79.やっと、会えたね
アンガスが目を覚ますと、その手は細い象牙色の手に包まれていた。その手の先をゆっくりと辿って、アンガスは幸福感に涙を流す。
ああ、生きていてよかった。
やっと、やっと会えた。
ベッドに突っ伏すようにして寝ていた彼女の黒いまつ毛がフルルと揺れる。
ああ、きれいだ。
アンガスは包まれている手を動かそうとして全く力が入らないことに舌打ちしたくなる。
抱きしめたいのに。その頬にそっと触れて口づけしたいのに。身体が全く動かない。
アンガスが動いたことに気が付いた彼女の目がゆっくりと開かれ、黒曜石のような瞳がアンガスをとらえた。
「・・!カイくん!」
ああ、花花だ。おれの、花花だ。
「花花」
声は掠れていた。
花花が枕元の水差しから水を飲ませてくれる。
「花花」
再びその名前を呼べる事がどんなに嬉しいか。
「カイくん、泣かないで」
泣き顔の花花もまた言葉にならない思いを、彼の手を握る手に込めるように強く握る。
「泣くよ。これ以上、幸せなことなんてない」
ズッと鼻水を啜ると、ハンカチを鼻に当てられる。
「もう、格好悪いなあ」
泣き笑いの花花がアンガスの額にその額を当てる。
「カイくん・・。生きていてくれてありがとう。ねえ、カイくん、私、あなたと」
「花花、今の名前は?」
その先は自分で言いたくて、アンガスは花花の言葉を遮った。
「・・今は紅花っていうの・・でも、この名前ももうすぐ捨てる予定よ」
「そっか。なあ、紅花。会った瞬間に泣いていて、鼻水を拭いてもらうような格好悪いおれなんだけど、ずっとおれと一緒にいてくれる?」
力の入りづらい腕をようやく動かす。脇腹に引き連れたような痛みが走る。
「これ以上の幸せを俺と育んでください」
「・・ハイ・・!」
彼女の頭をようやく動いた腕で引き寄せて、生きている生を超えて乞い求めていた花花の唇を味わった。