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戦神の試練(ノリと勢いで決めました)

 ほんの少しの時間だった。

 二人は聖娼とその護衛ではなくティアリスとザロアだった。彼ら心には当然この先どうなるのだろうかという不安があった。

 きっと追手がかかるだろう、その途中で命を落とすかもしれない。それでもいいとザロアは思っていた。最愛の人とほんの少しだけ時間を作れるなら死んでいいと。



 ティアリスはザロアの背中に頬を寄せて今後どうやって生きていくか考えようとして……やめた、今この瞬間だけは最愛の人のぬくもりと愛おしさに身を任せたかった。

 


 彼ら心には当然この先どうなるのだろうかという不安があった。だが、それを遥か上回る自由な時間である喜びと幸福がまぎれもなくあった。



 そんな幸福な時間はすぐに終わった。

 ザロアたちを乗せたスタルヒンは西門の前まで来た。そしてその西門では一人男がたたずんで待ち構えていた、神官長だ。



(なぜ)

(ここに神官長が)


 脈絡なく西門にいた神官長にいぶかしむザロアに対して待ち構えていた神官長は口を開いた。

「ティアリス様、ザロア君。戦神様が二人に言葉を賜ると仰せです。心して拝聴を」



(戦神様が)

(いったい何を)

(いや)

(考えるまでもない)

(ティアリス様を)

(連れ出した叱責と罰に決まっている)

 


≪聖娼ティアリス、その護衛ザロア。戦神バーミリオンである≫

 声が降ってきた。

 あまりに神々しいその気配は彼らが啓示を受けるときにのみに下される思念に二人は思わず下馬し膝をついた。

「……恐れながら戦神様、全ては私の愚かな独断でございます!ティアリス様には何の咎もございません!どうか罰は自分一人に!」

 跪き額を地面につけて戦神に懇願するザロア。



≪それを決めるのは貴様ではなく我である。ザロアよ戦神祭にて仲間の援護があり大神の力と刀を持たぬとはいえ刀神アズマを倒したことは評価に値する。またその後、我の軍勢を打倒したことも称賛しよう≫



≪だがしかし、我が分霊たるバミリオに九分九厘勝利を手中に納めていながら隙を見せ敗北したのは度し難いことである。本来ならば貴様は死んでいた。試練は失敗に終わったのだ。しかし幾たび考えようと、聖娼ティアリスの伴侶にこれ以上なくふさわしい者が貴様なのもまた事実≫



≪よってザロアよ。貴様に新しき試練をかす、それを乗り越えたならば聖娼ティアリスが心に決めた者と伴侶になることを許そう≫



 話しかけられたザロアが頭を上げる。いくつか彼には理解しがたいことを言われた。

(今なんと)

(戦功をおほめいただいた)

(バミリオが戦神様)

(いやそれよりも)

(試練を乗り越えれば)

(ティアリス様が心に決めた者と)

(伴侶になる)



「戦神様、直言をいくつかしてもよろしいでしょうか?」

≪許す≫

 混乱するザロアを助けるために跪いたティアリスが声を上げ、応じる戦神の思念が来る。強大で至尊たる思念に押しつぶされそうになりながらも冷静に彼女は言葉を紡いだ。



「感謝いたします、ではまず今回の『聖娼ティアリスの伴侶は次の戦神祭にて最も強かった人間とする』という戦神様の啓示の目的はザロアの見極めにあったのでしょうか?」

≪然りである、我が信徒の中で最高の戦士であるザロアの見極め。それが目的であった≫



「ザロアはその見極めから不合格となった」

≪然りである、勝利を手中に納めかけながら油断により敗北するなど言語道断である≫



「ですがザロアに再度の機会を与えようとされている」

≪否である、これは機会とは言えない。試練を乗り越えて得られるものは聖娼ティアリスが自由意思において伴侶を選ぶことが出来るというだけである。本人に得のないそれを我は機会とは呼ばない≫

