第184話 送る言葉と物
手品の最後にグウェル殿下が発した言葉、これに対する反応は様々で、『その言葉』を理解している者達もいれば、『その言葉』の意味が理解できずにいる者もいました。
「えっ!?本当」「へぇ~・・・あの人達が・・・」「凄い事だな」「お目出度い・・・んだよね?」「あれ、でも殿下には婚約者がいたんじゃ」「噂によると相当アレだからじゃないかしら?」「サプライズだな」「いやぁ、卒業する最後に凄い事が聞けたな」「だな」「私達の時にもこんなサプライズほしいね」「そう?」「毎回こんなサプライズは無理だろ・・・」
前者は舞台の下で聞いていた卒業生や在校生らで、彼ら彼女らは口々に『その言葉』の感想を話し合い騒めいていました。
「・・・え・・・あ?え?」
そして後者は・・・私です。
私は『その言葉』自体は聞こえて何を言ったかも覚えているのですが、意味だけが理解できていませんでした。
そんな私に今解っているのは、『サァ~・・・』っという何かが零れ落ちるような音と共に、意識も零れ落ちていっているという事だけです。
こうして私はそのまま・・・
「・・・お嬢様」
「・・・」
「お嬢様!」
「・・・え、あ、はい。なんですの?」
「取りあえず出し物だけやってしまいましょう。色々考えるのはその後に・・・」
「・・・え・・・ええ・・・」
・・・意識を失いかけたのですが、すんでの所でノワールが声を掛けてきてくれたおかげで私は何とか現実に意識を止まらせる事が出来ました。
しかしです・・・この後の私の意識は少し曖昧で・・・
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私は気が付くと椅子に座り、空のティーカップを見つめていました。
「・・・え?あれ?ここは?それに出し物・・・」
余りの事に○タンド攻撃でも受けたのかと思いましたが、とりあえず状況を認識するために自分へと向けて問いかけを呟いてみます。
しかしその言葉の答えは、予想外に周囲から返ってきました。
「ここはお姉様の部屋ですよ」
「んで出し物は完璧にやれとったで」
「ふふ・・・完璧すぎて逆にびっくりでした・・・まさかオデンと5枚抜きまで決めるなんて・・・」
その時初めて気が付きましたが、周囲の椅子にはマルシア達も座っていた様です。
しかし彼女らの様子はどこかおかしく、何時もなら結構お喋りな彼女らは賑やかに会話を続けるはずですが、私へと応えた後静かになったかと思うとそのままゆっくりとお茶を飲むだけになっていました。
(・・・あ、そういう・・・)
如何したのかと尋ねかけましたが、こちらを優しく見る目でその理由をなんとなく察する事が出来ました。恐らくですが・・・彼女らは私に気を使っているのでしょう。
(・・・という事は、あれはやはり現実?いえ、もしかしたら・・・でも・・・)
彼女らの様子を見るとあの発言は有ったモノだとは思えます。ですが『もしかしたら聞き間違いだった』という一縷の望みを抱き、私はそれを確かめてみます。
「3人に・・・いえ、ノワールもいるので4人ですか・・・4人に聞きます、あの時グウェル殿下は・・・」
ですがそれは解り切っていた儚い希望。現実は残酷でした。
「グウェル殿下は・・・『私とここに居る者達は交流、また見識を広げるために留学をすることになった』と、そうおっしゃいましたか?」
「「「・・・はい」」」
「・・・そう」
彼女らは私が望んでいた答えではなく、認めたくなかった現実を肯定してきました。
・・・というか、これって本当に有り得ない展開なんですが?
私が存在しているであろう世界は前世で遊んでいたゲーム『六人の魔王と藍の聖女イリス』です。
このゲームはゲーム内で経過する時間は少し長く、12歳『学園編』から始まり22歳『最終決戦編』と実に10年も経過します。
そしてその10年の中で現在いる国以外にも確かに国は出て来るのですが、それは学園編が終わってからの話になり、基本『学園編』の間は最初の国の外には出て行かないのです。
(なのに主人公が国外へ留学するって・・・全然ストーリーが変わっているじゃありませんの!)
私が色々と考えている事は基本原作ありきの考えです。
なので原作から乖離すればするほど不都合が出て来るのですが、原作から乖離させているのもまた自分自身ですので文句は言えないのかもしれません。
ですが私の行動1つで、ここまで世界は変わってくるのでしょうか?
