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二話 月夜の森、目を覚ます


 俺は死んだ。

 よく分からないアグレッシブ通り魔に刺されて、無理に動いて死んでしまった。

 というかアイツなんなんだよ、足速すぎでは?

 あんなのから二人を守った俺偉い。よく頑張った。

 負けが確定したゲームで引き分けに持ち込んだぐらいには頑張った。

 さて、死んだ俺だが、なぜか今思考することが出来ている。

 真っ暗な闇の中、動くことは出来ないが思考することは出来ている。

 俺は死んだはずだ。確かに、刺されて、死んだはずだ。死んだはず………死んだはずだよな?

 段々分からなくなってくる。

 真っ暗な闇の中、何故か心地よい風を感じる。

 手のひらに熱を感じて、それが段々と体全体に広がる感覚。


 何故か、俺は目を開くことが出来る。


「………、ここ、どこ」


 死んだはずの俺の視界に、森が広がっていた。

 暗いが、開けた場所のようで、中央が月明かりのスポットライトで照らされている。

 月明かりで星は見えない。月が出ていない日なら、綺麗な星が見えるだろう。

 俺は、木の幹に背中を預ける形で空を見上げていた。

 柔らかな風が頬をなでて、葉同士の擦れ合う音が聞こえる。

 ここはどこだ。生憎、俺は森に足を運んだ記憶はない。なんたって俺は死んだはずだから。


「なんで………」


 可能性としては、実は生きてて、俺は夢遊状態で森へ足を運び、目を覚ましました。

 いやー、無いな。無いと思う。有ったらショックだ。

 開けた場所の中央に、見たことのない鮮やかな赤を持つ鳥が飛んでくる。

 それを見て、俺の頭に「鳳凰」という単語が浮かんだ。


「かっこいい………小さいけど」


 すると、鳳凰(仮)の黒い瞳がこちらに向けられた。

 途端、殺気を感じて肩が跳ねる。

 鳳凰(仮)の目はキッと細められていて、完全にこちらにガンを飛ばしている。

 今にも嘴連突攻撃か翼で連打攻撃かかましてきそうな雰囲気だ。焦る。

 待て待て、俺は手負いの身――-


「………あれ、傷は?」


 すぐに腹を見る。そこには血で汚れ、引き裂かれた制服があった。

 恐る恐る、傷口があるはずの場所へ手を伸ばす。

 黒くなったブレザーと、赤茶色のワイシャツを避ける。

 そこには、綺麗な肌があった。

 傷口も傷跡もない。まるで刺された事実など無かったような。


「どういう――-」


 ことだ、そう呟く前に近くで一際大きく木が鳴った。

 同時に、いくつかの気配を感じることが出来るようになる。

 低い唸り声が周囲から聞こえ、緊張で体が固まった。

 薄く開いた口を空気が出ていき、また入り込む。

 先程までいた鳳凰(仮)はいつの間にかどこかへ飛んでいってしまった。

 殺気だ。鳳凰(仮)の殺気とは違う、切羽詰まった殺気。


 ゆっくりと立ち上がり、周囲を見回す。

 姿は見えないが、低い唸り声はずっと聞こえている。

 そこで、手元に何かが当たった。視線を落とすと、黒い細長のケースがあった。

 ………よくわからんがナイス!

 俺の竹刀ケースだ。何かを考える前にそれを手に取る。ケースの傷も、綺麗に消えていた。

 重さから、中に竹刀が入っていることは確認できたる。

 周囲を警戒しながら、出来るだけ素早く竹刀を取り出した。

 ケースを地面に捨て置き、竹刀を構える。


「……………。」


 緊張で、手に汗が滲む。俺の記憶に限って言えば、つい先程アグレッシブ通り魔と刃を交わしたばかりだ。一体何が出てくるのか。

 木の葉の擦れ合う音が、次第に大きくなっていく。

 竹刀を握る両手に力を入れ直した。

 直後、右から黒い影が飛び出したのが見えた。

 右足を後ろに引き、竹刀を横に払う。確かな手応えが腕に伝わり、黒い影が吹っ飛んだ。


「………狼?」


 吹っ飛びつつも地面に降り立った器用なそれは、狼に見える。

 ………え、日本で野生の狼?

 いろいろな意味で汗が流れた。

 俺が身を引いたのに気づいたのか、周りを囲んでいた仲間の狼が姿を現した。

 どうやら、最初に打った狼はリーダー格だったらしい。

 よく見れば目の下に古い傷がある。ちょっと格好いい。

 謎の感動を覚えていると、背後から地面を蹴る音がした。

 振り返ろうと足を動かすが、視界の端で別の狼が動いたのを確認して、体が硬直する。


「……………っ」


 残念ながら、試合も実戦も一対一しかしたことがない。

 これはもう確実に狼の餌ルートだ。

 餌になる覚悟も出来ないまま、唇を噛む。


「伏せてください」


 その時。芯の通った、しかし女の子らしい声が耳を打った。

 

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