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戦神祭


 戦神祭。

 戦神バーミリオンの祖国ジラン王国にて開かれるその祭りが開幕された。

 道に立ち並ぶ屋台、人々の歓声、様々な催し、バーミリオンが神になりちょうど百年ということもあり例年をはるかに超える盛況ぶりだ。



 催しの一つにバーミリオンが神へと登った百年前の伝説を演劇にした舞台があった。



 昔、昔この世界は大神と呼ばれる一人の神に創られ、長く繁栄をしていた。

 だがある日、世界の外から魔神が眷属である悪魔達と共に現れいで大神から世界を奪おうと戦を仕掛けてきた。


 

 その永い何百年も続いた大戦に勝利したのは魔神だった。

『これでこの世界は俺の物だ!』

 壇上でそう謳うように宣言する魔神役、だが……



『待てい!』

 舞台のそでから咎めるように六人の男女が現れる。

 歓声が舞台に満ちる。



 最も後ろに控えるのは濡れ羽色の髪色で長髪の女と見間違うような美男子。携えるのは和国の武器である刀、布一枚の青い着物。刀神と呼ばれることになる東方の剣士アズマ。神となる前は戦神の臣下であったとされている。



 その前に立つのは六人の中で唯一の女性、頭に花を飾ったエルフの女。武器は持たず、簡素な白い貫頭衣。森神と呼ばれることになるエルフの巫女エフェメラ。



 エフェメラの横に立つのは全身に布を巻いた男か女か種族すら分からない人影。謎神と呼ばれることになる全てが不明の存在ゼノン、その名前すら正しいものかは神のみぞ知る。



 さらに前方、背の低い巌のように鍛え抜かれたドワーフの男。身の丈を超える戦斧を担ぎ、体の要所を守る鎧。炎神と呼ばれることになるドワーフの戦士ガンガルド。



 その横に並び立つは全身鎧と兜に身を固めた長身の人影。構えるのは巨大な、人ひとり完全に隠れてしまうような巨大な盾。騎士神と呼ばれることになるリドマン。



 そして皆の先頭に立つのは朱色の髪をした軍服に身を包んだ青年。剣を魔神へと向けつきつけこう叫ぶ。

『我ら六人!この時のために大神様より力を分け与えられし英雄なり!魔神よ、いざ勝負!』

『戦士よ名を名乗るがよい』

『バーミリオン!ジラン王国の将軍バーミリオン!』



 戦神と呼ばれることになる青年バーミリオンを先頭に英雄たちと魔神の戦いが始まる。

 戦神が斬りこみ、騎士神が魔人の剣を受け止め、炎神の戦斧がうなり、謎神の放ったナイフが飛び、森神の祈りが皆を守り、刀神の刀が閃く。



 戦いの末にバーミリオンは魔神の胸に剣を突き立てる。

 魔神の絶叫が響く。



 絶叫がおさまると奈落へと魔神役は消え去り、逆に舞台の上方から大神役が糸に釣られて現れる。

 六人の英雄たちは大神へと跪いた。



『よくやってくれた、六人の英雄たちよ。私の力はお前たちに全て分け与えた。これから先、世界はお前たちが導くがよい。やがて魔神は蘇るだろう。そのときに備えお前たちのような英雄たちを見つけ育てるのだ』



 かくて六人の英雄たちはそうして六神となり世界を守り、導く神となったのだった。



 さて戦神は英雄を見つける方法として武術大会を五年に一度開くようになった。

 それが戦神祭。

 元は戦神バーミリオンが人間だった頃に優勝したジラン王国一の戦士を決める大会である。



 大会のルールは単純で相手を戦闘不能に追い込むか、負けを認めさせれば勝ち。

 基本的にそれ以外のルールはない、どのような武器を使おうと、どのような戦術を使おうと、とにかく勝てばよし『勝つためなら全てを尽くせ、負ければ大切なものは奪われる』が戦神の教えだからである。 



◆ ◆ ◆



 戦神祭準決勝 聖娼ティアリスの護衛ザロア対ドワーフの戦士ゴドラン。

 


 この世界において最強の種族は人間でもエルフでもなくドワーフだとされている。

 かつて大神が生まれ落ちたとき、この大陸は今より遥かに狭く小さな島でありその上には石くれしかなかったという。


 小さな島を広げるために大神は自らに仕えるものを創った。それがドワーフ。

 その伝承が真実だと人々は知っている。



 なぜならドワーフたちには大地を操る力があるからだ。

 


「づえあああぁぁ!」

 裂ぱくの気合と共に振り下ろされた戦鎚が地面を揺らす。

 のみならず、まるで水面に打ち込んだかのように闘技場の地面が波打ち、ザロアへと津波のように襲いかかる。

 その波を飛び越えたザロアの着地際に走りこむドワーフの戦士。


 

