プロローグ
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「君はこの家には向いていないね。 別の道を探しなさい」
本物の主人公になりたくても主人公(笑)以上の存在になれない。
そんな僕が父に言われたのは容赦のない言葉だった。
総資産200兆円を超え、世界でも有数の財閥として知られる経営グループ総帥の息子、帯川有人。
主人公(笑)の割に高待遇なのかもしれないけどそれを活せない、それが僕だ。
僕は凡才としか言いようがなかった。
あらゆる天分を備えた父さんと違って。
後継者として振る舞うために幼いころから帝王学を習得すべく、勉学や芸事、武芸を励んできたがどれをとっても十人並み。
とりたてて苦手なものもないが、あまりに普通すぎて人の目につく事はない。
対して父、帯川愛は、多くの天才を輩出してきた家系の中でも優秀という言葉で片付けられず、異才といえる存在。
まるで人間ではないかのような化け物じみた天分を備えている。
総帥としてグループを成長させるカリスマと経営手腕。
幼少のころから勉学、芸事、スポーツ、武芸に長け、どの分野においても、並び立つ者が居ることすら困難。
グループを世界でも有数企業として安泰の物としているのは父さんの手腕に依るところが大きいと聞く。
僕は物心つく頃には一族から父さんと比べられるのが当たり前の環境で育った。
優秀な父さんと比較されて、劣等感に苛まれながらも努力し続けてはいる。
でも、凡才は凡才。
家柄が良いだけの取り立てた才能のない僕はいわゆるモブ男子だった。
才能が有るものには簡単にできる事を僕ができるようになるには、何倍も時間が掛かり、時には何百倍も時間が掛かる。
睡眠時間を削り、ルーティーンのように分刻みで正確に一日の大半を自己鍛錬に費やしてようやく高水準ぎりぎりの成績だ。
もし僕が主人公なら、父さんというメインキャラに立場を逆転された主人公(笑)だ……
その日、多忙な父さんと珍しく僕は本邸で夕食を共にしていた。
「全国模試の結果はでたのかい?」
美しく澄んだその瞳はオニキス等の黒い宝石に例えられ、光る絹糸みたいな真っ黒な髪は女性と見まがう艶やかさがある。
見目美しいだけでなく華やかさと気品。
ゆったりと雅やかな身のこなし。
美しい吸血鬼は父さんを基に創作されているのではないか。
今、飲んでいる赤ワインもまるで女性の生き血でも飲んでいるようだ。
そんな想像がもし真実でも、女性たちはこぞって父に生き血を飲んでもらおうとするだろう。
それだけの魅力が父さんにはあった。
そんな美しい容姿の父さんが僕に尋ねたのだ。
少しは見栄も出したくなる。
「はい。 今回は初めて10位以内の9位に――」
言いかけて、しまったと思った。
言ってしまった。
うれしそうに。
父さんからすれば模試など1位で当たり前。
10位以内に初めて入った事を喜ぶなど理解できない。
「ふむ」
顎に手を当てながら思案した様子を見せる。
たったそれだけの動作がどうしてここまで人を緊張させ、引き付ける魅力があるのだろうか。
父さんが何を言わんとしているか気になって仕方ない。
「睡眠時間を削り毎日深夜まで勉学に励んでいるそうだが、 女中の方が心配していたよ。 体を壊してしまうのではないかとね。」
今日の父さんは躊躇などないのかもしれない――
いや、もとよりそんなものはないのだ。
ただ、タイミングでなかっただけ。
でも、僕は……。
父さんにそれを言い渡される時がずっと恐かった。
「私もそう思う。 顔面は常に蒼白だし目も黒ずんでいる。 随分と無理を続けているようだ」
(言わないでくれ)
(わかってるよ)
(だって誰よりも努力してきた)
油汗が顔中から吹き出る。
元々不健康そうな顔色も、今は血流が全て止まってしまって顔面蒼白の僕を意に介さず父さんは続ける。
