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月になれなかった君を  作者: 鷹夜賢人
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第8話 おトモダチ

 椎名と音信不通のまま二学期に入ってしまった。

 僕は、今時は持っている方が珍しいガラケーの着信履歴を毎朝確認することが日課になりつつあった。元々親の電話番号しか入っておらず、当然親とは毎朝顔を会わせるので連絡は何かない限りはしない。僕のケータイに親のアドレス以外に登録したのは椎名が初めてだった。交換をした時はただ素直に嬉しかった。福岡に行った時に交換したから、交換して日が経って無いのにもう連絡が取れなくなっていた。僕は何回か不慣れなメールを椎名に対して送ったが返事は返ってこないまま、新学期を迎えた。

 夏休み中にもう一度行って椎名に手紙の本意を訊こうとしたが、あっちが会いたくないと言っているのに、ここでまた行くのは憚れた。それにもう一度福岡に行く余裕はなかった。行けるとしても帰りは歩いて帰ることになってしまう。僕はそこまで運動が得意と言う訳では無いし、歩くのが大好きと言う訳でも無い。

 教室前に立つ、また何か言われるかもしれないが、今はもうどうでもよくなってしまった。椎名は僕に会いたくない、だから僕はもう椎名とは会わない、椎名のことで僕に何を言おうとも何にも関係が無い。僕と椎名の間にあったものは途切れて、今はただの知り合い、いやもう知り合いでも何でもないのかもしれない。

 ため息を吐き、ドアをゆっくりと横に引き、教室内に入るといつもの空気とは違っていた。

 今まで、僕に何かを言っていた連中は、僕の方をチラチラ見てきて、妙によそよそしい。

 その中から一人の女子がこっちに来て、僕に頭を下げ始めた。

 「一条君。あの、ごめんなさい。」

 今までこんなにもしっかり目の前で謝られたのは初めてだったので、僕は動揺してどうすればいいか分からなかった。

 「いや…別に、いいよ。」

 一言、僕はぼそっと相手に聞こえる位で言った。

 そう言うと頭を下げていた女子は顔を上げて、僕にニコッと笑顔を見せた。

 その女子に続いて他の僕をあるものに仕立て上げた人達が続々謝って来た。僕は動揺したが一人一人に許すと伝えた。

 その時僕はある疑問が浮かんだ。なんでこの人たちは僕に謝るんだろう。

 「あのさ、何で…僕に謝るの?」

 理由は、どうでもよかった。何故、人は人に対して謝るのかを知りたかった。今まで、椎名しか人付き合いが無かった。友達と呼べる人がいなかった。謝る、謝られる事が無かった。そもそも他人に興味を持てなかった。好きな人、嫌いな人、何もかも分らなかった。たった一人で本の世界に籠っていた。でも今、僕は謝られている。謝っている人を目の前にしている。それもただのクラスメイトで、僕のことを誤解をして、嘘の情報を流し、僕を貶めた人達だ。でも今、目の前には僕に謝っている人がいる。

 「それは、私たちが言うのは変だけど、一条君を誤解して不快に思って、嘘のことを言いふらしたから。これはただ間違っていることだから。」

 一番最初に僕に謝った女子が僕に説明をしてくれた。

 僕の何かが壊れた音がした。

 そして、椎名の顔が浮かんだ。椎名の顔は笑っている。

 その時、ハッと思いだした。「おトモダチ」のことを。

 そして、今まで言ったことの無い言葉が僕の口からスッと出てきた。

 「皆さん。もし…良かったら。お、おトモダチになってください。」

 そう言って時、僕の頬に何かが流れていくのを感じた。

 頬を手で拭うと手が濡れているのを感じた。

 涙だった。

何故かひたすら涙が目から出てきて、止まらなかった。

それを心配したクラスメイト達が僕に寄ってきて「大丈夫?」と訊いてきた。僕は、「大丈夫。」と声になっているのか分からないが返した。

そして教室内のクラスメイト達が僕にさっきの返事を返してきた。

「いいよ。」

と、それと同時に何故かクラスの何名か泣き出して、それにつられて他の人も泣き出した。そして拍手も起きた。

不思議な空間だった。

僕は泣いているが嫌という訳でもない、むしろ僕は涙を受け入れている。そして他のクラスメイト、いや友達も涙を受け入れていて誰も今の空間を壊す人はいなかった。

だがたった一つ欠けていた。

その場にいたなら僕を祝福し、友達も祝福し、一緒に泣いてくれる人が欠けていた。


朝のホームルームの時間になって担任が入ってきた。

「ホームルーム始めるよ。って皆泣いているけど、どうしたの?」

担任が困惑すると一人が笑いだして、それにつられて僕も笑って、皆が笑った。

担任は何かを察したのか、担任も笑った。

「じゃあ皆席に着いて。」

少ししてから担任が僕達を席に着くように促した。そして一人一人の出欠を確認した。今までは気だるかったものが何故か嬉しく感じた。

ホームルームが終わった後、何人かの友達になりたてのクラスメイトが僕の周りに寄ってきて、話しかけてきた。

たった五分だったがとても幸福な時間だった。

初めて友達と呼べる人達と他愛の無い話ができた。僕は初めて友達と言うものを知った。

その後の授業も楽しかった。帰るまでひたすら友達と話した。

そして何故僕に謝って来たのかも分かった。クラスの全員に椎名が誤解しないようにと僕のことをメールや電話で言ったり送ったりしたらしい。

それを聞くと椎名に無性に会いたくなった。

僕は、また椎名に会いに行くことを心に決めた。

次は冬休みに会いに行くか、考えた。椎名は僕に会いたくないのかもしれないが、それでも一言、感謝を言いたかった。

もし、それでまた会ってくれるなら、言う事が出来たら、あの事を言おう。

僕は茜色に染まった空を見て、心に決めた。

だが椎名には会う事が出来なかった。


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