 とはいえそれはティアリスがザロアを愛し勝利を願っていると伝えればザロアは間違いなく奮起することだろう、すでに一度戦神を裏切ったティアリスはすでに完全に開き直っている。

 そしてその考えが甘かったと彼女が知るのはほんの少し後のことである。



「もしもザロアがその試練を受けない、もしくは再度失敗したとしたら私はどうなるでしょうか」

≪騎士国の筆頭騎士マックス・チェタニアスを伴侶に迎えさせる。騎士神から申し出があったがゆえ断られることはあるまい≫



「私たちの行動に対して罰はないのでしょうか」

≪そりゃあ連れ出すようザロアにそそのかしたのワシじゃしな。さすがにそれを罰するつもりはないわ≫

 戦神の思念が途端に聞き覚えのある声と喋り方に変った。


「……師範?」

≪そうじゃよ、あれもワシの分霊の一つじゃな。してどうするザロアよ、新たな試練を受けるならばティアリスと結ばれる可能性はある。受けないならばティアリスの伴侶はマックス卿じゃな≫



 老師範の声で聞く戦神バーミリオン。その質問の答えは考えるまでもなく一つである。

「無論受けさせていただきます」

≪良かろうザロアよ、今から貴様に試練を与える≫



 戦神バーミリオンの思念が響くやザロアに何か光のようなものが降り注いだ。だがそれによってザロアには何もなかった。痛みも苦しみもなにもない。

「……これが試練ですか?」

≪否である、それは試練に必要な……必要じゃないな、ぶっちゃけ趣味百パーセントじゃし。まあいい、それは試練が面白くなるようにするための準備じゃな≫

「戦神様、今面白くなるようにと言いましたか?」



つい言葉に出たザロアにバーミリオンはとくに悪びれることもなく続けた。

≪言ったな、ワシの性格は知っとるじゃろう、人生ノリと勢い。さて今のが効いたか試すか、ザロア心して聞けお前が思いもよらぬことじゃろうが……ティアリスの嬢ちゃんはマックス卿でなくお前がこの世で一番好きじゃぞ≫



 奉じる神からの衝撃の言葉だったがザロアの反応は薄かった。まるで言葉が聞こえていないかのように。怪訝な顔をする。


「……申し訳ありません戦神様。思いもよらぬことじゃろうがの後から何も聞こえませんでした」

≪よし、成功。それでは試練の内容を伝える≫

 ティアリスはそこでバーミリオンの言葉を遮った。



「あの恐縮ですが戦神様、今のは何ですか?ザロアがこう、言葉に出来ないんですけど明らかにおかしかったのですが!」

≪うむザロアには『ティアリスが自分のことが好きだと気づけない』呪いをかけた≫


「なぜですか! 後で私はザロアに告白しようと思っていたのですが! そうすれば必ずザロアは奮起して試練を乗り越えます!」

≪うむ、まさにそれを防ぐためじゃな。この試練は自分自身だけの意思と実力で持って乗り越えねばならん。悩み惑いながら踏み越えるのも試練の内じゃよ≫


「本音は?」

≪そっちの方が面白そうじゃなろ、人生ノリと勢い!≫

 ビシッとサムズアップする老師範の幻影がティアリスの脳裏に浮かんだ。

 駄目だこれは何を言っても通じないなと老師範とは長い付き合いなのですんなりと受け入れられた。

 あれが信じる神だったとか心底勘弁してほしいが。


「……呪いとか悪魔のようなことをしますね」

≪『勝利とは理解の先にある』と教えたつもりじゃがな。呪いの原理を理解しすぎて今ではぶっちゃけ剣より呪いの方が得意なぐらいじゃ、才能あったみたいじゃなワシ。あははは≫



 ひとしきり笑ったあと戦神は真面目な雰囲気に戻った。

≪さて、話の腰を折られたがザロアよ汝に試練を言い渡す。大陸に名だたる五人の英雄たちに勝利せよ。それが貴様にかす試練である≫

 瞬間ザロアの脳裏に五人の英雄たちが戦う光景が流れた。



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