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祝祭の塔 ~サイキストの邂逅~  作者: 不覚たん
濃霧編

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13/27

フレンズ

 十一階での調査が始まった。

 チームを二つに分けての分担作業。

 それはいいのだが、俺はもとのチームを追い出され、円陣薫子たちのサポートに回されていた。

 なぜリーダーを買って出るのか、なんてことを脳内でフカした直後なのに。周囲からはリーダーではなく、ただの口うるさいでしゃばり野郎としか思われていなかったようだ。現実は非情である。

 まあ人数としては三人ずつで均等になるのだが……。


「ポイントG、レベル2です」

 円陣薫子が計測器を手にそう報告した。

 計測器は波を感知しているわけだから、サイキウムを内包しているのは間違いなかろう。しかしこれを取り出して使うのは現実的ではない。かなりの精密機器だから、バラしたらもとに戻せない。

 彼女は、すると「ん?」と首をかしげた。

「なんか急にあがった。レベル3……4……んっ」

 不鮮明な映像ヴィジョンが脳に浸透してくる。

 すると、なにかを喚きながら、ダンボールハウスから人が飛び出してきた。感染者ヴィクティムだ。俺はとっさに銃を構えたが、トリガーを引く直前、そいつの頭部が横から撃ち抜かれたのが見えた。

 坂上アイシャだ。

 彼女は片手で頭を抑えながらも、もう片方の手でグロック19を発砲したらしい。正確な射撃だ。いい腕をしている。

「ふぅ。あれが映像ヴィジョンってやつか。びっくりしちゃった。薫子、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」

 さほど高レベルの感染者でなかったこともあり、映像ヴィジョンの影響力もたいしたことはなかった。


 計測値に影響が出てしまうから、計測中はキャンセラーを使えない。その隙を突かれるといまみたいなことが起こる。

 サイキック・ウェーブを扱えないメンバーは、上階では稼働させられないかもしれない。

 つまり、稼働できるのは俺と餅だけだ。また日程が延びる。


 坂上アイシャが、俺の銃をしげしげと見つめた。

「へえ、面白い銃だね。好きなの?」

「いや、とくにこだわりは。ただ使い慣れてるのを使ってるだけで」

「分かる。銃って、やっぱり見なくても操作できるくらいじゃないとね」

 見ないで操作してるのか。どうりで速いはずだ。

 もちろん俺はそんな玄人じみたマネはできない。

 計測中は、特に周囲の様子を特に気にしたほうがよさそうだ。反応速度が遅い俺は特に。しかしキャンセラーをオフにした直後は、寝起きのように感覚が鈍くなる。機械のほうが正確だ。


 ポイントGでの計測を終え、F、Eと作業をこなしていった。

 もし餅たちのチームと同じスピードで作業が進んだ場合、ポイントDで合流することになるだろう。

 などと予想を立てていたが、彼女たちは姿を見せなかった。道に迷っているのかもしれない。

 俺たちは構わずポイントDでの計測を始めた。


「ポイントD、レベル2です」

 計測器を手にした円陣薫子が告げた。

 どこも代わり映えのしない数値。

 こうして作業を続けていると、物珍しそうに顔を出す住民たちもいる。しかし自分に無関係であることが分かると、だいたいはすぐに顔を引っ込める。


 ポイントCへ到着。

 餅たちはいない。

 迷路のように入り組んでいるから、行き違いになっていても不思議ではないのだが。彼女たちがとっくにポイントCでの計測を終えて、Dへ向かっている可能性だってある。

 こんなことなら、通信用のヘッドセットを用意してもらうんだった。


「次のフロアで作業するときは、ペンかなにかで地面にマーキングしたほうがいいかも。ここ終わりましたよっていう印として」

 円陣薫子がそんなことをつぶやいた。

 同感だ。

 実際に作業をしてみないと、こういうのは分からないものだ。人数が倍になったから作業効率も倍になる、なんて都合のいいことは起こらないようだ。


 結局、みんなと合流できたのはポイントAだった。

 つまり、彼女たちは作業開始地点から移動していなかったのだ。

 白坂太一が自作キャンセラーを床へ置き、ケースを開いてなにやら作業をしていた。

「どうしたの? 壊れた?」

 俺の問いに、彼は苦い表情でうなずいた。

「はい。サイキウムが負荷に耐えられなかったみたいで……。急に弾けて、跡形もなく消えちゃいました」

 かつてビー玉が納まっていたと思われる箇所は、完全に空白となっていた。

 白坂太一はがっくりとうなだれた。

「短時間の稼働は問題なかったんですが、長時間になると厳しいみたいです」

「昨日手に入れたヤツならいけそう?」

「アレならたぶん大丈夫です。ただ、全体のサイズを調節しないといけないんで、少し時間がかかるかな」

「オーケー。十二階の調査は俺たちでやるから、そっちはジャンク屋で修理してきてよ。終わったら宿で待ってて。俺らもあとで合流するから」

「分かりました」

 なかなか思ったようにはいかないものだな。

 機械というのは、実際に動かしてみないと分からない。瞬間的な負荷に耐えられたとして、長時間稼働するかは別の話だし、逆もまたしかり、だ。

 IT企業でバグを出しまくっていた俺にはよく分かる。ホント、想定外のところでシステムが止まる。あるいは正常稼働しているように見えて、データの不整合が起きていたりする。データがおかしくなったまま動くくらいなら、止まってくれたほうがいいこともある。


