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戦神の試練(マックス・チェタニアスを倒せ)

 

 神官長の勝鬨をあげる令が下る声が聞こえる。

 戦場になってしまった首都に勝利した騎士たちの歓声が満ちる。



 勝った。


 つい自然と一人の女性の姿を探してしまった。

 彼女とともに今の安堵を分かちたくて。探し見やるとティアリス様とザロアが抱き合う瞬間だった。


 ……つい天を仰いでしまった。胸が――痛い。

 だが覚悟、いや現実を解っていたからか涙は……出なかった。



 逃げるように神官長のもとへと戻ると暗い顔をしていたせいで心配をさせてしまったようだった。


「マックス卿、どうやら随分と疲れているようだ。ここは私に任せてお休みなさい」

「……お言葉に甘えさせてもらいます」



 神官長に言われたボクはこの一ヶ月を過ごした神殿へと脚をむけ、気が付いた時にはベットに倒れて天井を見上げていた。


 考えるべきことは山のようにある。

 騎士団の要職についていた者が多くシェイプシフターの餌食となったのだ。


 これを立て直すのは間違いなく騎士国の歴史においても特筆すべき難業になるだろう。ボクたち騎士団員にはこれからもこの国を守る義務と責任がある。


 だから……落ち込むのは今日だけにしよう……

 

 

◆ ◆ ◆



≪目覚めよ、目覚めよマックス・チェタニアスよ≫


 眠れるマックス・チェタニアスの脳裏に戦神バーミリオンの声が突如として響いた。その荘厳な意思に促され目覚める騎士国筆頭騎士。



≪よく目覚めたマックス・チェタニアスよ。まずは奮戦の結果大きな損害なくこの首都を守りきれたことを讃えさせてほしい≫

「……光栄です、戦神バーミリオン」


 ベットから降りて跪くマックス卿。


 並みの騎士ならば生涯かけられることのない神からの名指しでの賞賛を受けたマックス卿であったが、彼の心に湧いた感慨は薄かった。疲労となにより自らに対する自虐の念が名誉に思う感情を上回ったのである。



≪さて功には褒賞が必要だろう、何か欲しいものはあるか?≫

 戦神の言葉にマックス卿の脳裏に浮かんだのは想い人であるティアリスの顔だった。吹っ切れようと思ってもまるでうまく行かない自分自身に彼の内心には思わず自嘲が満ちた。

 


「恐れながら戦神様、ボクに望むものなどございません。ですがあえて望むとするならばこの騎士国に温情を頂きたく」

≪良かろう、ジラン王国はできうる限りの支援を惜しまん。この戦神バーミリオンの名において誓おう≫


 今は頭が回らない、あまり政治的な話をしたくは無いなとそうマックス卿が考えたときだった。バーミリオンからあまりにも予想外であった事実を告げられたのは……



≪ではマックス・チェタニアスよ本題に入ろう。そなたに聖娼ティアリスの夫となって欲しいのじゃ≫

「……はい?」

 


 ◆ ◆ ◆


 

 戦いの終わった後の方が神官であるティアリスにとっては本番だった。傷ついた騎士を、巻き込まれた民間人を迅速に治療していく。

 軽い怪我ならばザロアも治せれるだけの奇跡を授かってはいるが生死の境をさまよっているような重傷者となると高位の神官でなければ手が出せない。


 最高位の神官であるティアリスならばどれ程の死の領域に足を踏み込んでいても生きている限りは瞬く間に完治させることが出来る。ゆえに彼女が担当するのは瀕死の重傷者のみ。


 すでに幾度もおこなってきた行為であるため慣れてはいるがそれでも引っ切り無しに死線をさまよう重傷者の治療を続けると精神的につらいものがあった。


 いまは長く続いた救命の時間も終わり、教会の一角でティアリスはザロアと共に長椅子に座っていた。


「つかれた……」

「お疲れ様ですティアリス様」

「つ・か・れ・た、部屋まで送って」


 そう言ってティアリスはザロアにしなだれかかった。これこそティアリスが結婚したらやってみたかったことの一つ、甘えるである!

 彼女は旅立つ前には聖娼という立場ゆえにできなかったことを今この場で果たそうとしているのである!


「解りましたティアリス様。さあ、お立ち下さい」

「立ちたくなーい、おぶって」


 この聖娼ティアリス、あざとい! あまりにあざとい! ひょっとしたら疲労で頭が回っていないのかもしれないがあまりにもあざとい! 猛攻と呼ぶべきレベルのあざとさである!


 しかし悲しいかな!


 ザロアはこの手の攻めを受けた経験がないため弱いのである、何せこの手の攻めをザロアにすれば王族であるティアリスに物理的に睨まれるのであるからして、女性たちは将来有望である王国最強の戦士を攻め落とすことを諦めた。

 

 ティアリスが暴力と謀略に訴えってきたら大よその者が死ぬので誰もが自分の命を惜しんだ形だ。


 結果どうなるか!


「あの、ティアリス様……そのですね」

「なあに」

「その……ですね、あの」


(なんだ)

(なぜ)

(ティアリス様は)

(自分に)

(このように迫ってくるのだ)


 ザロアが『ティアリスが自分のことが好きだと気づけない』呪いを受けているという今一時のみ成立する奇跡の時間。

 あまりの雰囲気に通りかかった者たちは新婚だからといってこんな場所でいちゃつくなと言わんばかりの表情で速足で過ぎ去ってゆく。



「ザロア!」


 そんな折だった、筆頭騎士マックス・チェタニアスがザロアとティアリスのもとにあらわれたのは。

 普段から努めて冷静で、理知的であろうとしている彼が激昂している。


 嫉妬、怒り、羨望、渇望、そして殺意。様々な感情が混じり合い爆発した感情をマックス卿は形にし顕した。


 盾。

 重く巨大で、全てを阻み守る騎士神の象徴。常人ならば持ち上げることすら叶わないであろうその盾を、振りかぶったマックス卿はザロアに向かって放った。


 盾が空気えぐり、壁に着弾し打ち崩す轟音!


 間一髪でティアリスを抱きかかえ飛びすさりったザロアを真正面からにらみつけマックス・チェタニアスはこう宣言した。


「ザロア…………君に決闘を申し込む!」


 ザロアとティアリスの胸に来たのは覚悟だった。この旅が始まった時からこの瞬間は決まっていたのだ、戦う者である二人にとって強敵との闘いは覚悟を持って挑むモノなのだから。



 なおマックス卿はこの後、教会の壁を壊したことで神官長にこっぴどく怒られました。



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