第9話 君に会いたい
「昨日、椎名さんが亡くなりました。」
二学期の終業式の朝のホームルームで先生からそう伝えられた。先生が来るギリギリまでうるさかった教室が一気に静まりかえった。
「え。どういうこと先生?」
どこからか分からないがクラスメイトの女子が担任に訊いた。
「残念ですが、椎名さんは昨日、息を引き取りました。」
そう担任が弱弱しく言った。それを聞いた女子は泣きだし始め、それが引き金となって女子も男子も泣き始めた。だが僕は泣くことが出来なかった。
僕はまだ今の状況を掴めきれなかった。だがこれは僕以外の全員にも言えることだった。じゃあ何故僕は泣くことが出来ない。皆と同じならば、僕は泣くはずであって、泣かないのがおかしい。いやそれよりも僕は泣かなければならなかった。椎名のクラスメイトであった。一緒の図書委員だった。僕と言う存在を壊して、新しい僕をくれた。そして何よりも椎名は「元」ではあるとはいえ、彼女だった。僕の初めての彼女だった。何で泣けない。椎名は僕の一部と言っても過言ではいのに泣けない。
その時、ハッと気が付いた。
じゃあ、今ここにいる僕ってなんだ。
もし本当に椎名が僕の一部だったら、いやそれ以上だったら僕はいったいどんな存在なんだ。どんな人間なんだ。
僕は泣けないんじゃない、決して泣くことが出来ない訳ではない。ただそれよりも椎名の死は僕の中では僕を失ったのだ。だから泣けなかった。それよりも絶望が勝ってしまった。
僕が椎名に対して答えを求めすぎたあまりに、僕の半分くらいは椎名と言う存在で成り立っていた。だが椎名が死んだしまったことにより僕は、僕自身は、半分欠けてしまった。僕は椎名という存在に依存していた。だから僕は泣くことが出来なかった。
ただ妙に椎名の死をすんなり受け入れた自分がいた。
僕は、結局何者なのだろうか。
ふと、僕の頭にその言葉がよぎった。
そして、その言葉の後に、椎名の声が聞こえた。
「私さ、おトモダチの意味が分からないけど、何処かに落ちている気がするんだ。」
僕は、この答えを探さなければいけないとハッと気が付いた。
椎名は僕に答えを求めていた。椎名が答えが分からないものを僕に求めていた。そして、僕もその答えを椎名に求めていた。
僕は、バカで愚か者だった。
椎名が求めているものは、僕が求めているものだった。
「僕は、椎名に会わなければいけない。」
僕は、そう呟いた。
***
僕は、その日に荷物を準備し、貯めていたお金を引っ張り出し、家族には迷惑がかからないように、書き置きをして家を飛び出した。
携帯を見ると、もう福岡行きの新幹線には間に合わないことに気が付いた。
僕は、夜行バスの時間を調べ、電車に飛び乗った。
「明日には間に合いたい。」
僕の心がそう叫んでいた。
椎名に会わなければいけない。椎名に。
駅に着き、バスの切符を買い、バスを待つために、ベンチに座っていると雪が降って来た。空を見上げると、雲に覆われていて、月を見る事が出来なかった。
僕は、急激な眠気に襲われた。時間を確認して、まだ時間がある事を確認してから寝ることにした。
そして僕は深い眠りに着いた。




