御方金五郎〈みかた きんごろう〉Part1
陽季「海沿い歩いてればあいつら見つかんなくてもこんだけ広いんだ、道路とか見えるだろ」
浩太「なーんでこんなとこいんだろうな〜山ん中で木集めてただけで、もしかしてタイムスリップでもしちまったんじゃねぇか!?」
ハハハと笑いながら言う浩太も内心気が気じゃないようだ
意味不明な事態に加えて彼は、両親が月に2回帰って来ればいい方で、家では兄弟の世話をしている
陽季「タイムスリップしても海じゃないだろあそこは」
浩太「わかんねぇぞ〜恐竜時代だ!」
陽季「はぁっ...こういうときに金五郎がいてくれたらなぁ」
浩太「あいつに投げてもらったらもうみんな家だなぁ〜」
金五郎とは恰幅の良い体をした相撲部の期待のエースだ
1番の自慢はその怪力で、遅刻したとき校門を捻じ開けたという根も葉もない伝説がでるくらいだ
そんな話をしながら1時間ほど歩くも一向に人工物の気配すらない
右手に見えるのは広大な海
左手にあるのは雄々しいジャングル
高校生の彼たちも所詮は子供
焦りはじめていた
そんな中、ジャングルに相応しいTPOを弁えた雄々しい声が聞こえた
「ぶぁぁあぉぉぉ!!!」
陽季「金五郎〈きんごろう〉!?きんごろー!」
浩太「うぉぉお!きんごろー!!!」
ジャングルの中に走っていった
声のする方へひたすら走った
見たこともない巨大な樹が跋扈するジャングルの中など気にせず、ただただ走った
「「ぎゅるがぁあ!!」」
先に陽季が気づく
立ち止まった陽季に釣られ浩太も止まる
声の主は金五郎ではない
いや、先刻のは確かに金五郎だった
2人は声の主に震えた
この来た方向もわからなくなってしまったジャングルで、声の主と遭遇しないことを祈った
しかし奴らはやってくる
「「ぎゅぎゅるる」」
大きな葉を掻い潜り犬なのか猪なのかわからない生き物が3匹、10mほど前から距離を詰めてきた
陽季「こ、浩太...」
浩太「走って逃げる...?」
犬なのか猪なのかわからない異様な生き物に後退りをしながら小声で喋る
口からは涎が垂れ、目は赤く、土に汚れた指先からは鋭利な爪が見える
不幸中の幸いか、熊のような大きな生き物ではないだけまだ、2人はパニックにならずに済んだ
陽季「逃げるぞ...1...2...」
3で逃げる直前
「「ぎゃあおおる」」」!
間に合ったのは振り返る動作までだった
3匹の中で1番のガタイを持つ生物が飛びかかってきた
2人にできるのは怯えた顔で攻撃を待つだけだった
「ぎゃうん!!!」
2人は目を開けると、かの生物は地面に横たわり、3匹は一目散に逃げていった
金五郎「おまえらぁあぁぁぁあ!!!!大丈夫かぁぁ!」
次に現れた生物は大きな木の棒を持った金五郎だった