第119話 暗い夜に生まれた星・下
≪ノワール視点≫
家に向かって歩いている間は唯の一言すら会話もなく全員が無言で歩いていましたが、その場の誰もが無言であるからと言って何も考えていなかったわけではなかったのでしょう。
その証拠に賊はこれから受け取る金品等を考えニヤ付き、私の両親は・・・何故か私に向けて妙な視線を向けていました。
それに対し私は『先程の事をまだ怒っているのか?でも、賊だったなんて解るはずないのだから仕方ないではないか』なんて思い、また後で殴られるんだろうなと体を震わせていました。
やがて家へと着き中へと入ると、漸くそこで会話が始まりました。・・・といってもそれは楽しいお喋りなんかではなく、指示や交渉の話でしたが。
「おい、ボスからの話を村長から聞いたんだよな?」
「・・・はい」
「ならわかるよな?出すもんだしな」
「・・・少しお待ちください」
普段は厳めしい顔をしている父もこの時ばかりは卑屈そうな顔をし、賊のいう事に唯々従い家の中から価値のありそうな装飾品やお金を集めていました。
「・・・うちからは装飾品と金品で払わさせていただきます。・・・どうぞお納めください」
「おう。えッと確かボスに言われてたのがこれ位で1人分だから・・・3人分か?」
私は耳を疑いました。それと言うのも私達は父・母・私・弟の4人家族なのです。
どういう事だと思っていると、賊も『ん?』と不思議そうな顔をして聞いてきました。
「ん?何で3人分だ?後1人分たりねぇぞ?ってか、3人分にも少し足りねぇ」
「いえ、間違いありません。3人分です」
「あぁん?自分が土下座して詫びて死ぬからその分マケロってか?」
考えてみれば確かに家は・・・というか村自体が裕福ではありませんでした。なのでよくよく思い返してみると、連れて行かれた後戻ってこない人も数人いた様な気がします。
てっきり私は賊のお楽しみからまだ帰ってこれないだけかと思っていましたが・・・
(そう言えば男の人も何人か帰ってきてない・・・)
その時生まれて初めて父を尊敬しました。なんだかんだと私を嫌っていましたが、いざとなれば守ってくれるんだなと。
・・・まぁ一瞬で撤回しましたが。
「いえ、その3人分は私と妻、息子の3人分です。足りない分は娘を売るという事でどうか・・・」
「お・・・とう・・・さ・・・?」
何時もならやはりと思ってそこまで心も動かないのですが、その時は直前に父の事を高く見ただけあって落とされた時の衝撃で激しく動揺しました。
その為何時もなら諦めて唯項垂れるだけだったでしょうが、私は掠れた声で父を呼んでしまいます。
「こんなん売っても大した金にならんぞ?」
「いえいえ、それは早計というものです」
しかしその声は聞こえていなかった、若しくはわざと聞かなかった事で何の反応も貰えませんでしたが。
私の声を無視した父は続けます。
「この子の産みの母は魔法が使えていましたので、この子も魔法が使える様になるかも知れないんです!」
「ほぉ?今何歳なんだ?」
「9歳と半年ほどです!」
「ふむ・・・それなら・・・でも黒髪か・・・おい、このガキの髪は染めてるわけじゃねぇんだよな?」
「勿論です!」
「ん~・・・でも確実じゃねぇしなぁ・・・」
私の父と話していた賊は何やら考えていた様子でしたが、途中で私の方へと近寄りジッと顔を見てきました。
どうやらそれは品定めの様で、1つ頷いた後『これならまぁ・・・』と呟き、父に言いました。
「ま、いいだろ。使えれば聞いた事しかない珍しい魔法使いになるだろうし、使えなくても磨けば光りそうだし売れるだろ。契約成立だ」
「あ・・・ありがとうございます」
こうして私は私の意思が介在する余地もなく売られてしまいました。
「っは・・・けど娘を売るたぁおめぇもクソだなぁ。俺が言うのもなんだが、コイツ長生きはできねぇけどいいのか?」
「いいんですよ。黒髪黒目ですからね、長生きしていても厄介を運んでくるだけですよ」
「ハハハ!俺達みたいにか!?」
「・・・ぃ・・・ぃぇ・・・そんな・・・」
しかし、その時の会話によりハッとなった私は、これが最後だと思い意思を表しました。
「・・・おい、何のつもりだ?」
私は持ったままだった野良仕事の道具からナイフを取り出し構えていました。
ですがそれは賊に抗ったり自殺する為に出したのではなく・・・
「いえ、唯少し髪を切るだけです」
宣言の通り私は少し髪を切った後ナイフを捨て、野良仕事の道具も床に置きました。
