最終話 月になれなかった君を想う
目が覚めると月光が差す見慣れた教室だった。僕は、椎名が目の前にいる事に気が付いた。椎名は、僕に気が付き、話し始めた。
「ねぇ。一条君。」
「何?」
椎名は、少し困った顔で、続けた。
「もう。一条君には、会えないんだ。」
「え?目の前にいるじゃん。」
「それはね。一条君が作った私なんだ。それに、周りを見渡してみて。」
今さっきの教室から、周りは真っ白の何もない無の世界にいた。
「一条君。私は、一条君の一部だと思っているよ。そして一条君も私が一部になっているんだよ。」
「え。何、言っているのか分からない。」
「そうだよね。私の言っていることには、意味が無いのかもしれないね。でもね一条君。もう一回、周りを見渡してみて。」
僕は椎名の言った通りに、辺りを見渡す。周りには、クラスメイトがいた。
「一条君。君は、私から卒業して。」
「何を言っているの?」
「もう。時間だね。じゃあね。バイバイ。」
「消えないで。」
椎名は、すうっと消えていった。跡形も残さずに。
僕の叫んだ声は届いたのかは分からなかった。
***
瞼が重い。目を開けると目がまだ明るい光に慣れていないせいか、目が痛い。まだピントがあっていないが人影何人も見える。僕は、もう一度、瞼を閉じ、開ける。
「起きた。おい、皆、一条が起きたぞ。」
そう言うクラスメイトがいる。僕はまだ、頭の処理が追い付いていなかった。
「良かった。」
「お前まで死なれると困るぜ。」
と言いながら泣いているクラスメイトがいる。
いや、全員が泣いている。
僕は、身体を起こし、部屋全体を見る。この部屋にはクラスメイトが全員いる。
「おい、速く、連絡しろって。」
「分かった。」
皆涙ぐんでいる。
「ここはどこ?」
僕は、まだ状況が分からない。
「あのね。一条君。君はね。椎名さんの所へ向かおうとしている道中で、雪が降っている中、寝て、意識不明になって、ここに運ばれたの。」
そうなのか。
「というか、ダサすぎるだろ。」
泣いているけど、笑っている。
皆笑いだした。
「失礼します。」
そう言いながら、見慣れた山崎先生が入って来た。
「大丈夫かな。一条君。」
「あの先生。椎名はどうなりましたか?」
山崎先生は、顔を曇らせた。
「ごめん。皆、一回、一条君と二人きりにしてくれないかな。」
「わかりました。」
クラスメイト全員、部屋を出ていった。
「じゃあ。一条君。はい。結衣ちゃんから手紙。」
「え。」
「昨日、病院宛に届いたんだよね。読みな。」
「でも。」
「いいから。」
山崎先生は、真剣な眼差しで僕を見つめた。
「分かりました。」
僕は、手紙の封を破り、読み始める。
一条君へ
お元気ですか?私は、元気に寝ています。笑笑。
一条君この手紙を読んで、泣かないでください。決して自分のせいに、しないでください。単なる私のわがまま程度で聞いてください。
私は、二つ、一条君に嘘をつきました。
一つ目は、夏休みの時の手紙で、もう会わないで下さいと書いていますが、そんなの嘘です。一条君が私に背を向けて、帰っている時に、私は泣き始めました。そして、一条君が消えた時は、大泣きしていました。もう、会えないんだ。もう、一条君の声が聞こえないんだ。やっぱり辞めておけばよかった。そして私は、携帯から一条君を消しました。次の日、私はやっぱり泣いていました。一条君が隣にいて欲しい。ずっとそう願い続けた。でも、そうしなければいけなかったの。私が福岡に来た時には、余命宣告をされていました。私は、一条君といたかったけれど、それは、一条君を悲しませることだと割り切って、もう会わないことにしました。気づかれたら終わりの様な気がしたんだ。
そして、もう一つ、おトモダチ。
この言葉は、何にも意味なんて無いよ。ただ、私が一条君と接点を持ちたかったからだけなんだ。ただそれだけ。結果的、一条君と付き合えてよかった。前に言ったよね。私たちは真反対なんだって。だからこそ、惹かれあったんだと思うんだ。最初は興味本位だった。でも徐々に一条君を知って、この人と一緒になりたいって思った。そして付き合った。
そしてキスもした。一条君本当に、私に最後の生きる価値を与えてくれてありがとう。もう、会えないと思うと私は悲しい。いまこの手紙を書いている私は、泣いています。大泣きです。字が汚いです。ごめんなさい。
最後にお願いがあります。
私を忘れてとは言わない。ただ私を一条君の人生の一部だと捉えてください。そんなに大きい存在ではないことにしてください。私は、一条君が大きかった。でも私にはもったいない様な気がします。だから、新しい相手を見つけてください。その人を大切にしてください。その人のために生きてください。その人と幸せになってください。死ぬまでずっと。これが私の願いです。
これ以上書くと、私が持たないのでここで終わります。
椎名結衣より
僕は、笑っていた。そして泣いていた。
「僕は、君を忘れることなんて出来ないよ。」
椎名は、僕の初恋の人で僕の世界に図々しく入って来たと思ったら、去っていった。椎名に僕は振り回された。でも椎名のことが好きで好きでたまらなかった。付き合えた日のことはしっかり記憶に焼きついいる。椎名とのキスは、感触すらも覚えている。
椎名は、僕だ。と言っても過言では無かった。それぐらい椎名の存在は大きかった。
「山崎先生。僕は椎名のことを忘れる事が出来ないと思います。」
「そうかもね。僕も無理だと思う。でも。君には、欠けていたものを結衣ちゃんが埋めてくれていた。結衣ちゃんは亡くなったけど、君には、友達がいる。それは、結衣ちゃんがその手紙と一緒に残したものだと思うよ。ううん。やっぱりそれは違うね。友達は一条君が作ったものだ。ただ、それをアシストしたのが結衣ちゃんということだけなんだ。」
僕は、手紙の裏に何かが大きく書かれていることに気が付いた。
ごめん。やっぱり大好き。
僕は、こらえていたものがこらえられなくなった。止まらなかった。山崎先生も止めなかった。
僕は、椎名が好きで大好きで、椎名も僕のことが大好きだった。
そして僕は、椎名が言っていたことを思い出す。
***
その日の夜は満月だった。僕は、山崎先生にお願いして、前に椎名が使っていた病室に行った。
一人部屋には、満月が差し込んでいた。
そして、僕は、月を見て、ある言葉を言う。
「月が綺麗だよ。椎名。」
僕は、月になれなかった君を想う。
終




