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シェイプシフターとの決戦


 突如として現れた街路を埋め尽くす無限にも思える悪魔の群れ、対する騎士国の衛兵たちは浮足立っていた。

 無理もない騎士国の首都とは悪魔とは無縁の場所。衛兵たちも悪魔に対する戦いの修練よりも、犯罪者に対する取り締まりの訓練を積んでいる者ばかり。

 殺し合いなどというモノを初めて行うことになる者も少なくはなかった。



「援軍は来る! 筆頭騎士殿がいらっしゃる! それまで命に代えて守り抜け貴様ら! ここを抜かれたら市街地だ、市民を殺したくなければ戦い抜いて見せろ!」



 だが彼ら兵士たちは浮足立ち部隊長の発する檄に声を傾ける者はほとんどいない。

 


 混乱し、我が身かわいさから我先に市民を守るという義務を放棄し逃げようと悪魔たちに踵を返す衛兵たち。



 その前に彼らは現れた。



 軍列。


 そうとしか形容のできない者たち。勇壮なる騎士が連なり、屈強な歩兵が列をなし、敬虔な神官たちが控える神の戦団。

 たとえいかなる軍勢が相手であったとしても、たとえ悪魔たちの群れが相手であったとしても決して引かず怯えることなく使命を果たす民たちの安寧のために振るわれる剣たち。



 その先頭には白銀の鎧をまとった騎士。小柄な彼は剣を振りかざし声を張り上げる。



「騎士国の興亡この一戦にあり! 総員突撃!」


 筆頭騎士マックス卿の言下、威圧するかのように巨大な打楽器の音が鳴り響きそれを合図に騎兵たちが馬に拍車をかけ悪魔の群れへと飛び込み切り裂いてゆく。

 先頭ゆくマックス卿は特に圧巻だった。馬上から剣と巨大な盾を振り回し、行く手の悪魔たちの抵抗など無いかのように突き進む。



 逃げようとしていた衛兵たちもその姿を見て思い出す。自分が子供のころ何になりたかったのかを、子供のころに親にせがんだ英雄の勲詩を。

 幼いころに描いた未来は破れ、今はただの凡夫。なれども捨てたと思い心のどこかにしまってあったモノに火をつけるにはそれは十分すぎる光景だった。


 浮足立ち、逃げ出そうとする兵はもう居なかった。

 そこにいたのは義務を果たし、かつての夢を果たそうとする兵たち。



 彼らの内、幾人かはきっとこの戦いで命を落とすのだろう。そのときに義務を、夢を果た相としたことを後悔する者もいるのだろう。

 だがこの瞬間にはいないであろうことは間違いがなかった。



◆ ◆ ◆



 悪魔たちの中へと飛び込み蹂躙していくマックス卿をティアリスは戦列の後方から眺めていた。


「…………(やはり強い)」


 あの戦い方はザロア一人にはできない。圧倒的な加護から生み出されるどれだけ囲まれようとものともしない膂力と、その力に見合った強力な武具。

 さらにはそれらをその二つを使いこなす戦いの技はザロアには及ばないがこの大陸有数の実力。


 強さの質が非常にシンプルであるがゆえに、倒すには純粋にその強さを上回る者でなければまず不可能。

 それが騎士国の筆頭騎士マックス・チェタニアス。

 ザロアという傑出した戦士ですらまともに戦えば手傷を負わせることすらできずになすすべ無く敗北するだろう。


「…………(もしも私が力を貸せれるなら話が変わるのだけどね)」


 無表情にザロアとマックス・チェタニアスとの戦いを考えるティアリス。

 マックス卿の奇跡によって生み出される怪力とそれを生かす戦技、武具は強力だ。

 ザロア一人ではあの奇跡の鎧と盾を超えて手傷を負わせることが出来ない、ティアリス一人では戦士としての技量に抗せれない。

 だがしかしザロアとティアリスが協力するならば勝算は十分にある。



