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7・マグリット

マグリットはニッサル男爵家の三女だ。ドレスや衣服は姉のおさがり、教育は最低限、と三女らしい待遇で暮らしていた。

だから、学園へ通えるなんて夢にも思っていなかった。きっと、成人したら平民となり領内の有力な地頭か裕福な商人に嫁がされるものと思っていたから。


14歳のころ、マグリットに縁談が持ち上がった。商売で一山当てた商人が相手だった。年は45才、平凡な顔立ちで、父親よりも年上の商人。商人が欲しいのは「貴族の嫁」というトロフィーワイフだ。


そのため、マグリットは貴族籍でなければならない。しかし、学園を卒業しなければ貴族とは認められない。


父はその商人と交渉し、入学資格が得られる16才ぎりぎりでマグリットを学園へ入学させるお金をせしめた。


夢みたいだ。とマグリットは浮かれた。親よりも年上の、ずいぶん年の離れた男に嫁ぐのが不幸だと思っていた。しかし、そのおかげで、夢にまで見た学園に通える。


同じように学園へ通えなかった次女にはとてもやっかまれた。しかし、次女は年も容姿も人柄すら釣り合いの取れた商人の家にすでに嫁ぐことが決まっていて、マグリットが親子以上に年上の男と結婚することを酷く馬鹿にしていた。


悔しそうな次女の顔を見てマグリットは溜飲を下げた。


入学するとき、父は言った。

「もし、あの商人と結婚するのが嫌なら、あれよりも有望で金持ちで、あれの用立てたお前の学費をすべて負担してくれる人を探してきなさい」


マグリットはそれを親心からくる激励に感じた。


アンガスに出会ったのは僥倖。

彼の目の前で転んだのは偶然だった。


一目で恋に落ちた。

そして次の瞬間に失恋が決定した。


彼の横には、彼の未来の伴侶が微笑んでいたから。

嘘のようにお似合いの二人だった。彼の隣には彼女が、彼女の隣には彼がそれぞれ立つのは生まれる前から決まっていたかのように感じるほど、自然に寄り添って彼らはいた。


王子様然とした容姿を持つ彼が本当の王子様だということはすぐに知れた。もともと手の届かない人なのだ。あこがれだけで終わらせるべき感情だ。


それなのに、殿下は些細な理由を付けてはマグリットの側にやってくる。困っているときに手を差し伸べてくれる。側にいてほしいと心の願いが聞こえているかのように自分に寄り添ってくれる。


もちろん、スチュアート侯爵令嬢を慮りアンガスと距離を取ろうとした。しかし、アンガス殿下を無下にすることはたかがド田舎男爵の三女には難しい。どうしたらいいんだろう、と悩んでいる時に手を差し伸べてくれたのはスチュアート侯爵令嬢だった。


「私のことはソフィアと呼んでくださいな」

と名前呼びを認めてくださり、アンガス殿下が寄り添うことで女子生徒の標的となったマグリットを陰から日向からそっと助けてくれたり、ソフィア自身が側にいてアンガス殿下を窘めてくれた。


こんな素敵な人が婚約者がいるのにアンガス殿下はなぜ私なんかに構うのだろう。

その理由はソフィア様が教えてくれた。


「アンガス殿下は彼の唯一を探しているの。そしてそれは私ではない。そして彼の唯一を私も探しているの。私と殿下の婚約を白紙に戻すために」


ソフィア嬢は、内緒よ?とその白く細い人差し指を自身の唇に寄せていたずらっぽく笑った。


その笑顔に視線が釘付けになる。

「でも、ソフィア様と殿下はとてもお似合いでお互いが想い合っているように見えます」

「殿下と私は長い時を一緒にいますもの。兄弟のような情は感じているわ。でもそれはギルバート様やベネディクト様に感じるのと同じ感情なの。恋愛などではないわ。幼馴染だから、この先一緒にいたとしても恋愛には発展しないと言い切れるわ」


というか、彼と一生を過ごすのは寒気しかしないの。という言葉はきかないことにした。


そんなことを聞いてしまうと恋情に歯止めがきかなくなってしまった。


ソフィア様もこっそりと応援してくれているように、アンガス殿下と二人だけの時間が増えていく。


身分が釣り合わないのに。彼の隣に立つにはマグリットにはすべてが足りないのに。


でも殿下なら、マグリットを婚約者(あの商人)から解放できる。彼とならお父様だって納得してくれる。それが愛人という日陰の身だとしても。


だから、彼の手を取った。

「私と生きてほしい」という言葉に頷いた。


彼のその後の選択を知っていたら頷かなかったのに。

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