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18.恐れること ソフィア

元パーシー伯爵領、モルベリープールの国境駐屯地に兵士として駐屯している「こどもたち」からソフィアの元に手紙が届いたのは今朝のことだった。


国境のこどもからもたらされた情報は、ソフィアの心をざわめかせた。


モルンダ河は隣国サイナンスとの国境だ。隣国はフィアサテジアラムに溺れている。その国から、フィアサテジアラムの容貌を持つ女性が流れついたという。それと同時に、第二中隊の「キルギス中隊長」が急遽王都へ呼び戻された。


キルギスはベネディクトの家が複数もつ爵位の一つのはずだ。たしか子爵位。国境にもぐりこむにはちょうどよい身分だ。キルギス中隊長がベネディクトであることは間違いないだろう。


ベネディクトが国境から急遽、王都へ引き返した理由。

思い至る理由は一つしかない。


花花だ。


隣国から流れついたのは花花なのだろう。


ソフィアはアンガスと初めて会ったことを思い出す。


王妃開催のお茶会。

お茶会が開催される庭園で初めてアンガスと出会った時の衝撃は忘れることはない。


7歳で思い出した私となる前の記憶(前世)。それに助けられながら、奴隷や孤児院、貧しい境遇のこどもたちを守るために行動を始め、まずは資金力だと領内産業の振興に父と叔父とともに奔走していたあの頃。


その噂が王妃まで届いたのだろう、一度会って見たいとの打診が王妃からもたらされ、父とともに登城した。バラが咲き誇る庭園で、ソフィアはアンガスと出会った。


アンガスと引き合わされた瞬間、「茅谷 快進(ちがや かいしん)だ」という直感に打ちぬかれた。アンガスも同じだったらしい。驚きで大きく目が開かれた。多分、ソフィアも同じ表情をしていた。


しかし、お互い驚きを飲み込み挨拶を交わす。何事もなくお茶会をこなし和やかに終えた、その三日後。王都のスチュアート邸にお忍びで訪れたアンガスは、ギルバートとベネディクトを伴っていた。一目見て、すぐに前の生で関わった記憶が蘇る。ギルバートの顔にダブるのは、あの最期の日、目の下に濃い隈を作った高山築(たかやま きずく)。ベネディクトの顔にダブるのは、清香(さやか)を庇ってくれた寺内琉揮(てらうち るき)の必死な形相。


耐え切れず、泣き出してしまったのはご愛敬だろう。この世界に一人だけ生まれ変わったと思っていたのに、前の生の幼馴染が同じ世代に生まれているのだから。


アンガスの婚約を受けたのは、4人で集まるためにその形が一番自然だったから。アンガスと婚約者のソフィア、そしてアンガスの腹心、ギルバートとベネディクト。出会ってから4人ではかりごとをした。


そこに花花がいないのが不自然だった。みんなそう感じていたと思う。少なくとも、ソフィアとアンガスは強くそう感じていた。快進の隣でいつも穏やかに笑っていた花花だけがこの世界にいないとは考えられなかった。


だから、アンガスのたくらみに乗ったのだ。いつか現れるであろう花花に快進を返すために。



今回の婚約破棄は王家にさほど打撃を与えたりはしなかった。醜聞には違いないが、アンガスが、王籍を手放し、市井に降りる覚悟で「真実の愛」を貫いたことが好意的に捉えられた。


もともと国民の間で人気の高かったアンガスの恋の顛末は今王都で人気の演劇となっているらしい。


国民の間でも人気の「真実の愛」。


アンガスが本能のおもむくまま花花の手を取ってしまったら王家の権威は失墜する。


ソフィアは花花が絡んだアンガスを信用してはいなかった。

花花が見つかったら、アンガスはすぐに彼女を囲い込むだろう。花花がエイクや友好国の国民なら問題はなかった。秘密裏に計画を進めることができるから。


しかし、花花が敵対国の人間なら話は別だ。隣国はフィアサテジアラムの手に落ちている。そこから流れついたフィアサテジアラムの容貌を持つ女性。フィアサテジアラムの息のかかかったものと考えるのが自然だ。あの国がアンガスを手中に収め、黙っているとは考えられない。


国民には秘されているが、王弟の醜聞は貴族や一部の平民の間では有名な話だった。その王弟と同じく、その甥が女に狂う。


王家の求心力は地に落ちる。そうなるとどうなる?ただでさえ、隣国の大不況のあおりをうけ、市況は良くはない。さらにフィアサテジアラムの安い労働力を欲する商人たちとの軋轢。数年前の側妃|ウーハイエンの事件から燻り続ける、貴族の中の不満。


クーデターだってあり得るのだ。


この時期に、内乱が起こることはフィアサテジアラムにつけ入る隙を与えることに他ならない。


フィアサテジアラムは、この国の穀物地帯を狙っている。そのためには手段は選ばない。どんな些細な足場でもあの国は確実に上ってくる。


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