騎士国への道行の途上、あるいは二人っきりのお泊り
走らせてとねだったせいでザロアの愛馬スタルヒンは早々に力が尽きてしまった。
私は今はザロアと共に野営の準備中だ。
お互いに戦いの神であるバーミリオンの神官であるため進軍のために必要な野営の知識は当然あるし、実際隣国への増援のため何度も野営はしたことがある。
けれど二人っきりで野営するのは初めてなので。少しドキドキした。
◇妄想ターイム!
二人で造った即席の雨よけ。眠りに着こうとする私にザロアが私との距離を詰めて声をかけて来る。
「ティアリス様」
「なに、どうしたのザロア?」
「二人きりですね」
「そうね……」
私とザロアしかいない夜の道端。虫の音と風のざわめきが大きく聞こえ、空に浮かぶ月が明るく柔らかい光を降り注ぐ、そんな夜。
「愛していますティアリス様、貴女が私の人生には必要なのです。どうか試練を乗り越えた後は自分を選んでいただきたい」
全く予期していないタイミングで最愛の人にそう言われ涙があふれ出た。そして私はザロアに抱きつく。
「やっと言ってくれたわね」
「ティアリス様?」
「愛しているわザロア、どうか勝って。勝って私に貴方を選ばしてちょうだい」
「……必ずや、ティアリス様。貴女に勝利を捧げます」
◇妄想ターイム終了。
なんてザロアがやるわけもないけれどね。
こいつ本当になんで私がついてきたか解ってない様子だしな……いや私がマックス卿が好きだと誤解するように仕掛けたせいなんだけど。
悪魔や野生の獣を襲われないようザロアが見張りにつくと決め。二人で造った即席の雨よけに私は身を横たえる。今日一日は長かった。
朝から戦神祭の決勝があってザロアが敗北。信仰と恋愛で葛藤があり信仰が勝って諦めようと思えたのに深夜ザロアが来て『自分と共に来ていただきませんか』と言われてあっさり恋愛側に転がり。
これから神殿の追手を巻きながらの逃亡生活か……ザロアと一緒ならそれもいいと思っていたら戦神様からザロアに新しい試練が出されそれを成し遂げれば結婚を認めるといわれ。
間違いなく人生で一番長い日だった、正直ずっと泣きはらしていたせいで疲れている。
試練に対して不安はあるけれど今は眠りたい。
どうか戦神バーミリオンよ、ザロアが試練を乗り越えるように見守りたまえ。
ザロアはきっと試練をどう乗り越えるか考えているんだろうな。
「お休み、ザロア。愛してるわ……だから絶対に試練を乗り越えなさいよ」
言った言葉は呪いによってザロアは気づかず、疲れからティアリスはすぐに眠りに落ちていった。
◆ ◆ ◆
(大陸に名だたる五人の英雄たちに勝利せよ、か)
(一人はマックス卿だった)
(正面から戦えば)
(勝算は希薄)
(だが、そもそも)
(いつどのように戦えばいいんだ)
≪それはじゃな≫
(うわ!)
ザロアの脳裏にいきなり老師範、というか戦神バーミリオンの声が響いた。
≪戦うべき英雄によって試練の内容は違う、詳細はワシが戦うべき時に伝えよう――
いや、神官長違うって、明日の言い訳考えるの飽きてほっぽり出したわけじゃないんじゃって! ザロアが悩んでいたからちょっと応えてやっただけでな、だからその戦鎚を下ろせ!≫
唐突に現れた戦神バーミリオンの気配は唐突に消えた。
(……………………)
(何と表現すればいいかわからないが)
(少し戦神様への)
(信仰心が減った気がする)
一つため息をついて気分を変えてマックス卿に正面から勝つ手段を考える。
(まずは戦力分析)
(単純に剣だけの勝負なら)
(自分が勝てる)
実際にマックス卿とザロアは何度か手合わせをしたことがある。剣だけの勝負の時はザロアは負けたことが無い。
(だが、マックス卿が強さの)
(最大理由は)
(ティアリス様並みの)
(神官でもあるところだ)
神撃の奇跡を接近戦で放つ、重傷を負っても治癒の奇跡ですぐに治る、加護を得ている武具を賜る。
剣だけならば勝てるが、神官としての実力を加味すれば戦闘能力に圧倒的な差がある。
(少々の傷も疲労もすぐに回復されてしまう)
(持久戦になるほど不利)
(勝てるとすれば)
(勝負が始まってすぐに意識を失わせる以外ない)
方針は定まり、方針に沿った手段を幾つか考え付いたザロア。
彼は予感していた。
マックス卿との戦いがこの試練最初で最大の難関だと。
ティアリスが自由に伴侶を選ぶにはザロアがその巨大な難関に打ち勝つ以外にない。
(……そう言えばそうだ)
(試練を成し遂げたとしても)
(今のままでは)
(自分はティアリス様の伴侶になれない)
見やるとティアリスは静かな寝息をたてていた。
(どうすればティアリス様に)
(自分を)
(選んでいただけるのだろうか)
(わからない)
悶々とザロアはティアリスの寝顔を眺めながら悩み夜が過ぎてゆく。
◆ ◆ ◆
普段通り太陽が昇る前に目が目が覚めた。
「ティアリス様、お早うございます」
「お早うザロア」
「自分にとって大切な話があるのですがよろしいでしょうか?」
「うん? いいけど、どうしたの」
「愛していますティアリス様、どうか試練を乗り越えた後は自分を選んでいただきたい」
ザロアはいつもの生真面目な顔だった。
寝起きの脳で一瞬何を言われたか分からなかったティアリス。ひょっとして自分の妄想が生んだ幻聴なのではないかと思い聞き返した。
「もう一度言ってくれる?」
「愛していますティアリス様、貴女が私の人生には必要なのです。どうか試練を乗り越えた後は自分を選んでいただきたい」
愛していますティアリス様、貴女が私の人生には必要なのです。どうか試練を乗り越えた後は自分を選んでいただきたい
「え、あ、そのえと、もちろんよ……喜んで」
自分でも今顔が赤くなって、表情が緩んでいるだろうなと感じる。生まれて初めて最愛の人からもらった愛の言葉に普段の自分を保てていないと自覚できる。
呪いで届かない愛を受け入れる言葉をつい言ってしまう位には冷静になれていない。
考えるとザロアはこのタイミングで私に告白する以外無い。
ザロアは私が好きなのはマックス卿だと思っている。そのマックス卿との戦いの前に自分も愛しているのだと宣言をしておいて私がマックス卿の味方をする可能性を少しでも下げておく。
言葉に嘘は何一つないだろうがそういう計算はあるだろうけど、私含めて戦神の信者は合理的で打算的だしそれぐらいはする。
それにたとえ計算交じりでも嬉しかった。
しかし愛を受け入れる言葉は呪いのせいでザロアに届かない、私は何というべきか?
愛しているということは伝えられない、しかしザロアには奮起してほしい。
だとしたら……思わせぶりに言うしかないか……
「そうね、試練が終わったとき一番好きな相手を伴侶に選ぶわ。だからあなたにもチャンスはあるわよ」
「それはつまりこの旅が終わるまでに私の努力しだいで選ばれうるということでしょうか?」
「ええ、もちろんよ(頑張ってねザロア。そうだ試練が終わったら誰が一番好きかちょっと焦らしちゃおう、ふふどんな顔するかしら楽しみ)」
※ザロアにかかっている『ティアリスが自分のことが好きだと気づけない』呪いは解けると即座にそれまでティアリスから受けた告白やら先ほどの顔を赤くして嬉しそうに笑う態度などが理解できます。




