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第10話 事件

 その日は前回お茶会を開催してから3日後、特に変わり映えのない晴れた日の事でした。


「お嬢様、トリム家、キーピス家の方がお見えになりました」


「解りましたわ。庭園へ向かいますわよ」


 何時もなら一番先に到着するのはサマンサでしたが、本日はマルシアとシーラが先に到着した様です。


 この時の私は、まぁそういう日もありますわよね、と大して気にもしていませんでした。


 ・

 ・

 ・


 私が庭園に着いたタイミングで、家の使用人に案内されてマルシアとシーラが庭園へと姿を見せました。


 何時も私や客を案内するタイミングがバッチリの使用人達に心の中で拍手を送り『職務とはいえ何時も万全にこなしているのは頭が上がりませんわ。使用人達に後で労いの品でも送っておきましょう』等と考えながらマルシアとシーラに挨拶をします。


「御機嫌ようお2人共、本日も私の招待を受けて頂き有難うございますわ」


「ご機嫌ようマシェリー様、こちらこそご招待いただき有難うございます」


「うふふ・・・御機嫌ようマシェリー様、ご招待嬉しく思いました」


 以前ならば、全員表面上だけの笑顔で挨拶を交わしていたのですが、今は全員が内心からの笑顔を見せている様な気がしました。

 これは前回の作戦が功を奏した結果だと思うので、やってよかったです。


 私が内心浮かれていると、マルシアが「あれ?」と言った顔をしました。


「どうかなさいましたかマルシア様?」


「いえ、サマンサ様が居ないのは珍しいなと・・・ただそれだけなんですが」


「うふふ・・・確かに珍しいです」


「そういう時もありますわよ。でもお越しになるまで待つのも暇ですから、お喋りでもしていましょう?」


 私達は全員が『喋っていたらその内来るでしょう』と思ったのでお喋りをすることにしました。

 前回に引き続き推しの方の事や令嬢達自身の事、それらを夢中で喋っていると、ノワールが私に近づいてきました。


「お嬢様、定刻になりましたがお茶とお菓子をお配りしてもよろしかったでしょうか?」


「あら・・・もうそんな時間ですの?・・・って、サマンサ様はまだおいでになってないのかしら?」


「その様で御座います」


 てっきりお茶会の開始時刻までには来るだろうと思っていたのですが、何故かサマンサは姿を見せません。

 一体どうしたのかしら・・・と考えていた矢先、1人の使用人が静かに近寄ってきました。


「マシェリーお嬢様、マルドール家の方がお見えになりました」


 遅刻と言えば遅刻ですが、今の私はそんな些細な事は気にしません。私は直ぐに使用人に通す様に言いました。


 その使用人は恭しく「畏まりました」と返事をして下がり、直ぐにサマンサとサマンサの使用人を伴って戻ってきました。


 サマンサも揃ったのでお茶会を始めましょう、と言おうとしたのですが、私はサマンサの様子がおかしい事に気付きました。


 よく見ると彼女の表情は・・・世界が終わってしまったかの様な表情をしていて・・・


 私はそのあまりに悲痛に沈んだ表情が見ていられずに、声をかけてみる事にしました。


「サマンサ様・・・」


「マシェリー・・・様ぁ・・・」


「一体どう・・・え?」


 サマンサが取った行動に、その場の全員が驚き固まりました。


「う・・・うわぁぁぁんん!」


 サマンサは泣きながら私に飛び込んできたのです。・・・と言ってもそれはとても弱弱しいもので、私は咄嗟にサマンサを抱きしめてしまいました。


「サ・・・サマンサ様?一体どうなされたのです?」


「うわぁぁぁあん!」


「お嬢様こちらを」


 何時の間にか真横にいたノワールにギョッとしましたが、ノワールはハンカチを差し出していました。・・・どうやら、サマンサの行動にノワールは瞬時に動き、私の傍へと来たようです。

 流石私付きの使用人兼護衛ですわ・・・と感嘆しながらハンカチを受け取り、私の腕の中で泣きじゃくるサマンサの目元をそっとぬぐいます。


(一体何がありましたの・・・)


 サマンサは泣くばかりでまだ話せる様子には見えなかったので、取りあえず泣き止むまであやすしかないと思いあやしていたのですが・・・ドンドンと怒りがこみ上げてきました。


(私のお友達・・・まだそうではないかもしれないけど、いえ、お友達ですわ!私のお友達を泣かせたのは何処のドイツですの!?許せませんわ!)


