78.まだ、死なれては困るんだ
小さなうめき声にベネディクトは闇に眼を向けた。
いた。
大事な、大事な賓客だ。丁重に迎え入れなければいけない。
アンガスが見つかった箇所からさほど離れていない場所。
人一人が身を隠せる窪地。
アンガスもサナンも重傷だった。それを鑑みれば、どれだけ身体能力に長けて居ようが無事ではすまない。
見えていた光景を思い出せば、川上に背を向けていた男はとっさの受け身も取ることもできずに濁流にのまれている。
死んでいるかもしれない。しかし、生きていたら厄介だ。
だから、確認にきた。判断は正解だった、とベネディクトは口角を上げる。
くぼみにはまるように男はいた。背中は血と泥で汚れている。全身が泥でまみれ、額には脂汗が浮き、息が荒い。意識はないようだ。
ベネディクトは慎重に男に近づくと素早くその手を拘束するが、男は抵抗もしなかった。掴んだその手はとても熱くて発熱していることが伺えた。
体をまさぐって武器を取り外す。それを終えてから傷の検分をした。
背中の傷は大きく深い。男の顔が白いのは出血のせいもあるのだろう。足首もおかしな方向にねじれている。
呼吸にも雑音が混ざっているから、肺に水が入っているのかもしれない。
ベネディクトは彼を担ぎあげる。
まだ、死なれるのは困る。この男からはたくさん聞くことがあるのだから。