47.対面
成績優秀者を招いた茶会は和やかに始まった。
件の子爵令嬢の到着では、さすがのギルバートも緊張しているのが伝わってきたが、結論からいうとわからなかった。
子爵令嬢と対面しても、アンガスやほかの二人と会った時のよう直感が下りてこない。
彼女は違うのだろうか。
ギルバートもベネディクトも表情を変えない。
成績優秀者の中にはソフィアの弟であるアナステシアとウィリアムもいてなんだか気恥ずかしい。ギルバートも久しぶりに弟のクレメンスと会って微妙な表情をしている。
成績優秀者は高位貴族が多い中、子爵令嬢のアイリーンは異彩を放っている。
だから、話しかけやすかった。
「サットラン嬢は平民として暮らしていたと聞き及んでおりましたが、この深い教養はどこから?」
アイリーンをしっかりと見つめて質問をする。その顔がメイクで作られているのかもわからない。しかし、よく見るとどこか東方の国の容貌が見えてくる。血筋に東方の者がいると言われてしまえばごまかせるくらいの些細な特徴だが。
アリスやウィリアムが手放しで褒めるほどだ。所作は洗練されているし、話題の選び方にも深い教養が見え隠れする。
言葉は不自然なほど綺麗なエイク語だった。エイク国内でも方言は存在する。サットランは若干、西のイントネーションが混じる方言を話すが、アイリーンの発音はうつくしい。王族の前だから取り繕っていると言われればそれまでだ。
ほんの少しの違和感が積み重なるのはこちらが彼女を疑っているからだろうか。
「母は学園には通えませんでした。しかし、貴族の家の出だった母は学園に高い憧れを抱いておりました。そのため、学園で学ぶ内容を先んじて私に与えてくれていたのです。私の教養はすべて母がサットラン子爵の援助を受け施してくれたものです」
子爵令嬢が葉紅花だという予感さえも得られぬまま、茶会は終わりの時間が近くなる。
ソフィアの心の中には焦りが生じる。その焦りを見越したようにギルバートが学生たちを見渡した。
「ここから先のお話は他言無用を願う。君たちは学園の中でも優秀な者たちばかりだ。将来、私の治世を支えてくれる太い柱になってくれるだろうと期待している。そして、女性の皆さんにも同じことをお願いしたい」
「・・どういうことでしょうか」
伯爵令嬢がおずおずと声を上げる。ギルバートはふんわりと微笑んだ。伯爵令嬢が頬を朱に染めた。
「女性に国の中枢で力を発揮してもらいたいと考えている」
アナステシアを筆頭にした男性たちが息をのむ。
「男性主体のこの国では女性は家に入るしかない。しかし、この場にいる者たちを見てもわかる通り、優秀な女性も多い。その優秀さを家政だけに発揮させるのはもったいないと感じているんだ」
ソフィア嬢のようにね、とギルバートはソフィアに視線を向けて微笑むから、ソフィアは頬を染めないように胆力を必要とする。
「女性を政に携わわせるということでしょうか」
「シアにも分かっているだろう?」
侮りの色にじませたアナステシアの言葉にギルバートは応える。
「本当は平民階級にも国政に関わってほしいが、平民階級で教養を得る機会が多いものはそう多くない。・・一から教育を施さねばいけない平民より、貴族女性の優秀なものをまず登用する方が現実的と考えたが」
「平民まで・・?」
「ああ。まあ、識字率の低い我が国では平民を登用するためには教育の場を作る方が先だがな。だから、サットラン子爵令嬢。平民として暮らし、平民の身から子爵令嬢として学園に入学し、さらに優秀な成績を維持しているあなたに意見を聞きたいと思ったんだ。もちろん、この場にいる優秀な君たちにも私の考えを聞いてほしかった。・・・王宮に入っていしまうとどうやら考え方が凝り固まってしまうらしくてな」
ギルバートがわざとらしいため息を吐く。
ソフィアは知っている。あのため息は9割くらい実感が伴っている。
「しかし、」
アナステシア、クレメンス、そしてネヴィル財務大臣の嫡男などの男子たちは議論を始めた。女性陣は何やら思うところがありそうだが、男性の話に口をはさむことは慎みがないと言われ育っているためその議論に参加することはなかった。
ここは、私が口火を切って議論に参戦するべきかしら。
ソフィアが口を開きかけた時、執事がアンガスの到着を告げた。マグリットともに王妃に挨拶を来ていたらしい。
背にさっと緊張が走る。一度目を閉じ、伏せたままの視線でアイリーン・サットランを見た。
アンガス。ううん。快進なら、分かるのかしら。