第127話 雪山での事件
それは雪が降り未だ薄暗い早朝の事、寒さで目を覚ました私が雪避けの為に張ったタープの下で火を熾して温かいお茶でも飲もうと思っていた時でした。
「寒ぃ・・・これは顔を洗うのも温かいお湯ですわね・・・」
「おはようございますお嬢様。お早いですね」
「おはようノワール。あまりにも寒くて起きてしまいましたわ・・・『着火』」
「お茶のご用意を致します」
「ありが・・・ふぇっくしゅ!」
こんな風にノワールと会話しながら火にかけた水が沸くのを待っていると、雪が降っているというのに元気にこちらへとかけて来るイリスの姿が見えました。
私はその姿を見て、ふと『そう言えば最近悪役令嬢的ムーブをしていませんでしたわね』などと思い、『偶にはやりますか』なんてまるでノルマでもこなすかのような軽い気持ちで喋りかけます。
「あーらイリスさん、こんな寒いのに駆けまわるなんて子犬みたいですわね~?干し肉でもさしあげましょうか?あ、今は切らしてるので、そこら辺でも虫でも捕まえてさしあげますわね?」
「・・・ハァハァ・・・」
(決まりましたわ!んん~!久しぶりに言われた言葉に声も出ない様ですわね!オーッホッホッホ!)
私は自分の口から予想以上に良い感じの言葉が出たことで内心高笑いを決めていましたが、イリスは呼吸を整えるとまったく気にしていないと言う様に・・・というか実際気にしている余裕がなかったのでしょう、切羽詰まった様な表情で叫びました。
「あっ・・・あのっ!リア・・・イリアスはこちらへ来ていませんか!?」
「オホホホ、本当に子犬の様にキャンキャンと吠えますわね」
「今は!そういうのは!いいんで!で、どうなんですか!?」
「・・・そ・・・そんなに怒らなくてもいいじゃありませんの・・・」
「それもいいから!来ているんですか!?来ていないんですか!?」
「・・・来ていませんわ」
予想外に強い感じで起こられたのでショボーンとなりながら答えると、イリスも肩を落としオロオロとし出します。
ここで流石に様子がおかしいと感じたのか、ノワールがイリスに何かあったのかと問いかけます。
すると・・・
「えぇっ!?行方不明!?」
「うぅ・・・はい・・・ちょっとお花を摘みに行くと言って出かけて、そのまま帰ってこないんです・・・」
行方不明と大げさかもしれませんが、30分ほど前に出て行ったっきり戻ってこないとの事。
「それは不味いですわね・・・。あ、シフロート先生の所は行ってみましたの?もしかしたらそちらに居るかもしれませんわよ?」
「あっ!未だです!行ってきます!」
「あ・・・ちょっと・・・!」
行く事は無いと思いますが『もしかしたら』とシフロート先生のテントの事を言うと、イリスは1人で走って行ってしまいました。
そこにも居ないとなるといよいよ大変な展開になると思ったので、私達もシフロート先生のテントへと向かう事にします。
「行きますわよノワール!」
「はいお嬢様」
ノワールと2人少しだけ離れたシフロート先生のテントへと辿り着くと、泣きそうな顔のイリスの姿が見え、やはりここにも居なかったという事が解りました。
私達はそのままイリス達の元へと辿り着き話しかけます。
「シフロート先生!」
「マシェリーさん・・・貴女も聞いたんですな?」
「はい!どういたしましょうか!?直ぐに全員起こして探しに行くべきですの!?」
シフロート先生へと指示を仰ぐと先生は少しだけ考える様に黙り、その後口を開きました。
「いいえ、未だ薄暗く雪も降っている中で探しに出かけると2時遭難も起こり得ますからな。取りあえず全員起こすだけ起こして待機していてください」
「・・・それで大丈夫ですの先生?」
「大丈夫というよりは、この場合そうするしかないのですぞ。ですが大丈夫、私が魔法を使って探してみますぞ」
「・・・解りましたわ」
シフロート先生には離れた場所の景色を見れる魔法があるそうで、それで探してみると言います。
私達にはそのような魔法も使えないので大人しくテントへと戻り、全員を起こして事情を説明する事にしました。
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イリアスが消えてから2時間ほど経ち周りも明るくなりだした頃、シフロート先生から招集がかかったので私達は集まりました。
「皆さん、既に事情は聞いていると思いますがイリアスさんが戻ってこないそうです。私も魔法を使って彼女の姿を探しましたが、未だ見つけられていません」
