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ザロアのみでは勝てない


≪さてマックス・チェタニアスよ本題に入ろう。そなたに聖娼ティアリスの夫となって欲しいのじゃ≫


≪正確に言うならばティアリスの夫となる者は貴卿かザロアのどちらかにしたいとワシは思っていたんじゃよ。ザロアにはすでに貴卿との決闘で勝利した方をティアリスの伴侶とすることを伝えてある≫


≪ティアリスとザロアが結婚している? ふむ、まあ『勝つためならば全てを尽くせ』というのがワシの教えじゃからな。二人は貴卿に何をやってでも勝ちたかったのじゃろうよ、ティアリスを手に入れたいならばこの程度の試練を乗り越えるべきじゃろうよ≫



 夜、星々が見守る中。

 戦神の言葉を思い出しながらマックス卿は明日の決闘に向けて技を一つ一つ確認し逸るこころを陶冶していた。



 同じころ。

 

『愛していますティアリス様、貴女が私の人生には必要なのです。どうか試練を乗り越えた後は自分を選んでいただきたい』

『そうね、試練が終わったとき一番好きな相手を伴侶に選ぶわ。だからあなたにもチャンスはあるわよ』

『それはつまりこの旅が終わるまでに私の努力しだいで選ばれうるということでしょうか?』

『ええ、もちろんよ』


 ザロアはティアリスとの会話を思い出しながら全身鎧と太盾の対策のために手にした戦鎚を体に馴染ませるために汗を流していた。



 二人が考えることはあまりに似通っていた。



 ザロア、きみのことが羨ましい。

(マックス卿、あなたのことが羨ましい)


 なぜきみティアリス様から愛されている。

(なぜあなたはティアリス様から愛されている)


 だからか?

(だからか)


 ボクは

(自分は)


 きみに勝ってティアリス様と添い遂げる!

(お前に勝ってティアリス様と添い遂げる)



 決闘の日は明日。どれ程の思いを二人が抱こうとも勝者はただ、一人のみ。



◆ ◆ ◆



 ザロアとマックス卿、二人の決闘の地は首都の外、誰一人いない荒野が選ばれた。騎士国の者が増えればその声援はマックス卿へのモノが多くなりザロアにとって不利だとマックス・チェタニアスが考えたからである。


 戦神の薫陶受けた者ならば有利な場所を選ぶのも戦いの内と語るであろうが、騎士神の信者は堂々たる勝利を名誉とする。その差が表れた形だろう。


 国を代表するほどの戦士と騎士の決闘の場にはふさわしくないほど寂れた荒野。先に待つ筆頭騎士は一人、荒野にたたずみ静かに瞑目し気を高めていた。



「来たか……」


 約束の時間、瞑目していたマックス卿の前にザロアとティアリスが馬に乗ってあらわれ下馬する。二人の目は真っすぐに騎士国筆頭を射抜く。


 敵を見る目だな、とマックス卿は思った。恋敵だけでなく想い焦がれた人からすらもそんな目で見られる落胆は彼の中に確かにあった。


 もしも、マックス・チェタニアスが勝利したとしてもティアリスは喜ぶことは決して無いだろう。悲嘆され、罵られることだろう。



 だがそれでもマックス・チェタニアスは手に入れたいのだ、ティアリスの夫という座を。

 