 サマンサの頭を優しく撫でながら、正体解らぬ何者かに激しい怒りの感情を向けていると、私の目に不思議な光景が飛び込んできました。

 しかしそれは、私へ声をかけて来たサマンサによって私の意識から外れます。


「マシェリー様・・・私・・・私・・・うぁぁぁんん」


 サマンサは何かを言いかけたのですが、また感情が昂ったのか再び泣き始めました。

 それを見て『ここは主の為に動くべき』と思ったのか、サマンサと一緒に我が家に訪れた使用人が私にそっと囁いてきました。


「差し出がましいのですが、サマンサお嬢様がこの状態ですので私めが事情を・・・。実は・・・」


 サマンサの使用人から話を聞き、私は衝撃を受けました。


「な・・・そうですの・・・。その懸念は確かにあったとはいえ、まさかこんなにも早く訪れるとは思いませんでしたわ・・・」


 私が懸念していた事、それは令嬢達を矯正・・・ではなく、令嬢達と仲良くなるための作戦を考えた時に、私の頭にちらりとよぎった考え。


 それは・・・



「まさか推しのスキャンダルが発覚してしまうとは・・・」



「うわぁぁぁん・・・ギルバート様ぁぁああ!」



 ・

 ・

 ・



 事の真相はこういう事らしいです。



 サマンサはオーウェルス家のお茶会へ行くための準備をしていたらしいのですが、出掛けようとして馬車へと向かう途中、1人の使用人が近づいてきたそうです。

 その使用人はサマンサが推している人物、『吟遊詩人のギルバート』についての情報を集めさせていた者で、サマンサはギルバートについて何か良い情報を持ってきたものだと心を弾ませたらしいのですが・・・。


「サマンサお嬢様・・・その・・・ギルバート様の事なのですが・・・」


「次の演奏会場でも解ったんですか?どこです?どこです?」


「いえ・・・あの・・・それがですね・・・」


 使用人は言いにくそうにしながらもポツポツと話をしたそうです。


 吟遊詩人ギルバートが、ファンであった貴族の令嬢を酒に酔わせて宿に連れ込み、それを知った令嬢の親が大激怒して問題になっているらしいと。


 この事は令嬢の親が秘密裏に事を進め公にはならないらしいが、使用人は偶々知る事ができたそうです。

 そして知ったからにはサマンサへと報告しなければと、報告をしたそうなのですが・・・


「う・・・嘘よ!ギルバート様がそんな・・・う・・・うわぁぁぁああん!」


 ギルバート様を応援する!推すわ!と、惚れ込んでいたサマンサは、その心を砕かれて失意の底へと沈んだそうです。


 その後使用人達がなんとか宥めてオーウェルス家に向かわせたらしいのですが、向かっている最中にまた感情がぶり返し・・・



 ・

 ・

 ・


(そしてこうなっている訳ですわね・・・)