 戦鎚と剣が交差し、戦鎚の柄が斬り飛ばされドワーフの首を撃つ。人間ならば致命傷の一撃。

 だが、ドワーフの体は岩石でできている。大神がドワーフを創ったとき世界には石くれしか無かったがゆえに。


 岩を揺るがすほどの力は剣にはなく逆にザロアは空中で身動きが取れない隙をさらした。

 


(まずい)

(まだ柄が残っている)

(突かれれば)

(ダメージは避けられない)



 襲い来るであろう攻撃を覚悟するザロア。だが攻撃は来ずそれどころかドワーフの戦士は柄を捨てた。



(何だ)

(何かあるのか)



 内心いぶかしむザロアだったがゴドランは両手を挙げた。

 降参のサインだ。その瞬間、ザロアが斬り飛ばした戦鎚の頭が地に落ちた。



「ゴドラン降参により、勝者ザロア!」

 審判の声が闘技場に響く。

 一拍遅れて、観客たちの歓声が怒涛のように闘技場を揺らす。


 

 闘技場で先ほどまで激闘を繰り広げた二人は親しげに話し始めた。

「参った、いやアンタ大した戦士だな」

「……まだ、戦えるように見えますが? いえ、それ以前に致命的な隙をさらしたと思っていたのですが」

「出場するまえから決めとったんだ人間が食らったらやばい一撃もらったら降参しようって。つうか本当なら大地を操る技も使わんつもりだったんだぞ」



(そう言えば)

(このドワーフの戦士は)

(あの一度しか地面を操る闘い方をしていなかったな)

 それはつまり本来の戦い方ではなくともザロアと死闘を繰り広げるほどの隔絶した戦士だということだ。


 

「まあ、元々決勝まで行けたら棄権するつもりだったんだ。人間がドワーフと結婚しても幸せにはなれんよ」

「…………」

「もう一つの山のやつはお前さんには勝てんだろう。ならお前さんが決勝に行く方がいいさ」

「勝ちを譲られましたね」

「炎神さまに誓って手加減はしなかったがな、優勝しろよ兄弟。そして女を幸せにしろ! それが男ってもんだ!」

 豪快に笑いながらザロアの背中をたたくゴドラン。ドワーフは背が低いのでザロアの背を叩くには伸びをしないといけないがその姿が絵になる男だった。



◆ ◆ ◆



 かくてザロアは決勝戦へと駒を進めた。

 決勝の相手はバミリオという赤毛の剣士だ。戦神バーミリオンの名の意味は朱色でありそれは鮮やかな赤髪からつけられた名だと言われている。

 おそらくバミリオの両親はそれにあやかって名をつけたのだろう。

 


 ティアリスははそれぐらいしか彼に対して感想が無かった。


 

 もちろん決勝まで来るだけあって十分に強い、これだけの剣士が無名だったとは信じられない思いもあった。だがザロアなら正面から戦って負けることはまずあり得ないとティアリスはは結論付けた。

 観客たちもこのザロア対ゴドランが実質的な決勝だったと評価していた。



「しかし……マックス卿が出場していないのは意外でした」

「そうね、嫌われたかしら」

「………………(何かやりましたかと聞きたいが聞いたら聞かなかったことに出来ないので黙ってる沈黙)」


 神官長と貴賓席で会話するティアリス。

 素知らぬ無表情でいる彼女だったが、騎士国の筆頭騎士マックス・チェタニアスが自分に懸想していることを彼女は解っていた。



 解っていたからこそ先に告白させてザロアが好きだと匂わせて振っておいた。

 そうすれば仁愛に満ち、道理をわきまえている彼は聖娼の伴侶を決める方法がこのような形式ならば参加しないであろうと確信していたからである。

 良心が多少どころではなく痛みはしたがそれはそれとして目的は完璧に果たすことが出来た。

『勝つためならば全てを尽くせ、負ければ大切なものは奪われる』その教えに忠実である彼女こそまさに戦神のいとし子! 戦神バーミリオンもこの話を聞けば喜ぶことであろう!



 なお後年老師範がこの話を聞いたとき「ひっどいなあ」と腹を抱えて大笑いしていたことをここに記す。

 


 あとついでに記すと告白させようと色々やった行動を知っているザロアはティアリスがマックスのことが好きなのだと誤解している。

 それはそれで嫉妬心を抱いているザロアも可愛いなとティアリスは満悦だ。この女、性格がかなり悪い。先祖である戦神の性格も悪いので遺伝か魂が似ているかであろう。



 とにかく、ティアリスは全てに満足していた。ザロアの勝利に、自分の準備の良さに。

 計算外だったドワーフの戦士にもマックス卿と同じようにザロアと結ばれたいと匂わせておいた。

 それが効いたのか否かは分からないが最早ザロアが自分の伴侶になるのは間違いないことに思えた。



 そう考える無表情でこの上なく上機嫌なティアリスを神官長は痛ましそうな視線で見ていたがそのことにティアリスは気づかなかった。


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