第180話 2度死ぬ男と事件の真相
「ぐ・・・おぉ・・・」
お腹を手で押さえ、その下から出血するテッショウ。
「ちょっと・・・え・・・!?」
慌てふためくパメラ。
「テッショウが・・・パメラが・・・ブツブツ・・・」
片手にナイフを持ちながらブツブツと呟くカリン。
「「「・・・ポカーン・・・」」」
そしてそれを周囲でただ見つめるマルシア達と、私が振り向いた先ではカオスな光景が展開されていました。
「え・・・?一体どういう状況ですの?」
「さ・・・さぁ・・・?あっ!でもテッショウさんが大変なのは確かです!助けなきゃ!」
「ええ!それはそうですわね!・・・あっ!?」
さっぱり状況はつかめませんでしたが、取りあえずテッショウをどうにかしなくてはと思っていると状況が動きます。
なんと・・・
「貴女も・・・貴女がぁぁぁあ!」
俯いていたと思ったカリンが急に顔を上げ、片手に持ったナイフを振りかざしながらパメラへと飛びかかったのです。
それを見て、私は咄嗟に声を上げました。
「ノワール魔法!」
「はいっ!闇の拘束!」
ノワールは私の声に瞬時に応え、カリンへと魔法で拘束を仕掛けます。そしてそれはパメラへと刃が届くギリギリに間に合い、何とかカリンを拘束する事に成功しました。
「あぁぁぁあ!放せェェええっ!」
「マルシア!サマンサ!シーラ!取り押さえなさい!」
「「「っ!!」」」
しかし拘束されたからと大人しくなる筈もなく、カリンは拘束を振り切ろうと暴れ始めたのでマルシア達に取り押さえる様に命じ、私もそれに加わる為走りました。
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その後、テッショウは何とか処置が間に合い、傷跡は残ったモノの無事回復し動けるようになりました。
しかしそれで『ハイ良かったね。解散』とするわけにはいかず、何があったかを尋ねるために、私達はそのまま全員で近くにあったボルグ工房へと向かいました。
「こっちだ・・・はいってくれ・・・」
儲けているのか、工房や販売する店舗部とは別に作られた建物へとテッショウに案内された私達は、会議室らしき部屋へと入りました。この部屋は防音も効いているという事なので、これから行う話し合いにはピッタリでしょう。
「・・・で、何があったらあんなことになりますの?」
全員を会議室にあった椅子に座らせると、私は早速事情聴取を行います。
しかしテッショウは刺された事によりテンションが低くなり無言に、カリンは未だ暴れる様子を見せていたので縄で口まで拘束と、2人は喋れない状態となっていたので、自動的に事情聴取はパメラが話す事になりました。
「それが突然だったから私にもイマイチ・・・兎に角、突然突き飛ばされたと思ったらテッショウがカリンに刺されていたわ」
「あ、それなんですけど・・・」
イリアスが見ていたらしいのですが、自分達より前方にパメラとテッショウが喋りながら歩き、2,3歩遅れてカリンが付いて行っていたのだそうです。そしてカリンが急にナイフを取り出したかと思うと、肩でパメラを押し、その後ナイフでテッショウの腹を刺したんだそうです。
「突然過ぎて呆気にとられて見ているしかありませんでした・・・」
「そう・・・。・・・という事らしいのだけれど、どうですのパメラ?」
「えっと・・・」
イリアスの証言を聞いた後、その前後の事を思い出したのか『恐らく間違いない』とパメラは頷き、更にその刺される前の行動を思い出し話してくれました。
それによると、最初は3人で話していたけれど、テッショウが自分に凄く絡んで来て何時の間にか2人で喋っていたそうです。この状態になる事は前から結構あった様ですが、恐らく刺された原因はこれなのではないかとパメラは考えているそうです。
それに対しテッショウは心底訳が解らなさそうにしていたので、彼にとっては本当に訳が解らないという事が伺えましたが・・・ギルティーですねこの男。そして同時にカリンもギルティーだったので、ネタバラシをしておきます。
「きっと不満が爆発したのでしょうね」
「・・・?」
「だから貴方は駄目なんですのよテッショウ様・・・いえ、テッショウ。よく考えてくださいまし、好きな方が自分をないがしろにして他の方にデレデレしていたら怒りもするでしょう?そういう事ですのよ?」
「???」
「ですから、カリン様は愛してらっしゃるテッショウがパメラにデレデレしているからプッツン来たんですのよ。ここまではっきり言ったのなら・・・お解かりになりましたわよね?」
「ん゛ん゛っっーーっ!」
いきなり私に自身の事を暴露されたカリンは抗議の声を上げていましたが、それだけの事をしたのです。甘んじて受け入れてもらいましょう。
