53.願うなら
落胆したことは認める。
夢から覚めて彼女は常に彼女の中にいる女に囁くように思った。
驚いたのだ。そして嬉しく思ったのだ。駆け寄って、抱きつきたかったのだ。
清香がいた。琉揮がいた。築がいた。
姿形は変わってしまってはいたけれど、一目見てすぐに分かった。
前の生の幼馴染たちを。
しかし、近づくことはかなわない。
身分の差が壁のように立ちふさがっていた。
近づくことはかなわなかったけれど、同じ世界に生まれていたことが嬉しかった。
近い将来、彼らに殺されることになるだろう。
でも、それでも嬉しいと思う気持ちは押さえられなかった。
そして、求めて求めて求めすぎて忘れてしまっていた人の姿を見た時。
死んでもいいと思った。
違う人の手を取ってはいたけれど、甘やかなまなざしをもらっていた彼女にはわかった。それが偽りのものだと。
時折、彼からの視線を感じた。柔らかで、少し熱が含まれていたように感じたのは願望だろうか。
今の生ではきっと彼の手を取ることはできないだろう。
彼らは彼女が何ものかに気が付いていないから。
でも、彼女が彼らに危害を加える存在だということに勘図いているだろうから。
さみしくないと言えば嘘になる。
辛くはないとは言えない。
あの輪の中に、彼の隣に帰りたいと願う気持ちも強い。
でも、どうにもならないこともあるのだ。
自分たちに襲った不幸のように。
彼女の中の女が辿った運命のように。
でも、叶うなら。
もう一度、彼らと会いたいと願う。
それが彼女の命が尽きる時だとしても。