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大陸最強の存在

 レイハネフの呪いによって悪魔たちの抵抗が無くなり騎士たちは勝利をはたした。

 

「勝鬨を上げよ!」

 騎士神の神官長が勝利を確信しそう令を発する。

 地を揺らしそうな程の歓声が騎士国の首都に満ちる。それはこの国の滅亡すらも覚悟していた彼らがあげた心の底からの喜声だった。


 

 そんな中をザロアは最愛のティアリスの元へと駆け寄っていた。戦神バーミリオンにかけられていた『ティアリスが自分のことが好きだと気づけない』呪いはレイハネフによって解かれた。

 

 ザロアもこれから行うことが自らが奉じるバーミリオンの意思に反することは解っている。この試練は自分自身だけの意思と実力で持って乗り越えねばならい、そう戦神は語っていた。


(ティアリス様からの)

(愛の言葉を)

(聞きたい)

  


「――ティアリス様」

「ど、どうしたのザロア? 急に抱き着いてきて」

 

 普通ならばいきなり抱きつくなど、どのような反発を受けてもおかしくはない行為だろう。戦士としての訓練も受けているティアリスならば男としての急所を蹴り上げるぐらいのことはできる。


 だがザロアにかき抱かれたティアリスが顔を赤らめながらも嬉しそうに微笑む姿は女心に疎いザロアから見て明らかに喜んでいるように見えた。


「愛しています、ティアリス様」

「……私もよザロア、愛してる」


 ティアリスがそう言ってそっと最愛のザロアを抱き返す。


(今なら)

(死んでもいい)

 胸を満たす高揚、波濤のように押し寄せる幸福感。


 そのやり取りはすでに何度もしていたモノだった。これまで呪われていたザロアならば気づくことはできなかっただろう。

 そして呪われる前であったならば自分がティアリスから想われているとは考えもしなかっただろう。



 愛し合い抱擁し合うザロアとティアリス、二人を祝福するように光が降ってきた。



 

(ん)

(自分は一体)

(なにを)

(しているんだ)


 胸を満たしていた高揚も幸福感も一瞬で消え去りティアリスと抱き合っているという事実も気づくことが出来なくなった。

 先ほど降ってきた光、それは戦神バーミリオンの呪いであった。



≪ふー、危ない危ない。何で呪いが解けとるんじゃ?≫

(あ、師匠。こっちはだいたい終わりったすよ)


≪レイハネフお前か! ザロアにかけたワシの呪いを解いたのは!?≫

(ザロア君を呪ってたのって師匠っすか、お言葉っすけど護衛が呪われていたら普通解くすっよ)


≪うわ、正論言われたわい。言ってなかったワシが悪かったな……≫

(まあそんなことはどうでもいいっすけど、悪魔の大本はどうなったんすかね? なんか逃がしたぽいんすけど)



 レイハネフは悪魔たちの数と質からしてもっと高位の悪魔がいると踏んでいた。だがその悪魔は戦いの場には現れなかった。おそらく集めた生命力ともに逃げたのだろうと考えたレイハネフだったがそれに対する戦神の応えは……


≪そっちはこれからワシらがなんとかする、思い悩まんでよいよ≫

(そうっすか頼むっすよ師匠)



 ◆ ◆ ◆

 