そしてテッショウはと言うと・・・
「・・・え?あ?ええ?」
やはりというか、『マジで?』みたいな顔をしていたのでギルティー確定です。
とはいえ、私が言ったのは真実もあるでしょうが憶測だった部分もあります。なので一応カリンにも話を聞いてみるべきでしょうが・・・
「・・・けれどその前にっと、シーラ」
「・・・はい?・・・なんですか・・・?」
現在カリンは興奮状態にあり、このままだと口の枷を外したところで喚くのみで話にならないでしょう。なので私は、シーラに鎮静剤みたいなものは持っていないかと尋ねました。
すると持っているとの事だったので、私はそれをカリンに使う様お願いしました。
「ふふ・・・は~い・・・お薬ですよ~・・・」
「ん゛ん゛っっ!?ん゛ん゛っ!ん゛っ・・・」
怪しい感じでしたが効果は抜群、カリンはスッっと大人しくなりました。
少し様子を見ていましたが、再び暴れるような事も無さそうだったので、私はカリンへと近づき口の拘束のみを解くと質問を始めました。
「カリンとお呼びさせていただきますわね?」
「はい・・・」
「さてカリン、今回の事ですけれど、・・・・・・」
私の質問にカリンは答えていきましたが、概ね語った推察通りだった様で、『何時もパメラばかりに構うテッショウが憎くなってやった。パメラも私の気持ちを知りながらテッショウと仲良くしていたので刺してやろうと思った』との事でした。
「そうよ・・・パメラが・・・だから・・・なのに・・・」
その後はブツブツと何やら呟く様に喋り出したのでよく聞き取れませんでしたが、これで痴情のモツレという事が解りました。
そうして真相が解ったのですが、流石にこの先は私達が介入するべきかどうか難しい所です。普通ですと『当事者同士で~・・・』と放置するところですが、刃傷沙汰が起こっているので私達もある程度は見ていた方が良いのかもしれません。
(それにパメラも心配ですしね・・・)
と、そんな事を思っている時でした。
「あー・・・ちょっといいかい?」
「どうかしましたのレイラ?」
それまで黙っていたレイラが手を上げ、注目を集めました。
と、ここで私は何故レイラがあの時現れたのかが今頃気になり始めたのですが、その理由は直ぐに分かりました。
「えっと・・・確定事項じゃなかったんだけどね?今の話を聞いてかなりクロに近くなったから言わせてもらうんだけど・・・」
「クロ?」
「あたし達が作っていた『属性剣』だっけ?あれって途中で一回素材の属性が混じっていて云々ってのがあっただろ?」
「ええ。ジョン・ラ・ビーが黒幕説ですわね?」
「は?」
「いえ、気にしないでくださいまし。金属から属性の反応が出た件ですわよね?」
「ああ、それさ。実はアレの犯人ってのが・・・カリンかもしれないんだよね」
「えええぇぇぇっ!?」
どうやらレイラやグロウにグラァはあの件を独自に調べていたらしく、今日私達が品評会に出掛けている際に大体の事が解ったのだそうです。
そしてそれを知らせに来た所、偶然にもあんな場面に出くわしたんだとか・・・。
「やりますわねグロウにグラァ、流石ケスーコの孫といった所かしら。って双子の事は置いておいて・・・カリンが犯人とは一体?」
「えっと、憶測も混じってるんだけどね?」
それからレイラは調べた事を話し始めてくれました。
先ず話してくれたのは鍛冶師組合の事で、そもそも王都には鍛冶師組合なるモノがあるらしく、そこが工房に素材を降ろしてくれたり、貴重素材を管理しているのだそうです。
そしてボルグ工房は、そこに顔が効くんだとかどうとか・・・
「ボルグ工房は結構老舗だし、未だ力もあるからね。昔はウチもそうだったんだけど、今はそうでもないのよね」
パメラは勿論それを知っていたらしく、自分の所の事も交えながら教えてくれました。
レイラはそれに頷き続きを話し始めましたが、それによると・・・
「ロギヌス工房に送られる素材がちょくちょく検査されていたんですの・・・?」
「ああ。普通はあんまりないらしいけど、そうらしいよ」
普段は年1あればいいくらいの違法物を取り締まる検査がロギヌス工房に送る分のみ頻繁にされていたらしく、それはミスリルの時もそうだったようです。
「まぁそれだけだとイマイチなんだけどさ、前からあった金属とかでも反応が出てたじゃないか?それもあって、もしかしたらチョコチョコと来ていたカリンが怪しいんじゃないかって話になってさ」
「なる・・・ほど・・・って、そういえば・・・」
今頃思い出しましたが、そう言えば『属性剣』がおかしくなった・・・多分属性が混ざった日、カリンらしき人がロギヌス工房から出て来たのを見たことを思い出しました。
これはもしかするともしかするかもしれません。
「カリン?ねぇカリン・・・」