「…………(しかし、やることが無いわね)」


 マックス卿は悪魔の群れを蹂躙していた。軽装のザロアでは例え雑兵が相手であろうとも多勢を相手取れば一瞬の油断によって命にかかわる大けがを負うこともありうる。

 だがマックス・チェタニアスが雑兵を相手取って手傷を負う可能性はない、絶無と断言してよい。


 事前の準備ともしもの時のフォローが戦場での役割であるティアリスのやるべきことが全くと言っていいほどに無かった。

 戦いを愛するはずのティアリスはこの戦場をつまらないと感じていた。何一つとして不安要素のない戦い、圧倒的な勝利以外はあり得ないマックス卿。


 それをティアリスはつまらないと、そう感じていたのだ。自分が役に立ちたい、そういう根源的な要求はあっただろう。だが、それ以上にザロアと共に戦う事を彼女は愛していたのだ。

 

 マックス卿と比べれば圧倒的に脆く、不安要素の多いザロア。戦場で必要なものを全ては用意できないザロア。

 強すぎるがゆえにティアリスはマックス卿と共にする戦いをつまらないと感じていた。


 彼女が求めているのは圧倒的な英雄ではなく、自分を必要だと言ってくれる人なのだから。そうあの幼きときに悪魔へと立ち向かった思い出の日から。



◆ ◆ ◆



 ザロアは北へと愛馬スタルヒンを走らせていた。

 悪魔たちとの戦いに背を向けることには後ろ髪をひかれる思いだった。


 さらに言えばこのような某国の瀬戸際だというのに愛するティアリスを戦場にひいてはマックス卿の元に残さざるえなかったことにも焦燥感がある。


(我ながら)

(器が)

(小さいな)



 ティアリスがマックス卿を望むのならばそれを叶えようと誓っていたはずなのに、すこし離れ一人になるとマックス卿への嫉心が抑えきれない。

 

 何せこの一か月ほどシェイプシフターたちを探るためにマックス卿と離れた生活をしていたのだ、それが今は二人で死闘を潜り抜けようとしている。

 感情の火が燃え上がる可能性は低くはない……そう思えてならないのだ。

  

 

 もちろんのことだがザロアは呪いでここ一か月ティアリスが周りからザロアと夫婦だと思われるような生活を送っていて非常に上機嫌だったことを認識していない。

 


 

 半日ほどスタルヒンを走らせ、すでに夜も更け人気のない街道を行くザロア。すると道の向こうから情けない男の悲鳴が聞こえてきた。



(なんだ今の悲鳴は)

(一刻を争うというのに)

(だが)

(放ってもおけまい)



 悲鳴の響く街道沿いの森へとザロアが入るとすぐに泉があり、そのほとりには馬に頭をかじられ悲鳴を上げる男のエルフがいた。


 エルフの肉体は植物である、むろんのこと心臓がなく心音もない。 

 それでも目の前のエルフはシェイプシフターではないかという可能性はザロアの頭には浮かばなかった。

 

 単純にシェイプシフターはエルフやドワーフには変身が出来ないのである。

 この二つの種族は肉体が植物と岩石であるがゆえに変身が出来ないのだと言われている。


 まあ、それ以上にあまりに情けない悲鳴を上げていたせいかもしれない。

「やめてくれっす! お願い馬くんやめてくれっす! おなか空いてるのは分かってるすけど、おいらの頭の葉は美味しくないっすよ! お願いかじるのは止めて!」

「そこのエルフの方、今助けます」

 


 声をかけ馬に近づきスタルヒン用の餌でなだめるザロア、エルフの男は息も絶え絶えといった風情で地面に両手をついて倒れ伏した。

「ありがとう、恩に着るっす! いやはや急がせすぎったすかね機嫌損ねて暴れだしちゃって、どうにもできなくて困ってたんす。ひょっとしたらあんた騎士国を救った英雄になったかもしれないっすよ」

 

(エルフだな)

