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祝祭の塔 ~サイキストの邂逅~  作者: 不覚たん
払暁編

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神の座へ

 休憩を終え、さらに進んだ。

 鐘捲雛子が果敢に斬り込み、青村放哉がヘッドショットで仕留めてゆく。この両名は前から強かった。俺は戦ってるフリだ。いや、ちゃんとトリガーは引いているのだが、ちょくちょく外れる。


 この辺りはまだベニヤ板で区切られているから、いちどに囲まれるということはない。通路の先にいるのを殺ればいい。

 しかしこの先、障害物がなくなってくれば、変異種ミュータントがわーっと寄ってくる可能性がある。そのときどうするかを考えねば。たぶん二人はなにも考えてないだろうから。


 現在、十五階。

 マーズが殺されたエリアだ。前回計測したときはレベル2だった。しかしいまはレベル1もないくらいだろう。キャンセラーの干渉があるから正確なところは分からないが、体感ではそんなところだ。


 ふと、ベニヤ板の向こうからゴソゴソと音がした。ヒソヒソ声も。

 誰かいるのだろうか。

 などと俺が警戒していると、青村放哉が構わず踏み込んで、ドアをガンと蹴り飛ばした。銃ではなく靴で開けたのは評価してもいいが、俺だったらもっと別の方法で開けると思う。


 うずくまっていたのは例の動画配信者のカップルだ。変異していない。どうやって切り抜けたのかは不明だが、とにかく無事のようだ。

 あわあわして言葉を発せないでいるのが気の毒だが。

「大丈夫?」

 俺は自分でもどうかと思う質問を投げた。

 変異していないんだから大丈夫なのは見れば分かる。怪我もしていない。まあ定型文のようなものだ。

 二人はこくこくとうなずいた。

 白坂太一が顔を覗かせた。

「びっくりさせてごめんね。キャンセラー、役に立ったでしょ?」

 また二人はうなずく。

「白坂さんが渡したの?」

「そう。オフになった日、通路で休んでたらたまたま見かけたから」

「顔見知りだっけ?」

「監視カメラで観てたんですよ。二宮さん、この人たちのカメラ壊したでしょ?」

「いや、あれは肖像権が……」

「ちょうど新作ができたんで、お守り代わりに渡しておいたんです」

 見ると、二人は小型のキャンセラーらしきものを所持していた。最初に作られた小包サイズよりひとまわり小さい。

 白坂太一は、自作キャンセラーがデカいと酷評された件をずっと気にしていたようだ。

 すると緊張がほぐれたのか、男がこう口走った。

「でもこれ、ずっと動かしてるとやべーくらいアツくなるんで。持ってらんなくて」

「……」

 そこは素直に感謝しろよな。空気が変になっただろ。

 白坂太一はメガネを反射させながら、すっと身を引いてしまった。


 いや、しかし俺は評価している。とんでもない技術なのだ。

 彼がいなかったら、俺たちは前回のツアーでうまいことやれなかったはずだ。

 全滅まではしなかったかもしれないが、おそらく後手後手に回ってしまい、いまでも政府の監視下に置かれていたことだろう。もちろんシスターズなんかはすべて殺処分だ。なにせ「失敗作」なのだから。


 俺はこう告げた。

「十階にサターンっていうジュエリーショップがある。そこにもうひとりいるから、合流して待っててくれ。あとでまとめて回収する」

「いやいや。あの白いのいるじゃないですか? 俺らムリですよ」

「白いのは全部殺しながら来た。下からも仲間が来てるから、コソコソ隠れながら移動してくれ」

「え? ここにいちゃダメなんですか?」

「こんな目印もないとこ、分からないよ。たぶん二度と見つけられないよ」

「じゃあ移動します……」

 ぜひそうしてくれ。

 こんなゴチャゴチャした場所、ネズミでもなきゃ把握できっこない。申し訳ないが、こちらはネズミよりだいぶ進化している。


 *


 二十階へ到達したところで、援軍が追いついた。

「待たせたでござるな! 助太刀に参上したでござる! ニンニン!」

 覆面をしたジョン・グッドマンが、取っ手のついた水道管のようなものを抱えてやってきた。いや、マジでなんなんだ? 丸太の代わりか?