 *


 十二階の調査が始まった。

 ここらもレベル2だ。


「うおあああっ!」

 移動中、奇声を発しながら住民が襲いかかってきた。

 キャンセラーはオンの状態だ。

 まずは坂上アイシャがターゲットを射殺し、別のダンボールハウスから出てきたのを俺が仕留めた。

 上階へ行くにつれ、あきらかに感染者ヴィクティムが増えている。

 まともな住民もいるのだが、よくこんなところに住めるものだと感心する。なにか免疫でも有しているのだろうか。

 ほっとしたところで、さらに坂上アイシャが発砲し、感染者を絶命させた。じつに惚れ惚れするような体捌きだ。動きが全体的にしなやかで、猫のようにスムーズに動く。

 感心して見ていると、彼女と目が合った。サングラスをしているが、こちらを見るとすぐ笑顔を見せてくれるので分かる。

「どう? 新人にしては悪くないでしょ?」

「悪くないどころじゃない。たぶん、うちのメンバーじゃ誰も君にかなわないよ」

「私、狙った獲物は絶対に逃さないからね。バキューン」

 指で銃の形を作り、撃つ真似をした。

 なかなか茶目っ気のある女性だ。

 円陣薫子が不満そうにつぶやいた。

「ほら、ふざけてないで仕事」

 これに坂上アイシャは「なに? 妬いてるの?」と笑いかける。

 いつもこんな調子なんだろうか。仲のいいことだ。


 *


 十二階での調査を終え、俺たちは五階へ向かった。

 時刻は十六時を回ろうかというところ。作業を分担するどころか、いつもよりペースが落ちている。まあエントランスでカルトに絡まれたしな……。


 白坂太一らはすでに待機していた。

「直った?」

「ええ。なんとか。ただ、援軍を要請するためには、もうひとつサイキウムが必要になりますね……」

「あとで考えよう。いまは交換できそうなモノがない」

 銃をくれてやるわけにはいかないし、餅の服も交換してしまった。あとは携行食のチョコレートバーを出すか……。どこかに価値のあるものでも転がっていればいいのだが。

 すると白坂太一が、アンテナのついた黒いモノを渡してきた。

「これ、トランシーバーです。ジャンク屋の人が貸してくれたんで、次からこれ使いましょう」

「お、いいね」

「ただ、電池式なんですが、電池が切れたら次からは物々交換だそうです」

 商売がうまいな。

 まあ一回分サービスしてくれただけ感謝すべきか。


 それにしても、手持ちの物資がショボすぎて、まったく思った通りに活動できない。

 物々交換の社会は厳しい。

 いったいどこで物資を調達したらいいのだろう。故マーキュリーの遺品をあさったところでゴミしか出てこないだろうし。

 援軍に持ってきてもらおうにも、その援軍を呼ぶためのキャンセラーがない状況だ。いっそ物資だけ持ってきてもらって、そのまま帰ってもらおうか。政府がヘリを出してくれればいいのだが。


「あのさ、誰か薬物詳しい人いる?」

 俺の問いに、皆がきょとんとした表情になった。

「いや、違うんだ。俺が使うんじゃなくて、あのジュエリーショップの子が欲しがってたからさ。なんかハイになりそうなヤツでもと思って……」

 さらに不審そうな目で見られてしまった。

 しかしほかに手があるのか? サイキウムを手に入れようと思ったら、あとは――あとは自前で調達するしかない。

 上階へ行ってクイーンから摘出するのだ。


 いまのところ、ほとんど変異体ミュータントに遭遇していない。クイーンを見つけるためには、だいぶ上階まで行かねばならないだろう。

 みんなに調査を任せておいて、俺と餅とで変異体を狩るか。


 俺は溜め息とともに天井を見上げ、ふと、疑問に行き当たった。

 ここは変異体から逃れた人たちが集まって作ったコミュニティだ。なのに、上へ行くほど危険になっている。普通、敵は下から来るのではないか? なぜ上にいるのだろう……。


 ふと、坂上アイシャが肩をすくめた。

「薬物を渡すと、なにがもらえるの?」

「サイキウムだよ。キャンセラーの重要パーツなんだ。ここらじゃ物々交換だからさ。交換できそうなモノが欲しくて」

 すると彼女はサングラスを外した。長いまつげの奥に、鮮やかなグリーンの瞳が見える。

「じゃあこれ使って。ブランド物だから、そこそこの価値になると思う」

「いいの?」

「もちろん」

 ずいぶん気前のいいことだ。

 新人メンバーの私物を使って作戦を進めるというのも情けない話だが、いまはメンツにこだわっている場合ではない。

 すると円陣薫子が冷たい目になった。

「アイシャ、見返りを要求するのはナシだよ」

「分かってる。代わりのサングラスはあとで薫子に買ってもらうから」

「あんたねぇ……」

 こういうやり取りができるということは、だいぶ付き合いも長いのであろう。


 ともあれ、交渉だ。

 トランシーバーは二つしかないから、チームを三つに分けることはできない。まあ分けてもいいが、指示が面倒になる。

「俺たち円陣チームで十三階の調査を進めるから、白坂チームは石ころを手に入れて、もうひとつキャンセラー作っといてくれるかな」

「分かりました」

 今回は故障してしまったが、次からは正常稼働してくれることだろう。援軍も増やせる。もしメンバーに白坂太一がいなければ、おそらく調査を終える前にリタイアしていたことだろう。もっとも、そうなったらなったで別チームが作業を引き継ぐんだろうけれど。

 白坂太一は、しかしこう続けた。

「あ、でもそのトランシーバー、フロアをまたぐとほとんど通話できないみたいです」

「そうなの?」

「またここで待ち合わせしましょう」

「分かった」

 コンクリートは貫通できないタイプか。

 サイキック・ウェーブを使った通信なら可能かもしれないが……。

 以前、この能力を通信技術に応用しようとしていた官僚がいたのだが、すでに死亡してしまっている。


 ともあれ、俺たちは引き返して十三階の調査だ。少しでも作業を進めなければ。


(続く)

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