたが・・・完璧に失敗しました。その証拠にグウェル殿下は『何を言っているんだ・・・』という様な顔をしています。
そしてイリスも怪訝な顔を・・・
「解った。それじゃあそうさせてもらおうかな」
「え?」
していませんでした。
というか、もの凄い爽やかな笑顔で私の意味不明な言葉に乗って来ました。
「それじゃあ殿下、私達は早速テントを張りに行きます」
「あ・・・ああ」
「のんびりしているとすぐ日が落ちますから、殿下も取り掛かった方がイイかもですね」
「そう・・・だな。うむ。僕も動こうか」
「はい。ではまた後で。それじゃあマシェリーさん、行こうか」
「え・・・ええ」
そしてさっくりとグウェル殿下に挨拶を済ませると、テントを張りに行こうかと私を伴い歩き出します。
「テントはどこかな?ノワールさんが持ってたりする?」
「え・・・ええ」
「了解。で、何処に建てようか?あ、あそこら辺なんかどうかな?」
「い・・・いいと思いますわ」
「じゃあそうしようか。おーい、ノワールさーん」
私はその展開に少し唖然とし、イリスの為すがままになってしまいます。
そしてあれよあれよという間に、私とイリスが今夜過ごすテントが建っていました。
「出来たね」
「え・・・ええ。ご苦労様」
「どういたしまして」
(し・・・紳士的すぎますわよイリス!?貴女本当にどうしたんですの!?)
しかもテントを建て始める時から今の今までイリスの態度は紳士のソレ、とてもではないですが元の優しき真面目少女の面影は有りませんでした。
「イ・・・イリス、貴女セウォターカンド国で一体・・・」
「テントを建て終えた人達は留学生達のテント設営を手伝ってあげてください。それが終わったら一旦集合ですぞー」
「あ、だって?マシェリーさん。手伝いに行こうか」
「え・・・ええ」
私はあまりのイリスの変わりように何があったのかと尋ねようとしましたが、丁度シフロート先生の声が聞こえて来たので質問は最後まで言えませんでした。
しかしチャンスはいくらでもあるので後回しにする事にし、私達は取りあえず指示の合った事をこなしに行きます。
そうしてあれよあれよとテント設営から竈設営、夜番の順番決めなどがなされ、結局イリスに質問する時間は取れませんでした。・・・いえ、時間自体はいくらでもあったのですが中々切り出すタイミングが無かったのと、あちらの紳士ムーブの所為で私の気勢が削がれて切り出せなかったのです。
というか・・・
「あっ、大丈夫?(さっ」「おっと危ない(すっ」「ああ、私がやるよ(すっ」
紳士ムーブの合間合間に手を取ったり腰を支えたりと軽いボティータッチをして来るのですが、気のせいでしょうか?気のせいですよね?だって私はする側であってされる側ではないのですから。
とまぁ、今はそれは置いておきましょう。
何故なら・・・
「それでは用意も出来た事ですし、サークル活動兼活動の内容を見てもらう交流会を始めるわけですが、その前に今日の夕食の食材となる獲物を近くのダンジョンで狩って来てほしいのですぞ」
今から今日の目的であるイリスとグウェル殿下の実力調査、並びに『赤の魔王』の実力調査を始めるからです。
(さて・・・今から狩るのは雑魚ですが耐久がそこそこある『ミノ牛』、これで実力の一端でも図れるといいのですけれど・・・)
このキャンプをしようと提案した時にワザと選んだモンスターですが、こいつで全ての実力が図れるとは思っていません。が、しかし、実力の一端は垣間見れるでしょうから、色々な指標にはなる筈です。
『これより始まる狩りを見落とすことなく、頑張って観察しないと』なんて思いつつ、私も狩りに出かける準備を進めいざダンジョンの中へ。
そうして実力調査を兼ねた狩りが始まった訳なのですが・・・私は色々な意味で驚く事となりました。
なんせ・・・
「はっ!」
(びっ・・・微妙っ!)
「はぁっ!」
(・・・ヤバくありません事?)
主人公達と魔王の実力が・・・予想外のものだったからです。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「取り扱い注意のマシェリーさん!」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いです事よ?
☆やイイネをぽちっと押すと 私が馬に乗って校舎を駆けまわりますわ。
マシェリーの一口メモ
【『赤の魔王』さんですが・・・基本的には暇な人なんですの。なんせ彼の仕事は睨みを効かせる事、つまりは何もしない事ですから!】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】