その後父へと近づき、髪を差し出し言いました。
「お父さん、売られるのは承知しました。ですから最後のお願いです、私の髪を母の・・・ケイティ母さんの墓へ一緒に入れてください」
この時私は父や賊の会話から生きてこの地へと戻る事は出来ないだろう事を察していました。
なのでせめて母の元に私の髪を埋めてほしかったのです。
そうすれば・・・きっと死んだ後に私を愛してくれていた母と共にいられるからと思ったから・・・
「・・・・れ・・・るか」
しかしそれは・・・
「誰がいれるかそんなモノ!」
父の怒りを招き・・・
「お前のせいでケイティは死んだんだぞ!?こんなの私の子じゃない!私は悪魔の子なんて産んでない!私の子は何処?きっと魔界に連れて行かれたんだといってな!・・・お前のせいで・・・自ら命を絶ったんだぞ!?」
知らなかった最悪の事実を私に知らせる、最悪の行為でした。
その後直ぐの事はあまり良く覚えていません。
微かに覚えているのは私を殺そうとする父と、商品を傷つけるなと言っていた賊の声だけです。
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その後気づくと、私は牢屋の様な場所に居ました。この時の私は思考がぼんやりしていたのですが、今思い出すと周りには同じように檻の中に居る人や荷物、賊等が居たので間違いないと思います。
そこは悲鳴や怒号、すすり泣く声や下卑た笑い声が響く地獄のような場所でした。
ですがそんな地獄は・・・結果的に私にとってはプラスに働きました。
ぼんやりしていた思考は徐々に『怖い』や『死にたくない』等の感情を呼び起こし、それが私の魔力にも作用したのでしょう、私は精霊の儀も受けていないのに魔法を使えるようになったのです。
当初私はそれが魔法だとは認識していませんでしたがその地獄を抜け出す力だという事は無意識に感じていたみたいで、私は魔法を使い脱出を試みました。今思うと大分無謀な作戦と動きだったのですが、奇跡的にも私は逃げ出す事が出来ました。
しかしです、逃げ出したはいいのですが私は途方に暮れてしまいました。
何故なら、私には帰るべき場所も、頼れる場所もなかったからです。更に・・・
「お母さん・・・私は愛されていなかったの?生まれて来たのは間違いだったの?」
地獄のような環境から抜け出したことにより思考が戻ってしまい、『死にたくない』と思って逃げ出したはずなのに『死にたい』と思うようになってしまったのです。
「うぅ・・・もういや・・・もういやだよぉ・・・」
空腹や寒さも相まってか私は蹲り、道端で泣いていました。延々と泣き続けて涙も枯れ果て、疲労の所為か意識を失いかけた時の事です・・・
その時・・・私は初めてお嬢様に出会ったのです。
なぜそのような所にお嬢様が居たのか、当時の護衛達に聞いても解らなかったのですがまぁそれはいいでしょう。
重要なのはその時お嬢様がかけてくださった言葉なのです。
・・・といっても意識が朦朧としていたのではっきりとは覚えていないのですが、それでも確かに『綺麗な黒ですわね』『お前は一生私のモノ、離れる事は許さない』そうおっしゃってくれました。
当時の私は・・・いえ、今もですが、この様な忌むべき黒を綺麗と言ってくれずっと傍にいてくれると言ってくれたお嬢様に光を見たのです。
それはまるで・・・暗い絶望を照らす眩い星の様でした。
その時の私はこの後直ぐ意識を失ってしまい、気が付いたらオーウェルス家のお屋敷に居りました。
そこからお嬢様の説得と私が珍しい闇魔法使いだった事もあり、私は無事お嬢様付きの使用人兼護衛になる事が出来たのです。
少々長くなってしまいましたが・・・これが私の過去とお嬢様との出会いのお話。
そして・・・私が誘拐組織を潰してくださいとお願いした理由に繋がる話です。
マシェリーより:お読みいただきありがたく存じますわ。
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マシェリーの一口メモ
【今回は特になしですわ!】
マシェリーより宣伝
【他に作者が連載している作品ですわ。こちら緩く読めるファンタジー作品となっておりますの。
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よろしかったら読んでくれると嬉しいですわ。】