4・ベネディクト 第一段階は達成した
「で、どうだとおもう?」
ソフィアは単刀直入に切り出した。
ベネディクトは紅茶をすすりながらおおむね計画通りではないかと小声で話した。
応接室の扉は開け放されており、使用人は下げてはいるが声を上げればすぐに部屋に入ってくる位置に控えている。
マグリットは、侍女に連れられてあてがわれた部屋に案内されている。マグリットはまだ夜会のドレスのままだったから、着替えているのだろう。
「・・・これで、婚約は白紙。殿下はマグリット様とくっついて、王になるのはギルバート様。
ベネディクト様は騎士団長を目指して、ギルバート様の臣下となる。
私は妃教育を終えて領に戻る。お父様には領へ戻ってしばらくゆっくり過ごすといいとの言質をいただいたの」
ベネディクトはふふふふと不気味な笑いを垂れ流すソフィアに、そんなに上手くいくかなーと呟いたが、ソフィアには聞こえていない。
「領に帰ったら孤児院のお手伝いをするのよ。領もだいぶ潤ったから、近隣から子供を集めて幼児教育を施すの」
「こっちでも、先生をするのか」
ベネディクトは少し呆れてソフィアを見る。するとソフィアは、きょとんとした顔をしたあと、何言っているの、と返した。
「デュークだって、こちらでも国防を預かる騎士様ではありませんか」
今回のはかりごとは前回に比べて簡単だった。
第一の目的はアンガスの王位返上。それに王妃になりたくないソフィアと王になりたかったギルバートが一枚かんだ。
ベネディクトはアンガスに思うところがあったし、ギルバートに仕えるのはまあ、許容できたので口をださなかっただけだ。
今回の第一段階は達成したといってもいい。
ベネディクトにも悪くない結果だ。きっとベルヒュート侯爵は王位継承権を自分の子のギルバートへ早々と譲るだろうから、ギルバートに仕えることは決定したも同然だ。
そのほかの難しいことは今は考えない。なるようになるしかないからだ。この後の後始末は少しだけ頭が痛いが。
ソフィアが紅茶を優雅なしぐさで飲むのをぼんやりと見て、この人の猫も厚いな、と思う。前とはだいぶ変わった幼馴染。
「デューク、どうかして?」
ソフィアは目があうとそっと小首を傾げる。
「なにもない状態」なら、そのしぐさはとても魅力的に映るだろう。
「いや・・・。長かったな、と思って」
そういうと、ソフィアも重い荷をおろしたような笑顔を浮かべた。
「ええ、本当に。・・ここまでとても長かったわ。でもこれで自由になれる」
妃教育、めちゃきつかったわ。とソフィアがベネディクトにだけ聞こえるように囁いた。