心のざわめき
今日も、雨降ってる……
何だろう。
心がざわめく。
君の声をふと思い出したから?
心がざわざわ。
夜の風に吹かれながら、私は曇り空を見上げる。
ベランダにぽつんと空を見上げる私が居る。
梅雨の季節に入った。
明日からはまたひどい雨になるだろう。
ざわざわ心が騒ぐ。
一昨日の下校時。
雨が降っていた。
傘をさす私の横を、君が通り過ぎた。
君の傘は何故だか大きな穴が開いていた。
ああ、また……。
と私は思う。
優しい君は、同級生からからかわれているのさえ気付かない様子だ。
笑って、いつも軽く受け流す君は本当に気付いていないのだろうか、からかわれている原因は、こういう事に敏感な私でさえ分からないのだから、不思議だ……。
ポツポツ、と降っていた雨は本降りになろうとしてる。
君は穴の開いた傘を立ち止まって見上げている。
君の制服の肩が背中が、黒く濡れていく……。
その時、君が笑った。
嬉しさと、悲しさが混じった様な複雑な笑顔。
私の足も思わず止まる。
雨の音の中、君の視線と私の視線がぶつかった。
雷の様に、バチリと何かが光った様に感じた。
それは、君と私の視線がぶつかった光だったのだろうか。
そして本当に雷が鳴った。
轟く音が響く中、君と私の周りだけが、嘘の様に静かだった。
「雷、怖くないの?」
「え?」
「だーかーらー、雷、怖くないの?」
君が白い歯を見せて、大きな声で言う。
私はついムッとして答えてしまった。
「怖くないわよ、雷なんか!」
「そっかそっかー」
雷は鳴り続けている。
このままでは、近くに落ちる可能性が十分あった。
意に反して、私は正直に言うと雷は大の苦手だった。立っている足は細かに震えている。
君が突然、近付いて来て、私の傘と自分の傘をひょいっと交換した。
途端、穴からの雨に濡れる私の制服。
「じゃあな、サンキュー」
「は!? 待ちなさいよちょっと!」
君は、明らかに面白がって、振り返ると歩き出す。
「待ちなさいよ、こらー!」
叫ぶ、私に、君が顔だけを向けて言う。
「もう、動けるだろ?」
ハッとすると、足の震えは収まっている。
私は真っ赤になって駆け出した。
君の事を見もせず、走る。走る。走った。
玄関に駆け込むと、びしょ濡れになったまま座り込んだ。
風邪を引くと心配する母親を宥め、風呂場に向かう。
君の声が、耳から離れなかった。
あの時の冷静な、君の顔と声が何故だか、頭から離れない。
君は、もしかしたら、全て……。
「知ってたんじゃ……」
ザーザー、シャワーの音に私の声は掻き消された。
夕飯の後、ベランダに立つ。
心がざわめく。
何故だか、とても苦しい。
ざわざわ、ざわざわ。
この、胸の、心のざわめきは、一体……。
私の頬を、夜風が撫でていった。
湿気を含んだ風。
明日も、雨……………。
玄関には、穴の開いた、傘が置かれたまま……………。
お読み下さり、本当にありがとうございました。