「有人君の意向は汲んできたつもりだ。 父親として君を心配している。」
(心配されたいんじゃない……)
(父さんみたいになりたいんだ)
(圧倒的な本物の主人公に――)
「それほど努力して10位以内なら――」
(やめてくれ……)
(今日……言われるのか)
(お前は本物の主人公じゃない)
「君はこの家に向いていないね。 別の道を探しなさい」
(モブだ……と)
父似で整った容姿といわれているが、今は目が窪んで幽鬼のようになっているだろう。
結局、返答を何もできなかった。
言いたいことはたくさんある。
喉まででかかっても声をだせない。
主人公がそうしろといったことを否定できない。
父親が主人公なだけの主人公(笑)だから。
本物の主人公じゃ、ないから。
お前は主人公じゃない。
父さんにそう言われるのは幼いころから恐かった。
わかっていたから。
自分の努力はメインキャラに立場を喰われるのを先延ばしにしていただけだ。
でも、ようやく秀才と周囲が認めてくれるようになったんだ。
そんな主人公(笑)を父さんはいとも簡単に突き放す。
子供の頃、少年漫画やヒーロー映画を見るのが好きだった。
僕は物語の主人公になりたかった。
勧善懲悪がはっきりしていて、物語の主人公はどんな苦難をも乗り越えて周囲から認められていく。
最高のカタルシスを得られる疑似体験。
自分もそうなりたい。
そんなヒーロー好きの少年のすぐそばに圧倒的主人公のような父だ。
当然のように父さんに憧れた。
今は漫画など読む時間などない。
優秀な人材が集まるグループにおいても圧倒的主役の才覚を放つ父さんとは違う。
常軌を逸した努力をしても結果が伴わない、そんな僕の姿は周囲には畏怖の対象らしい。
夕食中あの後も何か会話をした気もするが、よく覚えていない。
気が付いたら自室でルーティーンの勉強をいつも通り行っている。
落ち込んだ気分でも幼少時から続けているルーティーンは簡単にはくつがえらない。
意志とは無関係のように体は動き続ける。
「からくり人形か……」
くくっと自嘲する。
「有人様はからくりのようだ」
勉学、芸事、スポーツ、武芸の修練を分刻みで毎日決まった時間に正確に行う僕を見ていた本邸女中達の取沙汰。
いわゆる井戸端会議のネタだ。
膨大な情報を一瞬で演算して新しいことも難なくこなしてしまうAIを駆使した最先端アンドロイドのような父、愛
父似の美しい容姿とは言われるが、与えられた作業を無表情で不器用に、同じような毎日を繰り返す僕をいつしか――
『造形だけ美しい帯川のからくり人形』
と畏怖する女中も少なくないのは知っている。
それほど感情表現が乏しい僕でも夕食の会話は堪えた。
勉強に全く身が入ってないのがよくわかる。
おまけに本当に体調を崩したのか夕食後から頭痛が止まない。
「少し休憩するか」
父はああ言ったが、グループ後継者として僕に本物の主人公のチャンスがないとは思いたくない。
まだ、諦めたわけではない。
ただ、頭痛が止まらない。
いや、痛すぎる――
頭の中で小さな鉄球をいくつもぶつけられ、砕けているような痛みをこらえる。
自室のベッドへ向かおうと立ち上がろうとした直後――
こぶし大の鉄球を至近距離から豪速で投げつけられたような痛みからうめき声を上げてその場に倒れ込む。
倒れ込んだ後も鉄球を投げつけられたような頭痛は続いており、白目を剥いて体をよじるも激痛は更に増していく。
「痛い、 痛い、 い、 た、 い。」
これが帯川有人としての最後の記憶。
僕が人間として最後に感じた感覚は痛みだった。
激痛で意識を失ってから目を覚まし、僕が最初に見たのは銀色の義手らしき物だった。
慣れ親しんだ自分の肉体が見当たらず、義手が僕の意志で動いたのを見て、僕は絶叫を上げた――
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