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51.願う

深く深くため息を吐いてギルバートはソファへと座り込む。

花花だろうか。


それ(見つかった死体)国境から消えた女(葉 紅花)である可能性はかなり高い。


フィアサテジアラム人をこの国から排除したのは側妃の事件が引き金だった。国境を封鎖し、エイク国民と友好国の国民以外を使役する場合には税を課した。その施策で国内でフィアサテジアラム人を見ることはなくなった。


自分はベルヒュートの領くらいしか行き来していなかったが、アンガスはちがう。アンガスは積極的に地方の領地や国境付近などベネディクトとともに王子とは思えないほどのフットワークで国内あちこちに飛び回っていた。


狭い世界で生きてきた自分より、あちこちを飛び回っていたアンガスはより一層深く絶望している。


それ花花である、と。


どうか、どうか、花花ではありませんよう。ギルバートは祈ることしかできない。清香へのような特別な感情があったわけではない。でも、ほかの4人と同じように、花花も前の生を一緒に歩んだ幼馴染だ。

この世界にいるのなら、一人だけ不幸せになるのは違う。


ギルバートは再び息を着くと、駒を進めるために動く。


アンガスとベネディクトへの支援は先ほど鳥を飛ばして整えた。後はベネディクトのいないこの機会を使ってネズミでも捕るか。いや、ネズミ捕りは後でもいい。まずは、アンガスの希望を叶えてやろうか。


この頃、不穏な身辺だ。ベネディクトという強い剣が側を離れた今が絶好の機会だと息を巻いているだろう。それなら。


ギルバートはふ、と嗤って立ち上がる。

◆◆◆◆◆



報告を受けてソフィアはさっきから立ったり座ったりを繰り返している。


フィアサテジアラムの風貌を持つ女が、アジデリ鉱山で見つかった。


フィアサテジアラムの女、それで思い浮かぶのは花花の顔。

アンガスとベネディクトは報告を受けてすぐにアジデリ鉱山に向かったという。


どうか、どうか違っていて。


ソフィアは、落ち着かない心ごと抱え込むようにぎゅうっと手を組んだ。


*※*※*※*※*※*※*※*※*


アンガスとベネディクトが王宮を出立して2日目。

ギルバートは執務室から離れていた。


連絡手段がないため二人の動向は分からない。が、ベネディクトが付いているのだ。アンガスも無事だろうし、計画的に進んでいるだろう。やきもきしても仕方がない。


ベネディクトはあれでいて剣も立つし有能な男だ。


今日の護衛は第二騎士団からの派遣を要請している。近衛からは不満があったが、自分が実力があるものを欲していると常々と話していたのが功を奏し、不承不承ながらも要請は通った。


第二騎士団から派遣された護衛の中には、例のジェイコブ・エイハーンもいた。彼は少なくとも王太子の護衛に抜擢されるだけの実力はあるらしい。まあ、さりげなく誘導はしたが。


庭園に面した廊下を歩く。いつもは色とりどりのドレスが行き来するこの通りに、今日は不自然なくらいに人がいない。


ギルバートはほくそ笑む。


その時だった。護衛が動いた。騎士の隙間から見えたのは銀色の鈍い光。地面に近い低い位置からギルバートに迫ってくる。


「殿下!」

応戦する護衛は、足元を切り付けられて地に転ぶ。


気が付いたときにはもう、刃の光は目前に迫っていた。


◆◆◆◆◆

「ソフィアお嬢様!」

いつもとは違う焦った声にバッと顔をあげる。嫌な予感が汗に変わって背中にじっとりとにじむ。いつもは落ち着いた家令が血相を変えて、ソフィアの部屋のドアを開けた。

「・・・どうしたの?」

「ギルバート殿下が城内で襲撃されました。すでに賊は制圧され、殿下は無事でいらっしゃいます」


ひゅっと喉がなった。手先が体温を失っていく。

しっかりして、とソフィアは自分に檄を飛ばして、へそのあたりにグッと力を入れて立ち上がる。

「殿下にお怪我は?」

「詳細は不明ですが、命には別条はないと」

「すぐに王宮に向かいます。馬車の用意を」

「しかし、王城は今」

「馬車の用意を」

ソフィアの強い眼差しに、家令は背を伸ばし一礼し、そのまま馬車の手配を取りに行く。侍女に王城に行く用意を言いつけて、ソフィアは小刻みに震える手をぎゅっと握る。


大丈夫、大丈夫よ。しっかりしなさい、ソフィア。


しばしの間で馬車の用意ができあがり、ソフィアはすぐに王城へと向かった


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