第120話 今は似て非なる星
ノワールが小さい頃の話をすると言った当初は『ロリノワールのお話?勿論興味あります。だって美女の幼少期のお話ですよ?』とか能天気な事を考えていましたが、今の私は何と言っていいのかわからずただ口をもにょもにょとさせていました。
(まさかノワールの幼少期があんな風だったなんて・・・)
何故なら、予想外の重いお話だったからです。
しかもです、出来る事ならばそんな重い過去の話を終えたノワールに声をかけるべきなのでしょうけれど、私はそれが出来ずにいました。
それというのも・・・
(昔の私とノワールの話に、今の私が何か言える資格なんてないんですわ・・・)
こんな事を思っていたのです。だって先程ノワールが語り『希望』とまで言ったのは今の私になる前の私、つまり本来ならば今ここにいたであろう私なのです。
その彼女が『辛かったのね』『あの時そんな事が』なんて言うのならば解りますが、今の私には到底そんな事を言える資格はないのです。
ですが今の私もノワールとは長い時を過ごしてきたので『何か言えずとも彼女に寄り添いたい』、そう思った私は彼女を抱きしめる事にしました。
「・・・ノワール」
ギュッと。唯ギュッと。彼女の辛かった思い出を少しでも私が支えられるように、唯々無言でギュッと抱きしめました。
しかしそれ位では彼女の心は癒えないだろう、未だ辛そうな顔をしているだろう、そう私は思っていたのですが・・・
「クフフ・・・」
「ノワール?」
彼女は辛そうな顔どころかもの凄く緩んだ顔をし、私の事を抱きしめ返してきました。
「貴女・・・大丈夫ですの?」
「はい?何がでございましょう?」
「え・・・あの・・・先程の昔の話が?あれって未だ思い出すだけでつらい思い出なんじゃありませんの?」
「いえ?特にそんな事はございませんが?」
「ふぁぇっ!?」
超絶吃驚してしまったので変な声がでてしまったのですが、明らかに今の話って『辛いけれど事情を説明するには話すしかない話』なのでは?
余りの自体に困惑していると、ノワールが若干ドヤった顔をしながら口を開きました。
「ふふふ。お嬢様、私を見くびってもらっては困ります。私はお嬢様と出会ってから劇的に成長したのですよ?」
「は・・・はぁ?」
「先程話した昔の私ならば確かに未だ過去を引き釣り『私は母に嫌われていた。世界から否定されていた』とでも嘆いていたと思います。ですが今の私ならばそのような過去『あったなそんな事』と笑い飛ばせます」
「そ・・・そうですの」
私はノワールを舐めていた様です。どうやら彼女は、私が思っていたよりずっと強いようです。・・・と、思っていたのですが、ノワールの顔がドヤってる顔そのままに、目だけがどこか遠くを見ている様でどこも見ていない目に変わった事で、私は先の考えが気の所為だと気づいてしまいました。
「そうですとも。私はお嬢様の傍に居れさえすれば無限に幸せを感じられ、無敵にさえなれるのです。ですが逆を言えばお嬢様がいなければ私は弱い。ですから私はお嬢様と一生を共にし、お嬢様が死ぬときは私が死ぬ時と決めているのです」
私も冗談でちょっとアレな発言とかする時はありますが、このノワールの発言は恐らく心の奥の本音、真実でしょう。ならば彼女は・・・
(だからこそゲームではずっと一緒にいたのかもしれませんわね)
ゲームで私とノワールが一緒に破滅するのは唯の設定だと思っていましたが、今この時、私は真実に触れた気がしました。
ですがそれは『知らなかった設定が知れて嬉しい』と思える様なモノでもなく、唯々何と言っていいのかわからない様な感情が押し寄せて来るばかりでした。
(はぁ・・・憂鬱ですわ・・・しかもあれじゃありませんの・・・)
私はこの時気づいたことにより1つ誓いを建てざるを得ませんでした。それは・・・
(私が元の私から変質してしまった事は墓まで持っていかなくてはなりませんわね)
そう、私が元の私でない事を隠し通すということです。
幸いにも今の所、私が成長した事によりアレな性格からまともになったと思っている様なので、何とかそのままその勘違いを続けてもらいましょう。
という事で・・・
「ノワール、過去のお話を聞かせてくださって感謝しておりますわ」
「はい」
「それで、その先の話を踏まえての続きを話してくださる?」
