2・正念場
これはどうしたことだ、と王妃を伴い入場した王は会場全体を見渡し、ソフィアとアンガスに目を向けた。アンガスに視線を向けた王の眉がわずかに動く。
ソフィアは礼をしたまま動かない。
「ソフィア嬢、顔をあげなさい」
王の言葉に従って、顔をあげるが目線は下に伏せたまま。
「アンガス」
「ソフィア嬢との婚約を解消し、王太子位を返上、王位継承を叔父上に譲ります」
アンガスの宣言に滅多に表情を出さない王妃がひゅっと息を飲んだ。
いつの間にか背後に来ていた父がソフィアを労るようにその肩に大きな手を置いたのを感じて、ソフィアはその手に手を重ね、父を見上げる。父はアンガスを真っ直ぐにみていた。
王は礼をとったままのマグリットにさっと視線を走らせると会場に向かって声を投げた。
「この度は愚息が騒ぎを起こしてすまない。急を要するためこれで失礼するが、今宵を楽しんで行ってくれ」
王はそう言うと、入ってきたばかりの入り口に向かって踵を返した。
「ステート公もこちらへ」
王の近侍が父に囁く。
突然の指名に顔色を失っている王弟オースティン・アサス・ベルヒュード公爵も息子のギルバードを伴ってこちらへ向かってくる。真っ青な顔でガタガタ震えているのは、マグリットの父、ニッサル男爵だろう。ふーと糸が切れたように倒れたのはマグリットの母親だろうか。
大波乱の夜会はしばらくは人々の口に大きな事件として上るだろう。
ソフィアはそう考えながら父に伴われ会場を後にした。
チラリとアンガスに視線をやると腹心のベネディクト・オラニスがその背後に影のようについている。
アンガスと視線が交わる。
(正念場ね)
伝わったのか、アンガスはかすかに口元を引き締める。