「む・・・むむぅ・・・」
「お姉様・・・」
「あかんてマルシア、そっとしといたり」
「・・・お姉様にも色々考える事があるはずです・・・私達に出来るのは・・・見守る事だけです・・・」
私が悩む周りでマルシア達が私を気遣う様にしていますが、マルシア達が想像している考えている事と私が考えている事は微妙に違います。
しかし私はそんな事を指摘する余裕もなく、ひたすらに頭を捻り色々な事を考え続けました。
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そうして答えの出ない答えに頭を悩ませていると、気づけば時間は進み、終業式がいつの間にか終わっていました。
そんな現在の時間は終業式が終わり春の休暇へと入った1日目、場所は王城のホールとなります。
『『『・・・ザワザワ・・・』』』
そんな所で何をしているのか、それは・・・
『それでは今回の主役、留学する方達の入場となります!』
国を挙げての壮行会です。
というのも、今回イリス達が向かう国は近くあれどこれまでさほど交流が無かった国なので、それを成功させるようにとの意気込みが現れ壮行会が開かれる事となったのです。
そして国主催の壮行会なので、出席しているのは主に貴族となり、それも位の高い家はホボホボ参加となっています。
ですのでオーウェルス家も参加となっており、私もここに居るわけです。・・・まぁ私の場合はグウェル殿下が婚約者という事もあり出席している訳ですが。
・・・と、そういえばグウェル殿下の婚約者であり高位貴族、更に成績優秀の私が留学する者達の中に居ないかを言っていませんでしたね。
答えは簡単です。性格がヤバイと噂されているから、です。
どうでもいい話でしたので話を戻しましょう。
私はこの壮行会、そこまで乗り気ではありませんでした。というよりは、気が付いたら出席となっていてここに居るので、気にする暇もなかったと言うべきでしょうか。
そんな私は・・・周辺で飲み物を飲みつつ私に近づく方達の対処何かをしてくれているマルシア達を余所に、未だに頭を悩ませていました。
(う~ん・・・そうなるとあれとこれは・・・いや、その場合・・・)
普段ならば解らない事はさくっと流したりもするのですが、話が話だけに気になりすぎたり、又色々計画プランの変更があったりしたので延々と考える事をやめれなかったのです。
ですので完全に偶然だったのでしょう。
それは壮行会も進み、会場にいた皆がだらだらとなって来た頃合いでした。
(6月にアレが起これば未だ・・・あら?イリス・・・何処へ?)
私はふと、イリスが何処かへと行くのを見てしまいました。
この後の事に頭を悩ませる私でしたが、イリスが不審な行動をとるとあってはそちらの方が気になります。何せ・・・
(もしかしたら、偶然こっそりと王城に来た魔王の誰かと鉢合わせをしたりなんかして・・・。それでまた私の知らない展開に・・・)
そんな事が起こりうるかもしれないからです。
この原作と乖離し始めた現状だと有り得ない事ではないので、私は急いでイリスの後を追う事にしました。
そうすると吃驚するのはマルシア達でしょう。
彼女らはいきなり私が動き出したので、慌ててついてきました。私はそんな彼女らに軽く謝り、移動しながら事の経緯を説明します。
「成程」
「そういうことな・・・って、あそこに行った様やけど」
「・・・あそこは・・・テラスですね~・・・」
経緯を説明し終えるとイリスはテラスへと出て行きました。現在は日も暮れかけて来ているので寒いのですが、誰かと待ち合わせなのでしょうか?
気になるのでそぉ~っと見つからない様に覗いてみますが、テラスに居たのはイリス1人で、どうやら様子を見るに疲れたから退避して来たようです。
「こんなパーティ初めてでしょうし、仕方ないかもしれませんわね」
イリスは平民なので、普段パーティー何かとは縁遠い存在です。それなのに今日の様な大規模且つ貴族だらけのパーティーだと疲れるのは当然とも言えるでしょう。
「あれ?誰かいるんですか?」
とそんな時、イリスが隠れていた私達に気付いた様で声を掛けてきました。色々ある中、正直イリスと対面して話すのは色々アレなのですが・・・
「・・・御機嫌よう、イリス」
「あ、マシェリー・・・さん。どうも・・・」
しかし気づかれたのなら出て行かないのもアレなので、テラスに出てイリスに話しかけたのですが・・・何故かマルシア達は出てきませんでした。
『何故っ!?』と思い、私が自然に彼女らへと目をやると、何やら『ファイト』みたいな仕草をしていました。・・・What's?
