使い走りの戦神バーミリオン
落ち着いた内装の部屋。
その部屋の椅子に一人の貴人が座っていた。髪は長い銀髪、透き通るような美貌、だが顔つき体つきは華奢で優美というにはあまりに鋭く力に満ちた男装の麗人だった。
その部屋に突如として、赤髪の若い男があらわれる。戦神バーミリオンである。
バーミリオンは銀髪の女に対して声をかけた。
「ようリドマン、元気か」
「……バーミリオンか、何の用だ?」
リドマン、それは騎士神の名前。戦神は彼女に騎士神の名前で呼びかけたのだった。
「相変わらず硬いやつだな、おい。もうちょっと笑顔とか浮かべたほうがいいんじゃないか。愛しの君のためにもな」
「あの方はそのようなことに気を害されるような方ではない」
「だとしても愛する人の心からの笑顔ってな、間違いなく力になるものだと思うぜ」
「ふむ……なるほど……そうかもしれんな。しかし結局お前は何しに来たんだ、私に笑顔をうかばせたいというわけではあるまい」
女性に言われてバーミリオンも部屋の客椅子に座り話し出す。
「ああ、そうだ、そうだよ。俺の方でも調べてみたんだが……騎士国に巣くってるシェイプシフターたちはザロアたちじゃ駆除しきるのは無理だ」
「そうのか? というか巣くっているというほどにいるのか?」
言われてバーミリオンの機嫌は急速に悪くなっていった。この女が国一つ傾けるような状況を造ったのだから無理もない。
「そうなんだよ、この馬鹿! あれほど俺が国内にシェイプシフター専門の部隊を作れって何度も言ったのに作らなかった結果がこれだ! 国滅びるぞ! 馬鹿!」
「だ、だがしかし臣民を疑うようなことをするのは騎士道にもとる」
「悪魔との戦いは戦争なんだよ! 殺し合いなんだよ! 味方から裏切り者が出るのが当然何だよ! 信じる信じないって問題じゃないんだよ! 騎士国滅びたらジラン王国とエフェメラの森がどうなると思う!」
一通り怒鳴り終えたバーミリオンに荒い息をつく。
その彼に女が控えめに声をかける。
「それで私はどうすればいい?」
「何もするな、お前が何かやろうとすると大概は悪い結果にしかならないからな。あと二か月あればゼノン様も帰ってくるんだ。それまで待っていろ」
「その……すまない。苦労をかける」
「本当にな! 昔からずっとこうだなお前は! 貸しだからなこれは!」
「すまない」
◆ ◆ ◆
エフェメラの森で一人のエルフが地面に根をはり栄養を取りながら夜空を見上げていた。
星々とは別の世界であり、悪魔はその星々を滅ぼして生きるモノの生命力を食すものだとされている。
そんな別世界へと思いをはせているのは樹皮の色が濃くはっきりとした茶色、エルフにとっての美形の象徴である頭の枝葉のバランスが絶妙に良い優男だった。
≪レイハネフ、おいレイハネフ≫
(んん?)
夜空を見上げていた呪い使いであるエルフ、レイハネフの脳裏に自分の名を呼ぶ声が唐突に響く。
レイハネフは突如の声に驚くこともなく頭の中でかえした。
(バーミリオンの師匠? 何か用すか?)
師匠とレイハネフは戦神バーミリオンを呼んだ。
彼、レイハネフに呪いの技を伝授したのは何を隠そう戦神バーミリオンなのである。
≪うむ、騎士国でシェイプシフターたちが蠢動しすでに上層部が多く入れ替わっていると予想される≫
(まじすか! とんでもない大事じゃないすか!?)
≪大事だ、なのでお前は今から騎士国の首都まで行け。行ってマックス卿の指揮下に入って戦え≫
(了解っす。けどここから騎士国の首都まで早くてもひと月はかかるっすよ)
≪安心しろふた月は待てとマックス卿に言っておいた。ひと月あればゼノン様も呼び戻すことができるしな≫
(あー、ゼノン大師匠も前線に出すんすか? 下手しなくても首都が更地になりますよ)
≪かもしれんな、だが最悪の場合は首都を更地にしてでもシェイプシフターたちの殲滅を優先すべきだろう≫
師匠である戦神の言葉にレイハネフは考え込む。
(それは……いや必要なんすか……)
≪正直ワシにもこの判断が正しいとは断言が出来んよ、こんな事態は初めてだからな≫
この世界において戦争というモノは百年前の魔神との戦いが初めてであり、その後の悪魔たちとの戦いも基本的には戦場でのモノだった。
このような一つの組織というべき集団との戦いをしたことのある者はこの大陸に一人としていないのだ。
しばし師弟は状況の困難さに感じ入り黙り込んだが、やがて戦神が思念を発した。
≪とにかくだワシはこれからゼノン様を呼び戻すことに全力を尽くす、お前は一刻も早く騎士国の首都へと向かえ≫
(了解っす)
最後の一言を頭の中でかえした後にレイハネフは根を地面から抜いて歩き始めた。




