男子トイレの花子ちゃん
「何やってんの」
南校舎、二年の教室ぞいにある、二階の男子トイレ。
一番奥の個室に、おかっぱ頭、赤いオーバースカート。まん丸ほっぺに、くるりとしたつぶらな瞳。
そこにはいたーー花子さん、いや花子ちゃんが。
「いやぁぁあ!覗くだなんて!酷い!」
いきなり花子ちゃん(?)がトイレットペーパーを投げ付けてきた。芯のないエコペーパーだったからか、あんまり痛くない。
「覗くも何も、ここ男子トイレだぞ?」
逆に不法侵入しているのはそちらでは無いだろうか。しかも、鍵のかかっていない個室なんて、開けられても文句は言えない。ハズ。
しっかしなぁ担任にトイレ掃除押し付けられて、放課後に掃除してたら個室(男子トイレ)にコスプレ女の子がいるだなんてなぁ。
「私はコスプレ女の子じゃない!立派なよ・う・か・い・だ!」
「心読んだ?」
いーっと歯を見せて、叫んでる。結構可愛いじゃん、学校のマスコットにどうよ?校長先生。
しっかし心読めちゃうのかぁ。本気で妖怪かな?これは。
「本気も何も、私は妖怪だ!……ってなんで驚かない!?」
「妖怪にそんなに驚かれたら、こっちが驚きづらい」
ふむふむ……と何やらメモってる様子。上から覗くと、そこには拙い字で「私は驚かない」と書いてある。真面目じゃん。
「真面目に取り組むことが師匠は大事だと言っていたからな」
ほーー師匠がいるのか。花子ちゃんの師匠って誰なん?
「ちゃんってつけるな!ちゃんって!師匠は雪女さんだ」
へぇ花子ちゃんの師匠って雪女なんだ。どんな事教えて貰うの?
「師匠にはさんをつけろ!私にはちゃんをつけるな!んんーー驚かしの極意とか、畏怖される為にはどうするのか……とか?」
へぇ……中々面白そうだな、妖怪って。
「ふふ、そうだろ……って喋れ!私が心を読めるからって発言を面倒臭がるな!」
「あっバレた?」
ほわほわした見た目なのに、結構鋭いな……こやつ。
「私の事、鈍感だと思い過ぎじゃないか?」
「いや、そんな事は無いさ。まぁ可愛いから、ちょっと、ね?」
あれ、花子ちゃんの目尻に、じわじわと涙が溜まってるよ?
プルプル震えてるよ?あれ?怒らせた?
「わっ私は可愛くなんか無いもーーん!!」
また、にーっと歯を見せて叫ぶ花子ちゃん。やっぱ可愛いじゃん。
「なんで、可愛いと嫌なの?」
可愛い分には良いじゃないか。クラスの女子なんて、どうやったら盛れるかとか、どうやったら流行について行けるかって必死だぜ?
「妖怪は恐れ敬われる事で、認められるんだ!このままだと妖怪のみんなから見放される!」
あれあれ、ついには泣き出しちゃったよ。師匠にもぉ……って泣き出しちゃったよ?
俺小さい子慰めるの、苦手なんだよなぁ。
「小さい子じゃないもーーん。百五十年は生きてるもーーん」
泣きながらエグい事言ったね。夢を壊さないでくれよ。
とにかく頭や肩を撫でていたら、落ち着いてきたっぽい。良かった。
「妖怪って怖くなきゃ、死ぬとかあるの?」
なんか昔そんな漫画を読んだ気がしたので、聞いてみる。
「いや、関係無いけど……怖い方が凄いってだけ……」
あれ、意外と曖昧なのね。
なら怖く無くて良いんじゃない?ある漫画では妖怪がアイドルやっちゃってるよ?
「……でも怖く無くなったら、誰も匿ってくれなくなる」
急に現実的な問題。……うーん、そうだ。
「なぁ俺んちに来ない?」
「……え?」
一人暮らししてて、ちょっと寂しかったんだよな。
バイト結構詰めてるからお金もあるし。
「ボロアパートで良ければ一緒に住まない?怖くなる方法も一緒に考えようぜ」
「……うん」
その日、小さな同居人ができた。