「解りました」
少し露骨かも知れませんが、私は話題の方向転換を行いました。ですが元々の話題ですので不自然には思わなかったのか、ノワールはその話題に乗ってきました。
「先程の話をしたのは、良い機会でしたのでお嬢様に私の事をもっと知ってもらいたかったので話したのですが、それとは別に重要な点があるのです。それは私の村を襲った賊が恐らく今回の誘拐組織と関わりがある事なのです」
まさか過去の話の賊と今回の組織が関係していたとは思いもよらず、私はギョッとした顔をしてしまいます。
「なっ!?・・・成程、それで恨みもあるので、迷っているのなら誘拐組織を潰す方向にしてくれと、そういいたいのですわね?」
「いえ、恨みはさほどございません。もう私にとってはどうでもいい事なので」
「あぇぇぇ!?」
私の間抜けな声を聞いて若干顔を緩ませた後、ノワールはこれまた思いもよらない情報を話し始めました。
「昔の賊と関わりがある今回の組織ですが、潰す方向にしてほしいと言ったのは私が賊のアジトから逃げ出す時にあるモノを見たからなのです」
「あるモノ?」
「はい。正直あれからあの賊の話は聞かなかったので放置していましたが・・・」
「関わりがありそうな組織の話が出て来たから話した方が良いと思ったんですのね?」
「はい」
「で、何を見たんですの?」
「はっきりとは覚えていないのですが、指示書若しくは計画書みたいなものをチラッと見たのです。そこには・・・・」
ノワールが話し始めた内容を聞き私は耳を疑いました。
何故ならノワールが話した内容が、指示書?に『オーウェルス家と取引を開始する様に工作せよ』や『オーウェルス家と取引を開始したのなら、それを隠れ蓑に利用し禁制品を集め闇市場へ』等の事が書いてあったらしいからです。
勿論『オーウェルス家と取引』はすでに知っている事なので驚きはしませんでしたが、問題はそれ以外の事でした。
「つまりはその組織がオーウェルス家を盾に色々あくどい事をするみたいなので、出来る事ならばそれらが発覚する前に私達が潰して証拠隠滅を図った方が良いと?」
「はい。あの指示書が本物で、尚且つ計画通りに事が運んでいると仮定したとして、今回の様に素人のイリス様に見られている様では発覚する恐れがあります。そうなればオーウェルス家やお嬢様に被害が及ぶ可能性がございますので」
「成程・・・」
私もノワールもオーウェルス家が悪どい事をしているのは承知しています。ですがそれはあくまで秘密裏に行っているので表に出る可能性は極小です。
しかし今回のアークレッド家関連の組織はそれが杜撰な様で、ノワールの言う通り発覚後に被害が出る事が予想され、そしてその被害ですが・・・私はそれがかなり大きく、というか破滅への一歩になることを原作から知っています。
つまりこの誘拐事件、出来る事ならば介入して潰した方が良いという事ですね。
「ノワール、貴重な情報ありがたく使わせていただきますわね?」
「はい。お役に立てたようで何よりでございます」
そうと決まれば話は早く、私はどうしようかと迷っていた選択をアークレッド家を潰す方へと決め、作戦を練る事にしました。
私は仲間の知恵も借りて作戦を練りますが一朝一夕では決まらず、気が付けば月日は進み・・・例の日が来てしまいました。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
「面白い」「続きが読みたい」「ノワールさんヤンデレなの?」等思ったら、☆で評価やブックマーク、イイネを押して応援してくだされば幸いですの。
イイネ☆ブックマークがもらえると ノワールがデレデレになりますわ。
マシェリーの一口メモ
【元の世界では善良な私もこの世界ではオーウェルス家に染まり多少は悪い事をしていますのよ?詳しくは・・・秘密ですわ!】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
最弱から最強を目指して~駆け上がるワンチャン物語~ https://ncode.syosetu.com/n9498hh/
よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】




