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78.アンガスと彼女

水害から3か月がたち、ようやくサクロスの復旧も本格的となった。復旧には、フィルアッシュハワードが、今だ体力が回復していないアンガスの代わりに指揮を取る。それは、王城からの正式な通達によって決められた。


アンガスの希望により、アンガスはあわただしい領都の屋敷から、領都から離れた片田舎の小さな屋敷へと移った。


アンガスをかばって負傷したサナンは、もともと体力がある騎士だったのも関係あるのだろう、めきめきと回復し、今では落ちた筋力を取り戻すリハビリの段階だ。


アンガスに随行する、と言い張るサナンをアンガスは王都のギルバートの元に返した。サナンはもともとギルバートの乳兄弟で彼の従者件護衛だった。ちなみにアンガスの乳兄弟は女性だったため、交流はない。


アンガスにマグリットの死を伝えたのは、ギルバートだった。


アンガスが発見され、その命の危機が去ったころ、人目を忍んでサクロス領へやってきたギルバートが彼に告げた。


静かにその話を聞いていたアンガスだったが、ギルバートが去り、夜の静寂訪れる頃、彼の部屋から押し殺すような声が聞こえた。その声はだんだんと大きくなり、慟哭に変わる。

屋敷の者は、その声に涙した。

その声は、陽が上るころには治まったがその日から、アンガスは何も話さなくなった。食事もとらず、ケガの手当もさせない。日に日に窶れ、衰弱していく彼に屋敷の者は見ていることしかできない。


そんな中、この屋敷で新たに雇い入れた侍女が彼に世話を無理やりに焼いた。

カナリアと名乗る少女は、スチュアート侯爵家の推薦状を持ってこの屋敷にやってきた。背格好や雰囲気がどこかマグリット・ニッサルに似ていた。


初めは拒絶していたアンガスだったが、にこにこと笑いながらアンガスの世話を焼く彼女に徐々にその身を委ねるようになり、短いながら言葉を交わすようになる。

そのうち、彼女だけを側に置き他のものを遠ざけるようになった。


そして、三か月たった今、アンガスは起きて庭を散歩できるようになるまで回復した。その傍らにはいつもカナリアがいる。庭で歩行訓練をしているアンガスにつきそう、カナリアの後姿はマグリットに酷似しており遠目に見れば、マグリットが今も彼の側で生きているような錯覚を覚える。


だから、スチュアート侯爵令嬢は彼女をアンガス様の元へ遣わしたのだと周りは納得した。


アンガスは微笑を口元に浮かべることも増えた。


もう、大丈夫だ。屋敷の者は安堵する。これで、アンガス様はもう、大丈夫だ。


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