「我が盾と剣は力なき者たちのために! だがこの一度、どうか騎士神リドマンよ! 我が願いのために振るうことをお許しあれ!」

 朗々と筆頭騎士の声が高らかに響く。その声は味方に希望を敵に絶望を与え続けてきたモノだった。


「我に加護を!」

 顕れ出でる白銀の甲冑は決して破られることなく。


「我に力を!」

 授けられたる神剣に断てぬ敵なく。


「我に勝利を!」

 全てを阻む大盾によって罪なき者たちを守り抜く。


 畏れよ、讃えよ、仰ぎ見よ。その偉容、その威風。彼こそは万民の盾にして騎士神の申し子、筆頭騎士マックス・チェタニアス。

 彼に倒せぬ悪魔なく、彼に守れぬモノは無し。神の加護によって与えらし神器に身を固めた彼を侵すこと何人たりとも叶わず。



 全力で戦う姿勢を見せるマックス卿に対してザロアも全身鎧への備えとして携えてきた戦鎚を構える、腰の予備の武器である剣が揺れる。



 不意に荒野が神聖なる気配に包まれた。

 ザロアもティアリスもマックス卿も理解した。この場を戦神バーミリオンが照覧していると。


≪おお、ちょうど始まるところか? それでは双方悔い無きようにな≫



 戦神の言葉から一瞬の間があいた後に共にザロアとマックス卿は互いに向かって駆けだした。この戦いの勝者になるために、最愛のティアリスを自らのモノとするために。

 

 これより始まるのは原始の戦い。思いを寄せる女をモノにするために戦いあうという野蛮極まる、利己的な戦い。

 だからこそ二人の男の思いは純粋だった。



 ◆ ◆ ◆



 城壁に鉄鎚を叩きつけたとしよう。


 たとえ僅かであったとしても、城壁の岩は崩れる。いずれは、何年あるいは何十年もの時間がかかるであろうが、城壁を崩すこともできるだろう。

 だが、それを偉業と讃える者はいないだろう。むしろ何を馬鹿なことをしているのかと嘲ることだろう。


 今、ザロアの脳裏によぎったのはそんな光景だった。



(くそ) 

(どれだけ叩きつけても)

(破れる気がしない)


 マックス・チェタニアスの持つ盾を超え身にまとう鎧に戦鎚を叩きつけるも揺るがすのみで打ち破ることが出来ていなかった。しかも筆頭騎士は城壁と違い……剣と盾を振るう。


 振るった戦鎚の返しとばかりに振るわれる剣がザロアの頬をかすめる。頬にできた傷から血が一筋流れでる。ただの一滴、だが圧倒的な差がある一滴。


 ザロアが全力で打ち込んでもマックス卿には手傷を負わせることは出来ない。戦いが始まる前から解っていた事実が今ザロアに重くのしかかる。


 勝てる、そうチェタニアス少年は判断した。戦士としての技量はザロアの方が上だろうが神器を含めた総合力ならば押せば必ず勝てる。


 何より分厚い鎧と重い盾に対抗するためには仕方がなかったとはいえザロアは得物を戦鎚に定めた。技術よりも力がモノをいう戦い。

 それこそがマックス・チェタニアスの戦い方だった。ザロアは敵の最大の強さにより劣る強さで挑んでしまったのだった。

 判断を誤ったと評しても過分ではないだろう。



 今、まさに大降りになった一撃を狙いすまして盾で受けたマックス卿はザロアの握る戦槌を弾き飛ばした。

 ザロアの手から戦鎚が零れ落ちていく。まるで希望が零れ落ちるかのように……


 反射的に腰の剣を引き抜くザロアであったが、戦鎚に比べればそれはあまりに軽く細く頼りなかった。

 抜きざまの一撃が振りぬかれるがそれは、盾どころか鎧でも受けることが出来そうな一撃を無視しマックス卿は剣を振り上げる。



 肉に刃が食い込む音!



 鎧によって受け止められるはずのザロアの振り上げた剣は、鎧を音もなく紙のように切り裂き筆頭騎士の首へと叩き込まれ、盾の端へと当たり止まった。



 戦士と騎士が一瞬の間、同じ混乱を囲う。


『なぜこの剣は神器である鎧を破れたのか? むろん神器だからだ。神器は神器でなければ破れない。神器を生み出せるのは高位の神官のみ、だとしたらこの剣をを生み出したのは……』



 戦士と騎士の脳裏に最愛の女性の顔がよぎる。


 ザロアは意味が分からなかった……神器を託すということはザロアに勝って欲しいということだ。そのことは戦神の呪いによって理解が出来ないでいた。


 マックス卿は目線を動かして見た、ティアリスが無表情ながらも勝ち誇ったかのような顔をしているところを。


 

 話を一時決闘が始まる前、ザロアとティアリスがこの決闘の場へあらわれる直前へと戻る。



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