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水面下での戦い

 悪魔というのは命ある者たちの生命力を糧にしている、ゆえに人を襲う。

 だから机上の仮定ではありうるとされていた。


 悪魔による人間の家畜化。


 シェイプシフターたちの目的は恐らくそれだろう、もっとも探ったところでティアリス様が言うように証拠が手に入るとは思えない以上は推論にしかならないが。



 だが時間は無い、少なくともそう判断して行動するしかない。もしも予想が外れた場合に取り返しがつかないことになるからだ。

 焦るのはよい、だが冷静さを欠いてはならない。決してシェイプシフターたちに気取られてはならない。


「大丈夫ですかな、マックス卿。思い詰めた顔をしていますぞ。筆頭騎士がそんな顔をしていては皆が不安になりますぞ」

「……神官長殿。申し訳ありません祖国の危機に何もできないということが歯がゆく」

 神殿の外をじっと眺めていると、厳めしい顔をした騎士神の神官長殿から声をかけられた。



 騎士国がシェイプシフターたちの巣窟となっていることが分かってから1か月がたった。

 


 ザロアは情報収集ぐらいはしておくと言って騎士国の斥候たちに接触した。

 

 そして異様なほど奇跡を教えるのが上手いティアリス様から心音探知の奇跡を習った彼らは国内のシェイプシフターたちの洗い出しに精力的に活動している。


 ザロアは彼らの一員として動いている。


 

 結果として騎士団長上層部はほとんどがシェイプシフターに入れ替わっていることが分かった。不幸中の幸いというべきだろうか他の街や騎士神の神殿には悪魔の浸透は無かった。


理由としては恐らく従来の悪魔探知を恐れたためではないだろうかと予想が上がっている。恐らく間違いではないだろう。


 

 彼ら斥候たちは情報を集め続けてくれている、戦っているのだ。

 なのにボクはここでただ待つことしかできない。

 それが……つらい。



「好機が来るまで待つのも戦いの内ですぞ、第一どんな状況でも全能に戦える兵などいるはずもありません。マックス卿、あなたはいま役に立っていないのは確かですが役に立つときに備えているのです。気を落として調子を落とし仲間に不安を植え付けるのはよろしくありませんな」

「分かってはいるのですが……」



 筆頭騎士、と偉そうな名前を頂いてはいるがボクはあくまで全騎士の中で一番強いというだけの存在だ。

 戦場ならば活躍する自信はあるが、逆に言えば戦うこと以外はなにも出来ない。

 それが……つらい。



◆ ◆ ◆


 

 ザロアは彼以外には調査不可能な場所を探っていた。



「ようこそいらっしゃいましたザロア殿、歓迎いたしますよ」



 そう言って人のよさそうな紳士に化けたシェイプシフターは右手を差し出し握手を求めてきた。

 その握手に内心の嫌悪感を抑えながら、応じるザロア。


 戦神が神になって百年のため戦神祭がいつもより盛大に執り行われたように、騎士国でも騎士神リドマンが神になって百年を記念して多くのパーティーが開かれていた。

 それらのパーティーに出席して騎士国の有力者たちと顔をつないでおきたいという名目でザロアとティアリスはシェイプシフターたちの巣窟となっているこの屋敷に入り込んでいた。


 本来ならばマックス卿が行うべきなのだが、普段このような社交をないがしろにする発言を若い彼は多くしていたため急に行動を変えることで怪しまれるのを避けザロアとティアリスのカップルが行うことになった。


 無論、入り込んだだけで何かが分かるわけではない。

 だが、それでも何かしらの動きがあるかどうか程度は察することを期待されている。



(そう言えば)

(ティアリス様は)

(どういう名目で)

(ここに来ていたのだったか)


 少し考えこもうとしたザロアだったが、その考えは『ティアリスが自分のことが好きだと気づけない』呪いによってかき消されていった。

 なにせ、ザロアの妻として嬉々として来ているので呪いに引っかかるのだ。


(まあいいか)


「どうしたのザロア?」

「いえ、何でもありません」

 ザロアの腕を胸に寄せて仲睦まじそうにしているティアリス。そのことに気づけないザロアはそのことを当然のことのように振舞っているように余人には見えていた。


 

 さて、そんな二人の姿を見て寄ってくる男が一人いた。

「お目にかかれて光栄ですジラン王国の英雄ザロア様。私この騎士国で商いをしているビクターと申します。ぜひお見知りおきを」

「…………」

「初めましてビクター殿。申し訳ありません、夫は根っからの戦士でしてこのような催しは不得手なのです。どうかお許しを」


 実際の対応はティアリスがやっていた、王族なのでこのようなパーティーにも彼女は慣れている。

 ザロアの役割はこのパーティーにシェイプシフターが居たらティアリスに教えることだった。

 

(この男も)

(シェイプシフターだな)

 そう心音から判断したザロアは抱かれている左腕の手でティアリスの体を少し押した。相手がシェイプシフターだったときの合図だ。これならば意思疎通をしていることがばれることもまずない。



(しかし)

(一か月ほど)

(この生活が続いたが)

(なかなかつらいな)


 いつ襲ってくるかもわからぬ悪魔たちの巣窟にティアリスと共におもむく、成果の見えない活動。

 本質的に単純さを好むザロアにとってはつらい日々が続いていた。

 

 

◆ ◆ ◆


 

 騎士国のシェイプシフターたちの首魁である魔神はこの世界から逃げだすことを決めた。


 彼は本来ならばもっと長くこの世界に潜んで生命力を回収するつもりだった。

 そのために一体のシェイプシフターを差し出して油断させることも決めていたのだが、彼にとってはどうやっているのか分からないが人間たちは全てのシェイプシフターを把握している。

 このままでは自分にまで届くかもしれないと考えた結果の判断だ。



(逃げる準備が整うまであと数日……ゆうゆうと逃げさせてもらうがね)



 最も危険な存在であるゼノンが戻ってくるまであと一ヶ月かかる。

 ここらでシェイプシフターたちを暴れさせて自分への目をさらに逸らせば間違いなく逃げ切れる、そう彼は確信していた。

 ゼノンが支配するこの世界は潤沢な生命力に満ちていてそれを捨てることには後ろ髪をひかれるが、命には代えられない。

 


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