 私は腕の中にいるサマンサの頭を撫でました。

 サマンサはまだ少し愚図っているものの、ギャン泣き状態ではなくなり先程の事実を話してくれました。


「辛かったですわね・・・」


「ぁぃ・・・ぐずっ・・・」


 私は再びサマンサの頭を撫でながら、これから話す事でまた泣かせてしまいますわね・・・とひっそりとため息を吐きます。

 しかしこれは他の2人の為にも言わなければならない事です。


 私は心を鬼にして、口を開きます。


「本当に辛かったと思いますわ・・・ですけど・・・」


「ぐずっ・・・?」


「それも『推し活』の現実なんですわ」


「ふぇ・・・?」


「「「「・・・え?」」」」


 私の言葉にサマンサのみならず、その場にいた者達も「え?」と頭に疑問符を浮かべていました。


「皆様にも聞いてほしいのですが・・・私が言った推しを応援する『推し活』は、勝手にこちらが応援して、勝手に『推し』と決めただけのモノなんですわ。なので推しが何か悪い事を仕出かしたり、結婚したり、亡くなったり、そう言った様々な事も起こりうるのですわ」


 使用人達は成程・・・と納得していましたが、貴族令嬢たる者達は少し違いました。


「そうですマシェリー様!推しの方に支援・・・所謂パトロンになって行動を制限するというのはどうでしょう!それならば今回の様な事は起こらないのでは!?」


 マルシア様がそう言いますが、私は自身の考えを語ります。


「確かにそれも一つの手ではあるでしょう。しかしマルシア様、私の考える推し活は、あくまで自身が自身の力によりその者を応援する事、なのですわ。家の力を使って推し活をするのはちょっと違うし、それでは愛が無い気がするのですわ」


「愛・・・ですか?」


「はい。愛です」


 極々最近愛や性というモノを知り始めた乙女達は首を傾げました。


「といっても、私もそこまで愛について語れないですし、語るには難しいモノなのですわ。私の話も参考程度にして、これから自分だけの愛を探していくのですわ」


「成程・・・です?」


「うふふ・・・愛・・・ですか・・・」


「・・・」


 推し活は難しいものなのです。そして愛も・・・。正直私も早乙女玲として人生のアドバンテージがありますが、それでも愛というのはぼんやりとしか解りませんわ。


「それにマルシア様、パトロンになるとしても、赤の魔王様や騎士団長様の様な方々だと逆にパトロンになってもらう方になりますわよ?」


 そう言えば・・・と、言われた事に対する答えをもう1つ言うと、マルシアは「確かに!」と言う顔をしていました。

 ロマンスの様な貴族社会だと、日本のより力の格差が凄いので推し活も難しいものですわ。


 一通り言いたいことを言ったので、私は未だに腕の中にいるサマンサに声を掛けます。


「という事なのですサマンサ様・・・。正直今回の事は私の考えが甘かった事が原因ですわ。もう少し緩やかに事を進めれば・・・申し訳ありませんわ」


「・・・」


「ですがサマンサ様、これで推し活・・・いえ、人を愛する事を嫌いにならないでほしいのです。誰かや何かを愛せない人生は、少し寂しいモノなのですわ・・・」


 私も転生する前、早乙女玲だった時に一時期そういう時期があったので、サマンサにそうはなってほしくないと思って語り掛けます。


 サマンサは私の腕の中でコクリと頷き、私の目を見てきました。


「解りました・・・」


「そう・・・ありがとうございますわ」


 御免なさい、とも言うべきかもしれませんが、私は前向きな気持ちになれる様、答えはあえてありがとうと言いました。


 しかし良かったです。取りあえずこれで一件落着ですわね・・・。



「ええ・・・解りました。私は次の愛を見つけたのでもう大丈夫です・・・マシェリーお姉様」



「・・・ん?」


 何か今・・・?と思いサマンサを見ると、彼女は少女と思えない熱い目で私の目をジーッと見つめていました。


「サマンサ様・・・?」


「マシェリーお姉様ぁ・・・」



 ・・・んんん?



 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。

 「面白い」「続きが読みたい」「キマシ・・・?」等思ったら、☆で評価やブックマークをして応援してくだされば幸いですわ。

 ☆がもらえると 塔が、建ちますわ?


 マシェリーの一口メモ

 【最後何故あんな展開になったのかは作者も解らないらしいですわ。気づいたらなっていたそうですの。私は一体どうなるんですの?】

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