 青村放哉も苦い表情だ。

「なに持ってんだ?」

「これ? 破城槌バタリング・ラムでござるよ。こいつでドーンと壁に穴を開けるんでござる」

「ぶん回すのか?」

「まあそんな感じでござる。突入といったらこれ。機械の姉妹が手配してくれたのでござるよ。ニンニン」

 忍者はそんな喋り方しない!

 まあいい。とにかくベニヤ板の壁をぶち破りながら進めるということだ。所詮はベニヤ板なんだから、強く蹴れば壊れるとは思うんだが。人が通れるほどの空間を確保し、かつ残骸を撤去する手間を考えると、迂回するほうが早かった。それがもっと楽になるなら、歓迎してもいい。

 他に来たのは、相方の中二と、そして円陣薫子、坂上アイシャといった前回のメンバーだった。

 計八名。

 戦力は申し分ない。


 *


 しかし三十階の発電所を超え、三十一階に入った途端、いきなりしんどくなってきた。

 数が多過ぎる。あまりの大混雑に、マネキンの保管庫にでも迷い込んだ気分になった。

 もとからこの辺りは変異種だらけだったが、ここまで多かっただろうか。

 のみならず、クイーンまでいる。最上階にいるのとは別のクイーンだ。

 女王蟻のように、各コロニーごとにデカいのが存在する。でっぷりとした腹の、天井スレスレまである巨躯の変異種だ。歩けないから腹を引きずってのたのた移動する。

 こいつ自身は驚異ではないのだが、クイーンがいるとなると、個体の数も多かった。クイーンは体内で育てて増やす。子供は魚類から人類へ進化しながら成長するから、進化途中で四つん這いのやつもいる。これはダッシュしてくるから危ない。


 俺は撃てるだけ撃った。

 どこへ撃っても当たる。

 障害物がほとんどないから、視界に入った端から殺さないと殺される。

 ジョン・グッドマンがバタリングラムをぶん回して変異種どもを薙ぎ払うと、鐘捲雛子がそれらを斬り伏せて絶命させていった。

 青村放哉と坂上アイシャも敵を正確に撃ち抜いている。互いに競い合っているようでさえある。

 俺はムリしない。できる範囲でやる。ハードボイルドを試すと怪我することは経験で分かっている。


 幸い、変異種たちのほとんどは走らないし、武器も持っていない。だから先に仕掛ければ勝てる。その上、キャンセラーを強めに起動しておくと、判断が鈍くなるらしい。仲間内で連携が取れなくなるのだろう。互いに食い合っているのまでいた。


 白坂太一から換えのマガジンを受け取りつつ、青村放哉がぼやいた。

「こりゃ全員相手にしてたらキリねーぜ。一点突破したほうがよくねーか?」

 隣で撃っている坂上アイシャも「賛成」と笑った。

 まあ、弾も無限にあるわけじゃない。

 これを四十五階まで続けたら体力だってもたない。

 俺はうなずいた。

「分かった。隙を見て上を目指そう。グッドマンさん、階段までの進路、確保できます?」

「お任せあれ!」

 偉そうに言ってるだけじゃない。今回はちゃんと俺がリーダーだ。出発前に決めたのだ。なにせ、この中でもっとも出資してるのがこの俺だ。機械の姉妹のおかげで、六百万で済んだけど。あとは鐘捲雛子が三百万、残りの百万未満をセンターが負担となった。


