サンタクロース
私は子供の頃、お母さんに何度も何度も「いいこの所には普通の真っ赤な服を着たサンタクロースさん、悪い子のところには真っ赤な血で染まったブラックサンタクロースさんが来るんだよ。だからいい子にしようね」と言われた。
そもそも最初からサンタさんなんて居なくてお母さんが枕元にプレゼントを置いているのも理解っている。
そこで私は試してみようと思って““しまった””。そう、試して““しまった””のだ──
今日は人生で何度目かのクリスマスイヴ。今日こそ計画を実行する日。何故だか恐怖よりも好奇心が勝っている。
私はお母さんの目を盗んで外に出る。外に出ると一面真っ白な絨毯で街が覆われている。空からふわりと雪が肩に乗っかってくる。人生で初めてのホワイトクリスマス。こんな日に実行するのは少し気が引けたが、次に実行するならばまた1年待たなくてはいけない。1年も待つだなんて考えられない私は暖かい格好をして、街の中へと飛び出す。
時計を見るとちょうど正午。ようやく待ち合わせ場所へと到着した。
「お〜い!咲〜!」
そう声をかけてくれたのは私と待ち合わせをしていたそうくん。
本名は相葉 奏稀で私は普段そうくんと呼んでいる。そうくんは身長も高く、頭も良くてバスケ部のキャプテンをしている、まさに王子様的な存在だ。そんなそうくんにまさか私が告白され、断る訳もなく今日で5ヶ月目になる。
「そうくん、遅れちゃってごめんね〜!結構待ったでしょ?」
「ああ、結構待ったぞ。なんて言ったって咲と会うのが楽しみすぎて2時間も早く着いたからな!」
「そうくんはやすぎ〜!早く言ってくれれば私ももっと早く来たのに!」
「まぁ2人揃ったことだしどこか行くか。咲、お腹空いてないか?」
「めっちゃ空いてる〜!今日お昼ご飯食べてくるの忘れちゃってさぁ〜」
「じゃあ最近できたあのカフェとかどうよ?」
「いいね!いこいこ〜!」
……
そんなこんなでデートも終わり際、夜の8時。
「そろそろ帰らないと母さんに怒られちゃうからそろそろ帰る?」
「そうだね〜明日も学校だし、そろそろ帰ろっか。じゃあ、またね〜!」
「また明日〜!気をつけて帰れよ〜!」
そうくんと別れて早1時間なぜ私が未だに外にいるのかというと絶賛家出なうだからである!
別に両親が嫌いなわけでも家に帰りたくない理由がある訳でもないが、家出はめちゃくちゃ悪いことだからである。
「あー寒!毛布持ってきといて良かったぁ〜!」
クリスマスイヴの夜に1人で毛布にくるまりながらベンチでスマホを見ている女子高生、なんて可哀想な構図だろう。こんなことならもっとそうくんといればよかった。なんて考えるが、そうくんに無理を言うのは流石に嫌なので、ここで1人くるまっている。
眠くなってきた私は辺りの人もちょうど疎らになってきたのでベンチに横になり少しだけ眠ることにした。
……
「お、おい大丈夫か?!」
そんな声で飛び起きる。
「は、はい大丈夫です!今から帰るので大丈夫です!」
いきなり声をかけられびっくりした私は変な言葉遣いになってしまった。
「な、ならいいが…気をつけて帰れるんだぞ?」
そう言うと巡回中の警察官のお兄さんは元の仕事に戻っていった。
時計を見るともう10時。そろそろ帰らないと明日の学校に支障が出てしまう。そうならないために家出をやめ、家に帰ることにする。
「あ〜怒られなければいいなぁ〜」
そんなことを考えながら1人夜道を歩く。
「悪い子はっけ〜ん!」
「!?」
背後からとてつもなく怖い気配がする。やばい!逃げないと!そう思った瞬間にはもう私は捕まっていた。
「悪い子には““ブラックサンタクロース””が来る。そんなことを聞いたことはないか?」
「!!悪いことをしてごめんなさい!だから、お願いだから、殺さないで…!!!!」
「殺しはしないぞ。殺しは、な?」
「おい!こいつを連れてけ!」
「かしこまりました!」
え?!私どこに連れ去られるの!?
そうくん、悪い子でごめんね。お母さん、お父さん悪いことをしてごめんなさい。ブラックサンタさんごめんなさい。 謝ってもしょうがないのは分かっていても謝ることしか出来ない私は無力だ。
こんなことしなければ良かった、なぜこんなことをしてしまったのだろう。
『ごめんなさい』