第167話 ピンチをやる気に!
店舗の応接スペースにグデーンと座りながら項垂れている職人達を見て何となく事を察しますが、それでも一応聞かねばならないと思い問いかけます。
「パメラ」
「・・・何?」
パメラの名前を呼ぶと、彼女は項垂れたまま小さな声でボソボソと私の呼びかけに応えました。
「如何しましたの?制作が上手くいかなかった?」
「・・・ええ、駄目だったわ」
少々ストレートに聞いてしまいましたが、彼女はそれでも答えてくれます。この分ならまだ話せるかと、続いて詳しい事も話してほしいと言うと、彼女は項垂れた顔を上げて昨日からの事を話し始めてくれました。
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「成程。ありがとうパメラ。話してくれて」
「・・・ええ」
パメラの話してくれた話は、聞く限りですと特に問題はなさそうな話でした。
(寧ろ上手くいきそうな雰囲気すらあった話なのに・・・)
彼女らは昨日、貴重金属の持ち込み検査が入って予定より少し遅れたらしいのですが、昼過ぎには作業を開始したらしいのです。
最初はミスリルに慣れるため、各々が軽い自分の分野の物を作り感触を確かめたそうで、それは存外上手くいったのだとか。
ですから直ぐに本番である『属性剣』製作にとりかかったそうなのです。・・・因みに話を聞く限り、この時点で私達が工房を訪れる30分程前位だったそうです。一応昨日も様子を見に工房には訪れていたんですよね。
彼女らは私達に気付かずそこから製作を続け、日付が変わる前には何とか試作品を作り上げたそうです。
(ですがそれは失敗だった・・・と)
最初の一本目は、試す事なく失敗だと解ったのだそう。
ですが失敗作が出来るのはままある事だそうで、その時点では彼女ら3人共『さっさと次作りましょう!』とまだ元気だったそうです。
ですからそこから1時間程休憩を取った後再び作業に入り、朝日が昇る頃にミスリルでの試作品2号が完成したそうです。
こちらはまぁ上手くいったかな?という具合だったのでグロウとグラァが魔力を流し試したそうですが・・・
(これも何故か失敗だった・・・)
感じ的には1本目と違い、『失敗作だ!』という感じは見受けられなかった様なのですが、結果的には唯のミスリル剣でしかなかったそうです。
彼女達は落胆しそうになっていたそうですが、めげることなく『もう一本作ろう』と3人で励まし合い、仮眠休憩を取った後に再度作る事にしたそうでした。
ですが・・・
(やはりそれも駄目で、気力と体力が続かずこうなっている・・・と・・・)
タイムリミットが迫っているにもかかわらず正解が見えてこない・・・等の事もあるのでしょう、彼女らは何時にもましてだらりとしており、その目には暗い光が漂っていました。
しかしです、ここで諦めると本当にゲームオーバーになってしまうので、私は彼女らに発破をかける事にしました。
「イケると思った希望が打ち砕かれた。確かにそんなことになれば気持ちは沈むでしょう。しかし、このままにしておくつもりではないですわよねパメラ、それにグロウ、グラァ?」
「・・・そりゃぁやるだけはやるつもりよ。けど最初から駄目で元々って考えだったし、出来なかったら仕方がないかなって感じ・・・」
「ろっ・・・今まで誰も無しえなかった事に挑戦する事自体間違いだったろっ・・・」
「らっ・・・所詮グラァ達の技術では無理だったらっ・・・それに時間も少なすぎらっ・・・」
軽いジャブを撃ったつもりでしたが、予想外に彼女らはメンタルをやられている様でした。・・・もしかしたら温泉へ行ってリフレッシュした事により、張りつめていた気がゆるゆるになって脆くなってしまったのかもしれません。
「むむっ・・・」
しかし逆効果だったかと嘆いている場合でもないので続けることにします。そうでないと、前世でよく見た疲れ切った同僚の様に、あまり良くない道へ続くかもしれませんしね・・・。
「ですがパメラ、テッショウとも勝負を約束していたでしょう?それはいいんですの?」
「・・・なんだかんだテッショウはあれでも腕がいいから、負けても仕方ないかも知れないとは最初から思っていたわ。偶に勝負を仕掛けられていたけど、何時もギリギリだったし・・・」
「グロウにグラァもこれでいいんですの?新しい物を作っていくのが魔道具師ですし、原理を解明していくのが錬金術師でしょう?」
「所詮グロウは3流ろっ・・・ここまでこれたのはグラァの力ろっ・・・」
「そんな事ないらっ。グラァの方こそ3流で、グロウの力があったからこそここまでやれてるらっ」
