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試練の始まり


≪大陸に名だたる五人の英雄たちに勝利せよ。それが貴様にかす試練である≫

 瞬間ザロアの脳裏に五人の英雄たちが戦う光景が流れた。

 マックス卿、エルフの男、自分より年下に思える剣士、ドワーフの戦士、目つきの悪い人間の男。

 誰もがザロアに匹敵、もしくは超える力を持つ英雄たち。



≪ザロアよ貴様ならばこの試練を乗り越える、そうワシは信じとるぞ。では武運を祈る≫

 その言葉を残してバーミリオンの気配は遠くに消えていった。

 残ったのは神官長とザロアとティアリスの三人。



「さて、行きなさい二人とも。戦神様の試練は下されました。あとはそれを乗り越えてきなさい」

 神官長の言葉が夜に溶け、若き二人の元にまで届いた。



 かくて試練の旅は始まる。

 ザロアとティアリスは神官長に別れを告げ、街を離れて今は馬上に二人きり。夜空の星と月の光だけが二人を照らす。



「ねえザロア」

「どうされましたティアリス様?」

「少し……風に当たりたいの。スタルヒンを走らせてくれない」

「わかりました」



 ザロアが愛馬に拍車をかけ走り出させる。ただですら揺れる後方から落ちないようにザロアの腰に手をまわして強くしがみついた。


「ザロア……勝ちなさい、勝って私に結婚を申し入れしなさい。そうしたら私は喜んであなたの妻になるわ、きっと驚くでしょうね貴方本当に私の恋に気づいていないから」



『最愛の人が自分が好きだと気づけない』という呪いのせいでザロアからは返事は無かった。だから言えた言葉でもあった。

 来るであろう呪いが解ける日を妄想しながらティアリスはザロアの背中に自分の体重を預けた。



 さて、自らの聖娼の様子を見守る戦神はこう思った。

(その呪いは声が聞こえなくなるわけじゃなくて、意味が理解できなくなるだけじゃから呪いを解いた瞬間にそれまでやった告白が全部ザロアに理解されることになるんじゃけどな。まあいいか、黙っておこう。そっちの方が面白い、人生ノリと勢い!)



◆ ◆ ◆



「神官長ザロアたちの見送りごくろう、明日もすまんが国王とかに結婚がチャラになったことを説明してきてくれ」

「戦神様、たまに貴方の顔面をぶっとばしたくなるのですがこの気持ちを私はどうすればよいでしょうか?」

「あははは、まあワシも新しく神託出すから怒らんでくれ」



「しかし戦神様、もしもザロアが戦神祭で勝っていたらどうしていたんです?」

「ん?そのときはちゃんとティアリスと結婚させてから旅に出させていたな。エフェメラ殿が大物を倒そうと今人手を集めていてな、そこの手伝いをさせたかったし」

「ザロアはチャンスを逃したということですか、せっかく戦神様も手加減されていたのですがね」

「ワシ手加減なんぞしとらんよ」


 

 言われた意味が分からず自然と神官長の口から声が出た。

「は?」

「知らんかったか?戦闘能力じゃワシが六神の中でダントツで最弱じゃよ。人間に負ける程度にはな。元将軍じゃぞわし、直接的な戦闘力なぞいらんじゃろ」

「人間であられたころ武術大会で優勝されたと聞きましたが?」

「国一番にはなれたな、けどそこが限界じゃよワシの剣才なぞ。アズマの奴とかすごいぞ一目見て追いつこうとか諦める剣才じゃったわ」



「ま、そんなアズマに匹敵する天才相手でも百年の研鑽あって、満身創痍ならば勝てるということじゃな。あはははは!」

 逆を言えば国一番になれる剣才を持つ者が百年の研鑽を積んでなお満身創痍でやっと勝ちうる領域にザロアはいるということである。



「本当はな、明日の結婚式にでも突入するようにそそのかしてそこで負けて試練与えようと思ってたのによ、まあ結果的にはたいして変わっとらんがな」

「普通にザロアに試練与えるだけじゃダメだったんですかそれ?」

「いや構わんけどやっぱり、英雄の旅立ちは劇的に行きたいじゃろ」



「ザロアとティアリス様も大変ですねこんな神を奉じるとは」

 自分もそうであるにもかかわらず神官長は人ごとのようにそう言った、諦念がそこには混じっていたかもしれない。



 それに対する戦神の応えはこうだった。

「ワシ、六神の中ではまともなほうじゃと自負しとるんじゃがな」

「疑わしいですね」

「他のやつなんて世界征服をマジで企んどるやつとか、悪魔への復讐心でおかしくなったやつとか、話を聞かない無能とか、何かあるとすぐ自殺すると騒ぎだすやつとかじゃぞ。まともなのは炎神の兄者ぐらいじゃ」

「………………(凄く不敬なことを考えているが言葉に出したらさらに不敬なので黙っている沈黙)」

「まあ、明日どう言うかお互いアイディア出すぞ」

「………………(本当にこいつがまともなのかと思っている沈黙)」




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