と、マルシア達の謎の気づかいを受けてイリスと1対1で話す事になった訳ですが・・・
「・・・」
「・・・」
私達は無言になってしまいました。
(な・・・何を話していいのやら・・・)
何時もなら悪役ムーブ、若しくはセクハラムーブでもするのですが、色々考える事もあり頭が回っていない私は言葉が出てきませんでした。
ですがそれはイリスも同様みたいで、私を見ているモノの目が泳いでいます。
流石にそんな状態のイリスの前で無言でいると可哀想だと思ったので、私は回らない頭からどうにかして話題を絞り出します。
「「えっと・・・あ」」
しかしイリスも同じような事を考えていたのか、見事に声が被ってしまいました。そうなると不思議なのが、この後です。
私達は日本人でもないのですが、何故か『どうぞ、どうぞ』と相手に譲り合ってしまいました。
その末に私が喋る様な流れになってしまったのですが・・・そんな事をしている間に、考えていた事は吹っ飛んでしまっていました。
「あの・・・そのね・・・えっと・・・」
私は何とか言おうとしていた事を思い出そうとしましたが出てこず、それでも思い出そうとしていると、咄嗟に頭に何かが閃いたのでそれを口にします。
「イ・・・イリス!」
「は・・・はい?」
「イイ物を上げますわ!」
私の頭に咄嗟に閃いたのは、以前の思い出であるイリスと2人になった時の事。そう、夏の合宿の時の事でした。
「えっと・・・これを差し上げますわ!」
私はあの時の事を真似てイリスに何かを差し出し、『これをお持ちなさい。これは心を落ち着かせてくれる素敵なアイテム!留学した先で落ち込んだ時や故郷が恋しくなった時に使うと、その気持ちを少し軽くしてくれる物でしてよ!』なんて適当な事を言って一旦この場を乗り切ろうとします。勿論それだけだとアレなので、最後にはきちんと『寂しくなるけど頑張りなさい』とでも別れの挨拶でもするつもりでした。
(留学だから帰って来るにしても、ここで一旦お別れだなんて複雑な気分・・・。けれど別れの挨拶もなぁなぁにしてしまったら、それはそれで余計に複雑な気分になりますものね。ですから別れの挨拶だけはしっかりと・・・)
私は何かいいモノは無いかと咄嗟に懐に手を入れ、丁度良さそうなものが有ったのでそれを差し出し、予め考えていた文言・・・先程の『これをお持ちなさい~軽くしてくれる物でしてよ!』を言いました。
それを聞きイリスは最初キョトンとしていましたが、私の言葉が励ましのモノだと解ったからか少し笑顔になりましたが、何やらそのまま固まってしまいました。
私としては、差し出した物を受け取ってくれた後に残りの言葉を言うつもりでしたので、早く受け取ってほしい所なのですが一体何故受け取ってくれないのでしょう。
「イリス?」
私が不思議に思い声を掛けるとイリスは笑顔を崩し、何とも言えない表情で目を泳がしながら手を出してきました。
それを見て、『漸く受け取ってくれるんですのね』と思っていたのですが、イリスは何故か中途半端な位置で手を止めていました。
そしてこれまた何故か、こんな事を言ってきます。
「・・・つけてください」
(・・・え?あ)
そこで初めて気が付いたのですが、私が差し出していた物は奇しくもあの時と同じ物・・・指輪でした。
それも・・・
(ペ・・・ペアリングゥゥ!)
私が差し出していたのは『ペアリング』、それもあの時みたいな適当に名付けた偽物ではなく、ゲームでイベントアイテムとして出て来た本物の『ペアリング』でした。
これはひょんなところ・・・学園祭で見つけてしまった、ある意味特級のヤバイ物です。なので肌身離さず持っていたのですがどうやら裏目に出たみたいで、私は焦り散らかしてしまいます。
(どどど・・・どうしましょう・・・。でも今更ひっこめる事も出来ないですし・・・)
「・・・マシェリー・・・さん?」
「あっ!はいっ!・・・あ」
そんな時にイリスが声を掛けてきたモノですから、私は咄嗟にイリスの手を取り『ペアリング』をつけてしまいました・・・左手の薬指に。
やってしまった事に思わず声を漏らしてしまいましたがイリスはそれに気付かなかったようで、今まで何とも言えない表情をしていたのから物凄いニヤニヤした笑顔に変えて話しかけてきました。
「・・・ふぅ~ん。・・・ふふふ、あマシェリーさん、これってもしかして、もう1つ同じものがあったりするんですか?」
「え・・・ええ。ありますけれど?」
「なら出してもらってもいいですか?」
「ええ・・・はい。・・・え?」
私はやってしまった事にプチ思考停止状態になっていたので、イリスの言うままにもう1つあった『ペアリング』を出してしまいます。
するとイリスはそれをスッと私の手から取り、そのまま私の左手を取って嵌めてきました。・・・薬指に。
「んふふ・・・ありがとうございました。それでは・・・」
イリスは私の指に指輪を嵌めた後笑い、礼を言ったかと思うとテラスから戻って行こうとしました。
私はそれをぼやっとした顔で見送るしかありませんでしたが、辛うじて最後に言葉が出てきました。
「イ・・・イリス。流石に見せびらかすと不味いから、普段はチェーンでも通して首にでも付けておきなさい」
「は~い」
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そんな情けない最後の言葉を言った日から数日後、イリス達留学組は国を出る事となりました。
一応その見送りにも私は行きましたが、終ぞイリスと挨拶を交わす事は無く・・・
「・・・」
「・・・」
一瞬だけ視線を交わしたのを最後に・・・彼女は国を去って行きました。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。これで4章は終了となり、次からは第5章とさせていただきますわね。ちょっとだけネタバレを言いますと、5章は数年後となりますの。っと、これ以上は続きをお待ちくださいませ。と言う所で・・・
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☆やイイネをぽちっと押すと 次回『実は私とイリスは結婚していた編』に・・・。
マシェリーの一口メモ
【なったらいいですわね?】