「よう元気か」

「バーミリオンか、何の用だ? もうシェイプシフターは殲滅できたのだろう」

 ザロアに呪いをかけ、レイハネフと別れた戦神バーミリオンは銀髪の女へと会いに来ていた。



「そうだな表に出ていたのはな」

「まだ居ると?」

「親玉がまだ残っているな」

 そう言ってバーミリオンは銀髪の女へと視線を向けた。それは彼が敵へと向けるときだけの鋭い視線だった。



「いやあ、久々にお前に会って驚いたぜ。というか俺は運がいいな、もしも調査してから来てなかったら見逃していただろうし」

「何が言いたい?」

「率直に言うぜぞ、お前シェイプシフターだろう……何で心音がしないんだよ?」


 銀髪の女はしばしの間、何を言われたか解らないように呆けていた。だが理解に至った瞬間に恐ろしい速さでバーミリオンに襲い掛かっていた。

 その速さに戦神は対処することは出来ず。銀髪の女によって殴り飛ばされたバーミリオンは吹き飛び、壁に叩きつけられるほどの衝撃を受けた。



「ごほ!」

「愚かだったな、たった一人でオレを糾弾しにくるなんて」

「参ったな……一応本物のリドマンはどうなったのか聞きたかったんだが答えてくれるか?」

「あの愚物か、あいつなら今はオレに神気を供するだけのモノとのなっているぞ。貴様もそうしてやろう」

「そうかい、ところでよ。俺のことを愚かって言ったか? 馬鹿じゃあねえの、俺が自分より強い敵に会うっていうのに一人で来たって本当に思ってんのか? ノリと勢いでここに来たとでも思ったか?」

 そうバーミリオンが言った瞬間に一人の男が現れた。


 普通の男だった。黒髪黒瞳。

 美しいわけでも、醜いわけでもない容姿。高くも低くもない身長。肥えても痩せてもいない体格。

 どこにでもいる様な……そうとしか形容が出来ない男だった。


 だが、彼の姿を見た銀髪の女――シェイプシフターの反応は劇的だった。

 余裕ある態度であったのが嘘であったかのように目を見開いて狼狽し、後ずさったのだ。



「魔神皇……ゼノン」

 リドマンの姿をしたシェイプシフターが思わずと言った様子で呟く。


 本来、謎神ゼノンがこの世界に戻ってくるまでにはまだ一ケ月あった。だが、騎士神リドマンがシェイプシフターに入れ替わっていることを悟ったバーミリオンは謎神ゼノンに即時大陸に戻るように要請をしたためにこの時に間に合ったのだ。

 

 そうして間に合った格が違いすぎる相手に怯え後ずさるシェイプシフターにゼノンが声をかける。


「ボクのことを知っているのかい。悪魔としては高位、いやギリギリ魔神の域に入ってるのかな君は?  まあ、これから滅びる以上何であったとしても大差ないけどね」

「う、動くな! こいつがどうなっても……」


 いいのか、とそう続けたかったのだろうが叫び声を上げたリドマンの姿をしたシェイプシフターはゼノンの瞳と目が合った。

 その瞬間に変化の魔神は悟った、魔神皇と称されるゼノンの強大な力の一端を。自分は今から跡形もなく滅び去るのだという恐怖を。


「あ」

 恐怖に染まった表情から一声が出た瞬間に、騎士神リドマンの姿をしていたシェイプシフターの姿は消えた。ゼノンの一瞥に込められた呪いでこの世から滅び去ったのだ。



「バミ」

「なんですかねゼノン様」

「滅ぼしちゃったけど問題あるかな?」

「本物のリドマンがまだ生きてるみたいなこと言ってましたから、出来ればどこに居るか吐かせてから滅ぼして欲しかったですね」

「……ごめん」


 そう言って謎神ゼノンは素直に頭を下げた。その姿は彼がこの大陸で最も強大な存在とは思えない愛嬌があった。


 バーミリオンは肩をすくめてから口を開いた。

「まあ、どっちみちリドマンのやつを探すことが出来るのは空間系の奇跡に対する習熟度からしてゼノン様だけですからね。俺じゃあどこにリドマンのやつがいるか解りませんし」

「めんどくさい」

「すいません、その……お手を煩わせるのは本当に申し訳ないのですが、お願いします」

「……あいつ居なくてもよくない?」

「よくないですよ! いやゼノン様からすれば戦力的には誰が居ても居なくても同じでしょうけど、統治的には大違いですからね!」



 戦神に怒鳴られた謎神は再び「めんどくさい」と呟きながらも騎士神リドマンの捜索を始めるのだった。



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