(濃い茶色の木肌をした)

(まさか)

(この男が)



「……エルフの方、名をお聞きしてよろしいか?」

「レイハネフっす。こう見えてもエフェメラの森じゃあちょっとした顔なんっすよ。今は一刻も早く騎士国の首都に行かないとならないから大した礼はできないっすけど何かあったら言ってくだせえ。できるだけ力になるっすよ」

 馬に頭をかじられ、情けない悲鳴をあげていたエルフの名を聞いてザロアは少し遠い目をした。それは失望と現実を直視したくない逃避による目だった。


(やはり)

(この男が)

(レイハネフ)

(はっきり言って)

(頼りない)



「どうしたっすか、何かひどく落胆された目で見られている気がするんすけど」

「……失礼、レイハネフ殿。自分は戦神バーミリオン様から貴殿の護衛を仰せ仕りましたザロアと申します。悪魔たちから必ずや」

「ああ、師匠が言っていたのはアンタっすか。よろしく頼むっす」



 レイハネフのその言にザロアは首をかしげた。

「失礼ですが、師匠とはどなたのことで?」

「そりゃあ、戦神バーミリオンのことっすよ。あの人生ノリと勢いっていつも言ってる。俺あの神様から呪いを教わったんすよ」

「戦神様から呪いの技を?」

「そうっす。そう言えばアンタ呪われてる見たいっすね」

「……すいません、今なんと?」


 

「いや、だから呪わてるっすよアンタ、誰にやられたんすか?」

「……すいません、今なんと?」

「うん、こりゃあれっすね呪われているって気づけない呪いをかけてるすね……まあ、とりあえず解除しとくっすよ」

 自分の護衛の呪いを解除しようと考えるレイハネフ。


(何だ)

(レイハネフ殿が)

(こちらを見ている)


 ほんの一瞬だけ目を細めて強い視線をレイハネフはザロアに向かって投げかける。それだけで効果は劇的に現れた。


『ザロア……勝ちなさい、勝って私に結婚を申し入れしなさい。そうしたら私は喜んであなたの妻になるわ、きっと驚くでしょうね貴方本当に私の恋に気づいていないから』


『え、あ、そのえと、もちろんよ……喜んで』



「さあ、首都へと参りましょう、レイハネフ殿! 早く! 早く! 何をしているのですか今は騎士国の危機なのですよ!」

「あっれ、ザロア君どうしたんすか急に……キャラ変わってないすか?」

「いいから! 早く! 『戦いにおいて時というモノが最も重要である』と戦神バーミリオンはおっしゃっている!」 

「ああ。師匠言いそうっすね、それ」

 激昂……そう称するべき勢いのザロアに対して非常にのんきな問いが投げかけられる。

 

 

「で、今の呪い誰にかけられたんすか?」

 レイハネフの言葉にザロアは少し考えこんだ。


(誰)

(もちろん)

(戦神様だ)

(だが)

(戦神様は……)


『この試練は自分自身だけの意思と実力で持って乗り越えねばならん。悩み惑いながら踏み越えるのも試練の内じゃよ』


(この試練は)

(自分だけの意思と)

(実力で乗り越えなければ)

(ならない)

(だが)

(せめて……)



「なんすか、呪いかけられたのはそんな悩みこまないと出てこないぐらい昔っすか?」

「申し訳ありません、いつ呪いを受けたのか思い当たる節がありません」

 ザロアはこのとき嘘をついた。

 もしも戦神バーミリオンに呪われたのだとレイハネフに伝えれば呪いを戻される可能性があるとザロアは考えたのだ。



「ふーん、まあジラン王国にもシェイプシフターがいるんすね。騎士国の件が終わったらそっちも倒さないといけないっすね」

「……そうですね。取りあえず今は騎士国からです」

 かくして、戦士のザロアとエルフのレイハネフ。二人は動乱の中にある騎士国の首都を目指して歩み始めたのだった。


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