 ガタイのいいジョン・グッドマンがバタリング・ラムを振り回すと、変異種の壁はすぐに左右へひらけた。鐘捲雛子が刃を振るい、さらに道を広げる。

 俺が先行し、続いて白坂太一、そして戦闘の得意でない南正太や円陣薫子を先に行かせた。強い連中は殿しんがりだ。


 *


 かくして三十二階へ。

 強行突破でやり過ごしたのはいいが、階下からわらわらと変異種が追ってきた。

 幸い、三十二階には変異種も少ないし、行けるところまで猛ダッシュで駆け抜けるという手もあるが……。どこかで立ち止まったときに、背後を突かれたら危ない。


 青村放哉がニヤリと笑った。

「なるほど。じゃあテメーは、ここを俺に任せてーワケだな?」

 まだなにも言っていないのだが。

 俺は返事をしようとすると、彼は肩をバンバン叩いてきた。

「なにも言うな。分かってる。この俺サマが抜けたらションベンちびりそうだってんだろ?」

「もうちびってるけど」

「えっ?」

「いや、冗談。けど、任せていい?」

 頼りたい気分だった。

 彼は捨て石になろうっていうんじゃないし、俺だってそのつもりはなかった。彼なら可能だ。

「おう、いくらでも任せろ。オメーを待ってるヤツがいるんだ。早く行ってやったほうがいいだろう。ただし、そっちの女と白田だけは置いてけ。俺ひとりじゃさすがに危ねーからな」

 階下から迫る変異種を撃ち抜きながら、青村放哉はそう応じた。

 そっちの女というのは坂上アイシャのことだ。彼女は妖しい笑みを浮かべると、静かに「いいよ」とうなずいた。

 これに円陣薫子も乗った。

「じゃあ私も残る」

「は?」

「あんたみたいなチンカスと、アイシャを一緒にしておけない」

「青村だ。そろそろ名前覚えてくれてもいいだろ」

 みんな苦笑した。

 そのセリフは、俺と白坂太一の名前を覚えてから言って欲しいな。


 *


 四名を置き、残りの四名で前進した。

 どうやら変異種は三十一階に集結していたらしく、あとはわりとスカスカだった。住民たちの家もほとんどないから、ひたすら階段をあがることができた。仮に家があったとして、ジョン・グッドマンのバタリング・ラムでなんとかなる。


 しかし不安なのは、まったく上階からの圧がないということだ。彼女は体の大部分を切り捨てて、すでにこのビルを脱出しているのかもしれない。

 あるいは機能が停止しただけか。

 考えて分かるわけもないのだが、どうしても思考がループしてしまう。

 とにかく、なんとしても今日中にカタをつけるのだ。もう二度と餅に苦痛を与えたくない。


 などと考えていると、突如、背後から突起物を突きつけられた。

 中二の南正太だ。

「余所見すんなよな。危ないだろ」

「たしかに」

 手に持ってるのはカツオ節だ。いや、ミュータント節だったか。

 彼は自慢げに見せつけてきた。

「これ分かる? さっき拾ったんだ」

「食うの?」

「は? 落ちてるモン食うわけないだろ。いざというとき武器になるかと思ってさ」

 なるかよ。

 いや、なるかも。

 ずいぶん硬いらしいからな。

 敵がいないのをいいことに、彼は揚々と言葉を続けた。

「けど青村さんもカッコつけだよな。あんなことしてさ」

「おかげで助かってるんだ。悪く言うのはよそう」

「いや、べつに悪く言うとかじゃなくて。前のアレで、けっこーヘコんでたじゃん? だからもう、こういうのやらないのかと思って」

「それは俺も思ったけど……」


 救えたのはシスターズだけで、大統領のことはあと一歩のところで救い出せなかった。

 しかし彼女の姉妹は、じつはシスターズだけではない。さっき散々死体にしてきた変異種たちも姉妹だ。クイーンを中心としたコロニーを形成する特別なオメガ種。大統領と同じ遺伝子を有している。

 人類の進化系になるはずだった。実際、サイキック・ウェーブという機能を先天的に有している。これは遺伝子のバグではないから排除もされない。


 青村放哉は、大統領に保護された最初のツアー客だ。

 表には出さないが、特別な思いがあったのだろう。恩を返す意味でも、どうしても救いたかったはずだ。

 なのに死なせてしまったのだから、自己嫌悪に陥るのも分からなくはない。


 先頭を行く鐘捲雛子が、振り向きもせず告げた。

「集中して。そろそろつくから」

 いよいよ感動の再会ってやつだ。

 その前に、もろもろの始末をつける必要がある。言葉でやるのか、銃でやるのかはまだ分からないが。


(続く)

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