「グラァ・・・」
「グロウ・・・」
なにやら双子の方はよさげな雰囲気になりハグし始めたので、少し持ち直したのでしょうか?・・・と、双子の方はもう少し飴を上げれば良さそうになってくれたのですが、問題はパメラです。
彼女はメンタルが落ち込みすぎていて、何時もなら『テッショウ?あんな奴余裕よ』的な事を言っていましたが、何故か今は『テッショウは実力があるライバル・・・敵わないわ』と逆の事を言っていました。・・・もしかしたら今の言葉の方が本心なのかもしれませんが。
(先代の死・・・腕がいいテッショウ・・・工房の存続・・・ふむ・・・)
私はなんとなく事を推測し、それを発破掛けの材料にする事にしました。・・・まぁ間違っていたらアレですが、どうにかなるでしょう。
「パメラ、もしかして『テッショウがロギヌス工房に残っていたら、もっとロギヌス工房は栄えていた筈』とか考えたことがあります?」
「・・・」
「その反応からするに、『ある』んですのね」
割と適当な推測ですがあっていた様なので、私はそのまま続けます。
「私は正直あの方の腕前がどんな物かは解りません。まぁボルグ工房で次期工房長になるかも知れないって事ですから、確かにいいかもしれません」
「・・・」
「で・す・が!私はパメラの腕が彼より劣っているとは思いませんわ。それはここに飾られている物を見れば解ります!ね!サマンサ!」
「ん?あぁ~・・・まぁ超一流やないけど、かなりエエとは思うで?ウチの家かなりデカイ商売しとるから、武器も見る機会ぎょうさんあるで確かやで?うん」
「見る目は確かにあるサマンサがこう言っていますし、良いか悪いかだけならば確かに分かる私もパメラの作ったモノは良いと言えますわ。ですからパメラ、もっと自信をもってくださいまし」
「でも・・・私は所詮女で・・・工房を継ぐのにも・・・だから・・・」
「男だの女だの、工房の後継だの今はは関係ありませんわ!パメラは凄い腕を持っている!テッショウにも負けていない!これが今は重要ですの!それに!」
「・・・それに?」
「正直テッショウがトップの工房はあまり流行らないでしょう。なんせあの性格ですもの。いくら腕が良くともお客様は離れていきますわよ?」
流行る流行らないは正直出まかせですが、まぁ私の言う通りになる可能性もあるので嘘ではないでしょう。
しかしそれが決め手になったのか、パメラは『確かにあの性格がトップじゃね・・・』と納得し、少しずつ目に光が灯り始めました。・・・テッショウ、アナタどれだけ・・・。
「とまぁ色々言わせていただきましたが、それでも諦めますの?もし駄目だというのならば、それはそれで構いません。私も潔く諦めますわ。しかしできる事ならば、最後まで・・・リミットギリギリまでは諦めないでほしいんですの」
「・・・そうね。やるだけはやってみるべきよね」
私の言葉にパメラはやる気を取り戻したのか、頷き『やってやるわ。やって見せる』等と呟き始めました。
となれば後は双子ですが、彼女らには飴をほんの少し与えればいけそうなので、喜びそうな飴を与える事にします。
「グロウにグラァ、貴女達はどうしますの?」
「ろっ・・・」
「らっ・・・」
「もし諦めず頑張ってくれるのなら、そうですわね・・・これからも定期的にミスリルを調達いたしましょう」
「ろっ!?」
「らっ!?」
「それに、最後まで頑張ってくれたのなら、今度は泊りがけで温泉にご招待いたしますわよ?朝までスイーツパーティーもつけちゃいましょう!」
「やるろっ!」
「やらいでらっ!」
ちらつかせた飴はよほど甘く見えた様で、彼女達は最初の無気力ぶりが嘘の様にやる気が満ち溢れていました。
「さて・・・3人が無事やる気を取り戻してくれたので・・・再開しますわよ!『属性剣』製作を!」
「「「おぉ~!!」」」
一時は職人達の意気消沈っぷりに危ないかと思われた私達の武器製作は、こうして無事再開する事となりました。
タイムリミットも迫ってはいますが・・・頑張るとしましょう。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
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マシェリーの一口メモ
【特にありませんわ!しいて言えば『やる気があれば何でもできる!』、良い言葉だと思いますし、真理かもしれませんわね。】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】