「「「・・・」」」
「うぅ・・・リア・・・」
「日が昇って明るくなり、更に雪も今は降りやみ視界は良好。なので今からイリアスさんの捜索を始めようと思いますぞ」
シフロート先生はそう言うとこの辺り一帯の簡易的な地図を取り出し、自分が魔法で確認した大体の位置や捜索範囲の割り振りを指示してきました。
「私が確認したのはこの辺りで、引き続きこの後もこの周辺を探しますぞ。なのでマシェリーさん達はこの辺り、殿下達はこの辺りをお願いしますぞ」
「解りましたわ」
「解った」
「見つかる、見つからないに関わらず・・・そうですな、今が大体朝の7時くらいですので、12時くらいにはここに集合する様にしてください」
シフロート先生はその他にも、見つけた時の対処や、こういう場合には自分達で動かずに呼ぶように等の注意を言ってきます。
そしてそれが終わると、いよいよ捜索開始となりました。
「ではマシェリー班もグウェル班も気を付ける様に。ああ、イリスさんは特にですぞ?自分の所為だと気に病んでおかしな行動を起こさない様に、いいですかな?」
「・・・はい」
「では捜索開始ですぞ!」
シフロート先生はそう言うと、びっくりするくらいの速さで走って行きました。冷静に見えてはいましたが、恐らく内心では相当焦っているのでしょう。
しかしそれは私達も同じだったので、グウェル殿下達に一言だけ言うと急いで捜索範囲の場所へと向かいました。
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「イリアース!どこですの~!?」
「イリアース!おったら返事せぇ~!」
シンと静まり返る森の中、私達はイリアスの名を呼びながら捜索を続けていました。
「イリアース!」
「・・・イリアスー・・・うぅ・・・声がかき消されてる感じがします・・・」
しかし雪に音が吸われているからか、叫んだ声は響く事も無く何処かへと消えていきます。
「イリアース!」
ですが呼びかけを止めるわけにもいかず、叫んでいると・・・
『・・・ぃ・・・』
「・・・!?」
静寂が支配する森の中、私達以外の声が聞こえた気がしました。
「イリアスですのー!?」
『・・・・・ぅ・・・・ぃ・・・・』
「皆、聞こえまして!?」
「はいな!イリアスかは解らんけど、確かに何かは聞こえましたで!」
「多分あっちの方からですね!」
「・・・おーい・・・イリアスなんですかー・・・」
『・・・・・・ぁ・・・・・』
私だけに聞こえる幻聴でもなさそうで、恐らく聞こえたと思える方向へと私達は歩いて行きます。
「おーい!」
『・・ぉ・・・・・・ぁ・・・』
「あっちですわね!」
途中で再び呼びかけ聞こえて来る方向を特定しながら進み、何となく声が大きく聞こえて来たなと思った頃・・・私達はある場所へと辿り着きました。
「・・・洞窟?」
「洞窟やな。ココから聞こえたんか・・・?おーい!」
『ぉ・・・・で・・・・ぅ・・・』
「この洞窟の中から聞こえますね・・・」
「・・・こんなところに・・・いるの・・・?」
見つけた洞窟の方へと呼びかけを行ってみると、私達の声が響いたのとは別の声が返ってきます。
シーラは不思議がっていますが、私は『山・遭難』というキーワードからある事を連想しました。
「もしかしたら一時的に洞窟に退避したのかもしれませんわね。何もない場所よりかは雪や風を防げますし」
「・・・あ・・・成程です・・・」
「なら入って確認します?もしかしたら怪我して動けへんようなっとるかも知れへんし」
「ええ。急いで助けますわよ」
もしこの時私達が冷静ならば、2つの意見を出し引き返していたでしょう。
1つは『シフロート先生の注意に従わなくては』
そしてもう1つは・・・『この洞窟がある場所って、行くなと言われていた山の中では』と。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
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え?☆やイイネをくれるんですの? 嬉しくてクマりましたわね!
マシェリーの一口メモ
【豪雪地帯で叫ぶと雪崩が起きる危険性もあるので注意が必要ですのよ?】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】