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27.優秀な愚か者 /ギルバート

窓の外に広がるのは漆黒。時計はすでに深夜を指している。

執務室でのデスクワークの多いギルバートは就寝前の筋力トレーニングを日課としている。


生まれる前の記憶でも、ギルバートは毎日デスクワークで歩くのは、外回りと通勤の時だけ。休日はぐったりと家で寝ているか資格試験の勉強をしていた。運動はほとんどしたことがなかった。そのためか24歳という若さでぎっくり腰が癖になっていた。


その轍はふまないと、この生では積極的に身体を動かしている。トレーニングメニューはベネディクト(脳筋)監修だ。


腹筋をこなしながらマグリットのことを考える。自分に自信がなく、すぐ人に流されてしまう彼女はずいぶんと使いやすい駒だ。


媚薬を盛るくらいはだれかがけしかけるだろうと警戒はしていた。


アンガスに薬を盛られたら危険だと言い含めておいてよかった。アンガスが飲んでいたのは媚薬の効果を打ち消すものだろう。中毒症状の強く出るものをわざと選んだに違いない。


二度とマグリットが薬に手を出さないようにだ。


フ、フ、と息を吐きながら300を数えたところでばたりと床に大の字に寝転ぶ。フーと大きく深呼吸すると立ち上がり、湯の用意を侍従に言いつける。下履き一枚で室内履きもはいていない。最初は難色を示した侍従だったがすでに諦めたのか小言をいうことがなくなってすっきりした。襲撃の危険性を考えれば何か身に着けるべきだと分かってはいるが難しい。


前は家の中ではいわゆる「裸族」だったのだ。生まれ変わってもそのくせが抜けない。文明(下履き)を身に着けているのだ、大した進化だ。


湯浴みをしながら薬の出所を推察する。

ニッサル男爵はマグリットによく似た気の弱い男だ。長いモノには巻かれろ、を地で行く男。ニッサル男爵家自体がそんな風にして生き延びてきた。


補助金の交付と中央とのパイプの確約。ニッサルにしてみればとんだ僥倖だろう。アンガスを仕留めたマグリットは大金星を上げた。

普段であればニッサルはその僥倖だけで満足したであろう。しかし、今、あのニッサル男爵には娘婿がいる。

マグリットの姉の夫。アルベルト・ニッサル。


ニッサルの隣のブラウン男爵領の次男。優秀と評され、フィルアッシュと親しかった男。


学園では下位貴族の成績は振るわない。特に次男や、まれにいる三男の成績は惨憺たるものだ。そのなかで、アルベルト・ニッサルは上位10位以内に入っていた。入学当初からだ。


優秀な男だ。地方の小さな領地を治めるには惜しいほど。

そんな男が野心を持ったら。降ってわいたような僥倖をみすみす見逃すだろうか。


欲に目がくらむと、冷静な判断はできない。優秀だといわれる者は策に溺れる。


「・・・人のことはいえんな」

ギルバートは、数年前の苦い失敗を思い出す。

側妃を排除したあの事件だ。

フィッツロイの鉱山で積み重なっていたあの遺体が、フィアサテジアラムの思想犯でなければ重い外交問題になっていた。


多分だが。

あれは王も宰相も知っていたのだろう。知っていて暴く機会を伺っていたのだ。そうでなければあの迅速な対応はできない。

ネックは積み重なったあの死体。

あれがフィアサテジアラムの「思想犯・政治犯」(棄てたいもの)である確固となる証拠を探していた。


それを探っていたのは、ハワード。だからハワードは側妃派の筆頭として立っていた。側妃を懐に入れて、見張っていた。

それを崩したのは自分たちの幼いはかりごと。

紙一重だった。

浅はかなはかりごとで国を危機に陥れようとした。それを思い返すたびに口の中に苦味が走る。

それからだ。もっと広い視野を、もっと多くの情報を求めるようになったのは。


情報が足りない。国境の女の件も、ニッサルも。


情報を得るためにやはりアンガスを中央に戻したい。


ギルバートは焦っているらしい自分を嗤う。焦っていても仕方がない。

とりあえずは友人の回復を祈ろう。


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