「・・・だから・・・だから・・・」
「カリン!」
「・・・なに?」
お薬がキマりすぎたのか、ブツブツと呟き続けるカリンへと声を掛けます。その際テッショウの方をチラリと見ると唖然とした表情をしていたので、彼は恐らくこの件には関わっていないのでしょう。
「貴女、もしかしてパメラが作っていた物に細工をしましたの?たとえば金属に何かしたとか?」
「ええ、したけど・・・したのに何で仕上げて来るの・・・予定ではこうなるはずじゃなかったのに・・・」
詳しい事は解りませんが確かに何かをしたそうで、その後ブツブツと呟かれる言葉をよくよく聞いてその断片を繋ぎ合わせると・・・
『予定では作品が作れず品評会には不参加。すると勝負に負けたパメラに、テッショウが職人を止めるかボルグ工房の下に付けと言う。職人を止めたパメラにテッショウは構わなくなる筈。私勝利。』
と、大体このような感じの内容を喋っていましたが・・・どういう理論なのでしょうか?取りあえず超理論の一端へと組み込まれているテッショウへと質問してみます。
「・・・テッショウ、貴方勝負に勝っていたらパメラに職人を止める、若しくはボルグ工房の傘下になれとでも言うおつもりでしたの?」
「・・・あ?いや、まぁ職人を止めて・・・ブツブツ・・・とは言おうとしたが・・・」
テッショウは小さな声で言っていましたが・・・聞こえていますよ?でも『俺の嫁にでもなれ』とか・・・そんなの許しませんよ私は。
というか、そういう事ならそもそも勝負に勝っても負けてもカリンの願いは叶わないのですが・・・ここでいうとまた発狂しそうなので黙っておく事にしました。
ともあれ、カリンがテッショウを刺した真相は解りましたし、謎だった私達の『属性剣』への他属性付与問題の真相も解ったので、これにて一件落着・・・とはいかないんですよね。
「まぁ私達の製作を邪魔した事については追々話す事として・・・テッショウ、貴方カリンをどうにかしなさいな」
「いや・・・今言うべきなのか、それとも・・・ブツブツ・・・」
取りあえずの問題として、憤怒の女から狂気のヤンデレに進化したカリンをどうにかしないといけないのでテッショウに声を掛けたのですが、彼は何やら夢を見ている様子でした。
「・・・やれやれですわね」
なので私は彼を夢から覚ましてあげる事にしました。
「テッショウ・・・」
私はテッショウの肩をそっと叩き、耳元で囁きます。
「そう、言うなら今ですわ。イケイケゴーゴーですことよ。今を逃すとタイミングがありませんわよ」
この囁きにテッショウは、『そ、そうなのか?』と反応を示し、更なる私の囁きに『よし、俺は一世一代の告白をするぜっ!』と決心をしてしまいました。・・・そう、彼はまんまと悪魔の囁きに乗ってしまったのです。
そんな彼はやおら立ち上がり、ずんずんとパメラの元へと向かいました。
そして皆が『いきなりどうした?』と思っている中、いきなりパメラの傍へ行き、椅子に座っていた彼女を立たせると・・・
「パメラ!昔から好きだったんだっ!俺と付き合ってくれ!」
彼女の手を取ると目の前で片膝を着き告白をしました。
いきなり始まった告白に、皆がポカーン、カリンが憤怒と悲壮の気を漂わせる中、突然告白された側のパメラも何が何だかわからずに固まっていました。
なので私はパメラに言ってあげます。・・・因みにですが、この時の私の顔は超絶笑顔だったと思います。皆がテッショウとパメラに注目しているのでそうはなりませんでしたが、もしこの時私の顔を見ている者が居たのなら、写真でも撮っていたかも知れません。
「パメラ、返事がほしいんですってよ?ハッキリと言ってあげて差し上げて?」
私の言葉が聞こえたのでしょう。パメラは硬直から解放され、私が言った通りにハッキリと・・・そしてズバッとテッショウへ返事をしました。
まぁ勿論・・・
「テッショウ・・・」
「おう・・・」
「無理。それに、今そんな事言うとか、何考えているの?」
「なはっ・・・・っっ!?!?」
御断りの返事でしたが。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「カリンさんヤンデレ!?」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いです事よ?
☆やイイネをぽちっと押すと もう一度爆死しますわ。
マシェリーの一口メモ
【鍛冶師が使う素材は自分で買い付ける事もありますけれど、ほとんどが鍛冶師組合への注文となりますわ。なんせ自分で買い付けるよりも品質や流通量が安定しているので便利ですから。】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】




